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藤巻舎人 脳内ワールド

藤巻舎人の小説ワールドへようこそ! 18歳以下の人は見ないでネ

   

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私立日高見学園(8) 万木非時

「トキジク、朝から急に呼び立ててすまん」
開け放たれた縁側で新緑眩しい日本庭園を眺めていると、部屋の奥から声がした。
「スメラギがお出かけあそばしになられていることは聞いているか?」
「はい」オレはすっと腰を上げ、真っ直ぐに声の主を見る。濃い藍色の着流し姿の凛とした美丈夫、奇杵唱(クシキネ トナウ)さんだ。「なんでも野暮用とかで・・・」
トナウさんは、御祖、奇杵、沫蕩(ミヲヤ、クシキネ、アワナギ)、のスメラギ御三家の一つ、奇杵家の当主。御年40歳。
ふむ、と呟いて顎に手をやる。
「困ったものだな」
しかしその表情はまったく困った様子が見えない。無表情、というか沈着冷静が似合う。
オレは唱さんの言葉を待つ。この日高見の邸に呼ばれるということは、よっぽどのことなんだろう。

「いや、なに。今日未明から、すべての結界が消失してな」
「・・・、え? 消失?」
「うむ、ついでに電子的物理的セキュリティもな。それで未だ回復の目途がたっていないのだよ」
ちょちょちょ、ちょっと待て!!
それはとんでもない緊急事態だぞ!?
っていうことはこの辺一帯、というか裏山、そしてあの中御座(ナカミクラ)までも丸裸同然ということじゃないか。それは3月のスペースシャトル墜落以上だ!!

「しかし、そんなこと有り得るんですか?」
「うん、まぁ、現に有る訳だからなぁ。目下復旧に取り掛からせているのだが、思うようにはかどっておらんのだよ。どうやら、なにか障害があるようでな」
「何ものかが阻んでいると。そして原因もそのものに・・・」
「自然現象でなければ、そうなるやもな」
唱さんはまるで他人事のように言った。
うーん、冷静過ぎるっていうのもいかがなものか。
ていうか自然現象ではないだろう、磁気嵐じゃあるまいし。
まぁ、そこんところは既に承知のはずだろうけど、それにしても信じられない。
「頼みの綱のカンナギ達や遠見達の力がまったく働かなくてな。ま、それが結界消失の一因ではあるのだが。それで今、菊桐姫(キクリヒメ)に禊の支度をお願いしたのだよ」
なるほど、最善ではないにしろ、最高にして最終の一手は取られているのか。

「現在我々は目と耳を失っているも同然だ。何が出入りし、何が語られているのか知る術もない。が、全力を尽くしてはいる。いや、そうする以外にないのだ」
「そうですね。おっしゃる通りです」
「では、トキジクよ、おまえはおまえの成すべき事をしてくれ。それは十分心得ているだろ?」
「はい」
「スメラギの御心のままに」
と立ち去ろうとするオレに、トナウさんは声をかけてきた。
「ときにトキジクよ、朝飯はもう済ませたのか?」
「いえ、まだ」
「今朝、上等な鰈(カレイ)が手に入ったそうでな、美味い煮付けがあるのだが、どうだ?」
この邸の料理はすべて絶品なんだが、うーん、今日は止めておこう。こんな事態じゃなかったら飛びついていたのになぁ、くそぉ、なかなか無いチャンスなんだぞ。
「いや、今朝は止めときます。すべて片付いたら、そのときは是が非でも」
「うむ」
トナウさんは頷いて、静かに微笑んだ。
常に余裕なのか、器が大きいのか、それとも危機感が無いのか。
掴めない人だ。
それでも、頼りになるんだよな、絶大に。


オレは御祖家の人間じゃない。
雇われている訳でもない。
だから御祖家の人間に従う理由は無い。
スメラギ唯一人と契約を交わしているんだ。
御祖家がどうなろうと、MIOYAグループがどうなろうと、スメラギのオーダーを最優先とする。
それはオレが生まれた時から決まっている事。
いや、つくられた時から。
スメラギと、その眷属達によって。
不老であり、通常の人間とは次元を異にした身体能力、肉体構造。
それはもはや人とはいえない代物だ。
人の形をした異形。
今ではそれをそれをちゃんと理解してくれているのはスメラギだけだ。
人ではないのだと・・・。

