アルコーンに初めて会ったのは、アメリカでバス事故に遭遇した時だった。
あの時オレは、病院に搬送される前に、砂漠近くの空軍基地に連れていかれた。
そこでアルコーンはそれまで使っていた肉体を捨て、オレの中へ侵入した。
アメリカは日本人の体が欲しかった。
日本でスパイ活動するのに、外国人では目立ち過ぎるからだ。
日本でМIOYAグループを探る為、そのお膝元である日高見学園に潜入する為。
それは、何年も、人の一生程もかかる、長い長い計画になるはずだった。
「よお、久し振りじゃないか、アルコーン」
「・・・・、そうだな」
「どうしたんだ? 珍しいじゃないか」
「どうした、だって? 会いに来たのはタスキの方、だろ?」
「ん? そうだっけ?・・・・、ちょっと待て、うん、・・・そうだ、そうだな」
「で? 何か用かな?」
「ああ、なんかあったような気がしたけど、忘れちまったぁ。あんたの顔見たらさ」
「ふうん、そうかい。ならイイんだが・・・。」
「なんだよ?」
「え? いやね、ホントに何にも無いのかな、って」
「ああ、大丈夫。ただ、ちょっと、話したかっただけだよ」
「そうかい。ならいつでもおいで。私はいつもここに居るから」
「うん、知ってる。あっと、それから、あいつをちょっと借りてくぜ」
「へぇ、イイけど、問題無いのかい?」
「ああ。少し考えを改めさせてやらないといけない可哀そうな奴が居てね。そういや、あんたのお仲間らしいよ? 『魂喰い』ではないみたいだけど」
「ふうん。ま、ホントの意味で私の仲間は君以外居ないんだけどね」
「おだてても何にも出ないぜ?」
「そんなもの期待してないよ。ただ私は君が・・・」
「イイよ、それ以上言わなくても分かってる」
「ならイイ。じゃ、行ってきな。私はいつも君と共に在る。それを忘れないで」
「ああ、またな」
「おい、瓜生、起きろ。これくらいで意識を失ってもらっちゃ困るんだよ」
目を開けると、そこにはAEDのパットを手に持った九条魚名が不遜な笑みを浮かべて見下ろしている。
「ああ、九条かぁ。まだ居たんだ・・・」
「まだそんな口をきく余裕があるんだな。驚きだよ、まったく」
それはこっちのセリフだ
度重なる電気ショックのせいで、体中が痛ぇ。特に頭の中をミミズが這ってるんじゃないかってくらいズキズキする。
ハァ、相変わらず体は椅子に固定されたままか。
「そろそろ有益な情報を吐いて欲しいんだけどなぁ。御祖の奴らが裏山に隠し護っているアレの正体は何か。御祖の内部情報、御祖家、そしてスメラギとはいったい何なのか。さぁ、我々の内でもっともスメラギに近づき、今も近くに居る君なら、これらの事に対する答えを持っているはずだ。ボクだってこんなこ酷いこと、好きでやってる訳じゃないいんだよ? とっとと楽になろうよ、お互いに」
「ハッ、笑えねーな、そんなジョーダンじゃ」
「・・・・・、何が言いたい?」
「オレを笑わせたきゃ、もっとイイネタ持ってきな」
「・・・、見返りを求めてるのか? 情報と交換で? ハハハ!! こいつはイイや。やっとスパイらしくなってきたじゃないか、ええ?」
「そう見えるか?」
「ギャハハハ!!! 命乞いはしてもイイ、だけどな、それは無駄だ。言いたくはないが、どっちにしろおまえは殺す」
「はぁ、そうかい」
「そういう事だ。僕も上からの命令でね。悪く思わないでくれよ、瓜生襷君。では、この辺で最後にしようか。何か吐く気になったかい?」
「残念、こっちも最後のチャンスをやったんだけどな、やっぱダメか」
「それがこの世への別れの挨拶か?」
九条魚名はそう言いながら、電気ショックのパットを掲げた。
「九条、おまえには、3千年分の記憶があるか?」
「は? とうとうおかしくなったか?」
「3千年、ずっと、ずっと、まともに眠ることも出来ず、誰も信用出来ず、心安める事も出来ず、好きになる事も愛する事も心許す事も出来ず、死ぬ事も許されず、ずっと隠れて、裏切って、戦って、偽って、殺し続けてきた魂を、記憶を、3千年抱えて生きていたら、おまえならどうする?」
「な、何を言って・・・」
「その地獄の業火のような魂を抑え込んだ結果がこれだ!!」
「おまえ、いったい」
「テメーなんぞに3千年かけてやっと手に入れたものを、掠め取られてたまるか!!」
そこでようやく事の異常さに気付いたように、九条魚名は電気パッドを手放し、懐に入れた拳銃に手を伸ばした。
遅いぜ。もう、何もかも遅いぜ。
「いつまで寝てるつもりだ? いい加減起きろよ、ビースト」
今、地獄の蓋は開かれ、怨恨と憎悪と憤怒と殺戮の人の形をした獣が解き放たれた。
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