ああ、あの頃に戻れたなら、なんて幾度も思っていた。
オレがつくられたあの時代。
まだカミガミが地上に居て、ヒトと交流を持っていた。
そして、そこには、春日麿が居た。

「おい、春日麿、起きろ、起きろ」
寮の部屋に戻って、まだ寝ている春日麿を起こす。
「う~ん、ダメだよ万木君、噛んだら痛いよぉ」
「なに寝ぼけてんだよ、起きろ」
「あれ、もう朝?」
「ん? まだ登校には早いけどな」
「え~、じゃあナニ~、早朝からするのぉ? 昨日沢山出したから、もう出ないかもぉ」
「だから、なんでおまえはそんなにカワイイこと言ってんだよ、違うって」
たく、ホントに襲っちまうぞ。

「オレ、今日は学校休むわ。もしかしたら、明日もかもしんねえ」
「へ? 具合でも悪いの?」
「そうじゃない」
そこでオレは言葉を止める。
パジャマ姿の春日麿は眠そうに目を擦りながら、起き上がって机の上の眼鏡に手を伸ばす。
眼鏡の奥で、まだ半開きの目が、オレに向けられる。
「ヨロ、キ、君?」
何かを感じ取ったのか、どこかがおかしいといった感じの顔をする。
「少し、留守にする。その間、おまえの力になれねえかもしんねぇ。だけど、自分を信じろ。何があっても、だ」
「ど、どうしたの急に? なんかあったの?」
「友達も信じろ。何かあったら守ってやれ。おまえにはその力がある」
「う、うん、分かった・・・」

春日麿。
やっと逢えたんだ。
一万年待ったんだ。
絶対に、守る。護る。
おまえを。そしてオレ達の日常を。
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私立日高見学園(7) 瓜生襷

「これにてホームルーム終わり」褐色の肌の転任教師、龍樹は教卓の上で名簿やファイルを閉じた。「では、か弱き仔羊諸君!! 今日も一日学道に励むように!!」
そう言い残して教室を出て行った。
爽やかな笑顔で。
普通に見たらえらいハンサムだ。
長い髪を後ろに撫で付け、挑発的にもとれる誘惑するような目、すっと通った鼻筋、少し肉厚な唇に笑顔が似合う口。身長だって180cm以上あるんじゃないか?
しかし明らかに普通じゃない。異常事態といってもイイくらいだ。
オレはあの日、屋上であいつに会っている。
しかも学生の姿のあいつと。


「やあ、こんにちは。良いお昼ですね」
こんな外国人風の生徒、見たこと無かった。
いつからここに居た?
ずっと居たのか?
「こんなに気持ちの良い場所なのに、あまり人が来ないんですね、ここは」
褐色の生徒は、目を閉じて風の感触を楽しんでいるようだった。
「オレ達は良く来るけどな」
確かに、あまり、というか屋上で人を見かけたこと無かったなぁ。この一か月余りだけど。
「どうしてでしょうね? 結界でも張っているのかな?」
目を開き、試すような問い質すような視線をこちらに向ける。腹立たしい程の笑みを浮かべながら。
その時、オレは恐怖を感じた。
身も凍るような、真正の恐怖を。
こいつ、いったい何なんだ?
このオレが圧倒されていた。
こんなの、あの御祖香久夜と対峙した時以来だ。
そういや、どっか雰囲気似てら。
「あなたは、随分と面白い魂の状態でいらっしゃる」
「・・・・・・」
「どうしてそこまで、一番辛い道を選択するんですか?」
「・・・・、行きはよいよい、帰りはこわい、ってな。知ってるか? この歌」
「選ぶ以外無かったと・・・」
「ま、どうとでも」
「ふふふ、面白いですね。ますます面白い。ここはやっぱり退屈しなくて済みそうですよ」
「退屈? 下らねぇ。そんなの無知な奴がするもんだ」
「では全てを知っているものは?」
「はっ、だったら神様もさぞ退屈なさってることだろうよ。そんなの居ればの話だけどな」
「アハ☆ 素晴らしい答えですね。好きですよ、そういうの、スゴク」


そんな会話をした。
屋上で。
あの日から、心がざわつくんだ。
クソ、とりあえず、直接訊いてみるか。気が進まないけどな。
オレは龍樹を追って、教室を出た。
席を立つ時、隣りの席の春日が幽霊でも見たような青い顔してたけど、今はそんなの構ってられない。

階段の踊り場で下におりる途中の龍樹を呼び止めた。
「おい、あんた、ちょっと待てよ」
龍樹はつと足を止め、オレはようやく追いついた。
「なんだね? 迷える子羊ちゃん。私に用かな?」
仔羊ちゃん? なに言ってんだ?
ていうか、こいつオレに気付いてない?
まさか忘れたなんて言わせねーぞ。
「なーんだ、つれないなぁ、初対面でもないだろ?」
明らかに『?』という顔をしてオレを見ている。マジでか?
「おいおいマジすかぁ? あんた学生の制服着てたし、もうちょい若く見えたけど、あれは間違いなくアンタだったぞ? オレは直接話したんだ」
「ああー、なるほど」そこでようやく合点がいったという晴れやかな顔になった。「すまんね、ある程度情報の共有はしているつもりだが、わざと隠したのか、それとも伝えるほどでもないと思ったのか、ま、関係なんいんだけどね、そんなの」
今度はこっちが『?』の顔をする番だった。
いったいこいつ・・・。

「なんの説明も無かったのか、まぁ、そこでいきなり言われても信憑性無いだろうけどね。率直に言えば、君が会って話したのは、正真正銘紛う事無き100%私だよ。ただし、もう一人の私、ということになるがね」
「確実に年齢は違ったぞ」
「私には年齢や外見や性別すら関係無いと言っておこう。他ならぬ君ならば説明は要らないと思うのだが?」
龍樹はあの学生服姿と同じ不敵な笑みを浮かべた。
「簡単に言うと『エイリアス』みたいなものかな」
「簡単に言うな」
そこで始業の予鈴が鳴った。
「ほら、もう時間だよ。勉強は大事ですよ☆」
どの口がそんなことを言っているのか、甚だ疑問だった。
「気に食わないな。そのなんでも知っているみたいな口振りが」
「知りたいと思ったことは知っているけど、知ろうと思わないことは知らないんだよ」
「なんだよソレ」
「言葉通りのことさ。それと、ちゃんと敬語を使わないとダメだよ。これでも私は先生なんだから。ま、関係無いけどね☆ じゃ、また」
龍樹は軽く手を振って、階段を下りて行った。

私立日高見学園(6) 佐伯主税

よっし、決めた!!
なんとかして遊びに行くぞ!!

朝練の後、部室でスパイクを脱ぎながら心の中で宣言してみた。
とはいったものの、練習に休みなんて無いし、帰りは遅いし、それからってのも無理あるし、うーん、ハードル高ぇーな。
ま、難易度高い方が燃えるってか?
逆にヤル気でるぜ。
つーかどこ行こう、どこに遊びにいこう。

「サエキー。今頭の中は野球で満たされてるか?」
突然背後から声をかけられた。
「わっしょーーいぃ!!!」
余りに驚いたので奇声を発してしまった。
「・・・・神輿?」
「お、おう、頭の中が野球で一杯過ぎて祭り状態・・・・」
声の主は案の定、下照幟だった。
「すげーニヤついてたぞ?」
「うん、祭りは楽しいもんだ」
「まぁ、な」
う、疑われてる?
スゲーじろじろ見られてるし。
思いっきり錦と出掛けることで頭一杯だったんだけど。
オレは誤魔化すように汗で濡れたTシャツを脱いだ。

「佐伯さぁ、4月に比べたら随分体出来てきたよなぁ」
「え? カラダ? そうかぁ?」
ハハハ、なんて薄ら笑いを浮かべながら、両腕をぐっと曲げてポーズなんてとってみせる。
すると背後に居た幟が、後ろから腕を伸ばしてオレの両乳首をムニっと摘まんできた。
「あんっっ!!!」
驚きと衝撃で思わずのけ反ると、後頭部が後ろの幟の顔面を強打してしまった。
「ぐわっ!!」
「うわ!!、ノボリ!! 大丈夫か!?」
すぐさま振り返って顔面を抑えて屈んだ幟を覗き込んだ。
「痛っ、痛って~」
「鼻とかなんともないか!?」
鼻骨とか骨折してたら大事だ。
「大丈夫だよ」鼻の辺りを手で押さえて片目を瞑りながらも立ち上がった。「たく、どんだけ感じてんだよ、竹生先輩とタメ張るぜ」
感じてる、なんて言われて、今更ながら恥ずかしさが込み上げてきた。
「今度覚悟してろよ、ぜってー犯しちゃる」
そう言って、悪代官のようにニヤリと笑った。
うう、似合ってる、そういう笑い方。

着替えを済ませて教室へ向かう道すがら、幟が訊いてきた。
「祭りっていえばさ、おまえ行くの?」
「へ? 行く? どこへ?」
「佐伯地元だろ? 裏山の神社の五月祭りだよ」
幟の隣りで竹生先輩がエビス顔で言った。
言わずと知れた、幟と付き合ってる竹生雄友(タケフ オトモ)先輩だ。
柔和で気配り上手で、けど大事な時には厳しい、野球部の主将。
先輩達の間では、『オトモー』とか単に『トモー』だったり、たまに『オテモヤン』なんて呼ばれてたりする。
二年生やオレたち一年生は普通に『タケフ先輩』だ。
大抵の人から好かれる、人気者だ。

「ああ、小さい頃よく行ったけど、最近は全然だったなぁ」
「神輿とか行列とかあるし、夜店が出るからな」
「そうそう、オレ、楽しみなんだー。もちろん竹生先輩と行くんだけど」
二人で行くんだぁ。イイなぁ、そういうの。
けど、オレ達は三人がイイなぁ。オレと錦と瓜生。
錦と二人きりもイイけど、やっぱ楽しいのは三人でするのが好きだな。
祭りの夜店なんて久し振りだぁ。あいつらもそうかなぁ。みんなはしゃぐだろうなぁ。

「へぇ・・・、けど練習は?」
「日曜だし、夕方には終わるよ。それにちょい早めに切り上げるって言ってたぜ、監督。そーゆー地域活動に参加することも大事なんだってさ」
いつも頬が赤い竹生先輩は、細い目を更に細めて微笑んだ。
この人の笑顔と言葉って、ほっとさせるなぁ。
こんな先輩が、幟とあんなコトやこんなコトしたり、幟にあんなコトやこんなコトさせられたりしてるのかぁ。
「おい佐伯ぃ、おまえ今やぁらしぃ事考えてたろ?」
「は? バカ言ってんじゃねーよ、なんでそんな事オレがするんだ!?」
「先輩、こいつスゲーむっつりなんすよぉ、今ぜってーエロい事考えてたって」
「なんだ佐伯ぃ、エロい事は悪い事じゃないぞぉ?」
「いや、だから・・・」
「あーー!! もーー!! 佐伯がエロいからオレむらむらしてきたー!!」
「バカ、声でけーよ。だから違うって・・・」
「先輩、オレ、我慢できなくなってきた、ちょっと、トイレ行こ」
「え? ここで?」
「イイーじゃんすかー、ね?ね?、すぐ、すぐ終わらすから」
「なんかヤダなぁ、そういうのぉ」
「ホントすかー? ヤダとか言って、ィヤじゃないくせにー」
「な、なんだよソレー」
「ま、イイからイイから、ね、行こ、トイレ。ささ、早く早く」
二人漫才の後、幟は竹生先輩の手を引っ張って、人気のないトイレの方に行ってしまった。

えええええーーーーーー!!!!!
ナニそれ!!!???
そんなのアリ???

私立日高見学園(5) 瓜生襷

嫌な夢、というか、非常に疲れる夢をみていた、気がする。
気がする、というのは、夢の内容を覚えていないからだ。
早朝目が覚めて、徹夜をしたんじゃないかと思うくらい、体がぐったりと重かった。
何度も何度も、同じ事を繰り返して、成功しても失敗しても、またやるべき事が待ち構えている。山積みになっている。果てしなく続いているのが見える。
そんな輪郭のの夢だった。

あの日以来、気分がすぐれない、落ち着かない。
ざわついている。
震えている。
振るえている。
奮えている。

久し振りなこの感覚。
昔に戻った気分だ。

良くないのか。
悪くないのか。

目覚まし時計より早く起きてしまったけど、ありえないくらいに意識がクリアだったので、二度寝せずにベッドから抜け出した。
いつもはこんなに寝起き良くないのに。
顔を洗い、コーヒーメーカーをセットし、ベーコンと、チーズをのせたパンをトースターに入れ、レタスとトマトの輪切りを準備し、カップにコーヒーを注ぎ、ネットでニュースをチェックした。
パンが焼けたら、レタスをトマトとベーコンを挟みBLTサンドにして食べた。
これがだいたいの毎朝の行動。

両親は仕事で海外に行っている。この2LDKのマンションには今、オレ独りだ。
淋しくない、といえばウソになるかもしれない。
だけど人は慣れていく生き物で、なんとかなってしまう。
むしろそっちの方が淋しい。
いろんな事に慣れていく。状況適応、適応能力。
それは麻痺していくこと、鈍麻していく、鈍磨していく。
まぁ、学校に行けばいろいろあるし、部活もある。
淋しいと思う間も、そんなにある訳じゃない。
それに両親とは、今はまだ距離を置いておいた方が都合がイイ。
それはこっちの都合だけどな。

ジャージに着替えてから、入念にストレッチをし、外へジョギングに出る。
4㎞走る。これも日課。
途中の公園で休憩、そして太極拳や功夫などの動きを取り入れたオリジナルの体操、及び型のエクササイズ。
それで家に帰ってシャワー浴びて、ようやく学校へ。
自転車で駅まで行き、それから一駅、そこから更に自転車。
朝から疲れる、と思われるかもしれないが、それ程でもない。
むしろこれ位しないと、体が鈍ってしまう。
別に鍛えようとか何かの大会に出るとか目標がある訳じゃない。
単に状態の維持だ。
常に一定レベルの状態を保っておく。
いつ何時でも、状況に対応出来るように。
何の為に?
いったいどんな状況に対応する?
それは・・・。

「オッス、瓜生」
駐輪場で声をかけられた。
自転車に鍵をかけて顔を上げると、佐伯がカツカツとスパイクを鳴らしながら歩いてきた。
「佐伯かぁ、なんか久し振りだな」
「そうかぁ?」
「あ、いや」
おっと危ない危ない、錦の影響が出ちまった。
「そういやさ・・・」
佐伯が言いかけたところで、一緒に歩いていた野球部員が「じゃ、先行ってんぞ」と言って歩いて行った。佐伯は「おう、直ぐ行く」と答えた。

あ、あいつ知ってる。
下照幟。
佐伯と並ぶ、いやそれ以上に期待の野球部員。
ふぅん、結構仲良さそうだなぁ。

「で? なに?」
「あ? ああ。今度さ、どっか遊びに行かねぇかって、みんなで」
「みんな?」
「そう、錦と三人くらいで」
「ああ」そこでちょっと間を置く。「イイけど、おまえそんなヒマあんの? 練習スゲーんだろ?」
「うーん、ま、なんとかしてみる」
「へぇ、ならイイんじゃね」
「じゃあ、またな」
「おお」
ふうん、これはどういう展開なんだろう、と考えを巡らそうとしたら、歩いて行った佐伯が振り返って訊いてきた。
「そーだ、ウリュウー!」
「んー? なに?」
「最近、髪型変えたかー?」
「え? 変えてねーぞ?」
「あ、そう。それだけー!!」
「・・・・・・」
佐伯は大きく手を振って行ってしまった。

「よーっす、カスガマロー」
自分の机にカバンを置きながら、隣の春日の頭をポンと叩いた。
「あ、おはよー、瓜生君」
どかっと席に座ると、春日が何か言いたそうにこっちを向いていた。
「ん? どうした。今日はちゃんと居るんだな」
「い、いつも居るよぉ」と顔を赤らめて俯く。「あの、そのカスガマロっていうのは・・・」
「ああ、悪ぃ悪ぃ、そう呼んでイイのは万木だけなんだよな」
茶化すように言ってみた。
「いや、なんか、それは誤解を招くような・・・」
「誤解ってどんな誤解だよ~。寮は一緒の部屋なんだろ? いろいろ聞いてるぜ」
「え~!!?? 万木君に何聞いたの~!!???」
耳まで真っ赤にして、春日は立ち上がった。
「別になんも聞いてねーよ」
「え?」
「その反応は聞かれちゃマズイことしてるってことだよな」
「ううううう~」
ヤバ、眼鏡の奥で涙目になってる。やり過ぎたかな?
「コラ~、ウリュウ~、朝っぱらから春日いじめてると万木が飛んでくるぞ~」
「に、錦く~ん」
錦がニヤニヤしながらやってきた。
「春日、許してくれ!! 毎晩万木とエッチなことしてるなんて言ってゴメン!!」
オレは春日の腕に大袈裟にすがりついた。
「だ、だって万木君には絶対誰にも言わないでって言っておいたのに、恥ずかしいからって言ったのに~」

「・・・・・・」(X2)

マジだったんですか?
あらら~、認めちゃったよ~、自分でバラしちゃったよ~。
ホント、まじめか!!? って、かわいいやっちゃのー。

さて、ホームルームの時間だ。
しかし担任の先生ではなく、教頭が入ってきた。
「えー、担任の大伴先生が、急病の為、長期療養に入ることになりました」
「えーーーー!!」
クラス全員が声を上げる。
急病? なんか胡散臭いなぁ。
「大伴先生に代わりまして、今日から新しい先生がここの担任になります」
教頭が廊下に居る転任教師に声をかけた。
そして入ってきたのは・・・。
「初めまして、みなさん!! 今日から担任を任せられた、ナーガールジュナです。漢字だとこう書きます。龍樹(リュウジュ)と呼んで下さい!! 担当科目は前任の大伴先生と同じで世界史です。よろしくどうぞ!!」

とりあえず、教室全員がしんと静まり返ってしまった。
それはそうだろう。だって外見がどう見てもインドや東南アジア系なんだから。
それがあんな流暢に日本語を話されたら、誰でも驚くと思う。
しかも外国訛りなんて微塵もなく、完璧に完全に生まれも育ちも日本です的な人間の話し方だった。
あ、もしかして外国語しゃべれない外人さんなのかもな。
なんて悠長なこと考えてる場合じゃない。
なんてったって、今教卓に立っている新任教師は、先日屋上に居た、褐色の肌の奴なんだから。
しかし、あの時はここの制服着てたし、外見も高校生らしくもう少し若く見えた。
だけど教室に居るこいつは、およそ20代後半って感じだ。
いったいどうなってんだ?
もしかして兄弟で、屋上で会ったのは弟の方とか?

ま、なにがどうあれ、あいつはとんでもなく怪しいってことは確かだった。
オレの頭の中で、アラートが鳴りっぱなしだ。

私立日高見学園(4) 児屋根春日

僕は今、私立日高見学園大学校舎の理事長室で、とても鬱陶しいドヤ顔で理事長席に座る小学六年生位の姿の御祖香久夜さんと相対していた。

夜の闇のような深黒の髪。
目つきの悪い、いやいや、鋭い眼光。
ついでに口も悪い。
姿は違えど、やはり香久夜さん以外にありえない。
いったいどういうカラクリなのか。
髪の色の違いなんかより、高校生が小学生の体になっていることの方が大問題なのに、そっちの説明はまったくない。
どっかの名探偵だってちゃんとした理由があるんだぞ。
それとも棗先輩的なものなのか?

ま、ここ数日の出来事から考えれば、特に問題にすることでもないのかな。
魔犬に襲われたり、突然褐色の仮装男が世界を終わらせるとか言ったり、万木君の心臓に短剣が刺さったり、すぐ治ったり、香久夜さんは銀髪で、裏山から高校の校庭まで一瞬で移動したり、万木君と寮の同じ部屋に住むことになったり、憧れの錦君や瓜生君と友達になれたり・・・いろいろ、いろいろ。
なんだか丸め込まれているような気もする。
長いものには巻かれろ。

「今回はご苦労だったな。前後するが、改めて、オレが御祖家当主にして御祖グループ総帥、そして第131代スメラギである」
「あ、御祖グループって、あのMIOYAグループですか?」
「そうだ」
うわ、この人普通にとんでもなく凄い人なんだ。個人年収何億円なんだろう。
てことは、大学も高校も、全日高見学園系列はグループの経営なのか。

「本当はな、もっと早い段階でおまえをここに呼ぶべきだったのだ」
香久夜さんは黒い机の両肘をついて、合わせた両手を口元とに置いて言った。
反応を待つようだったけど、僕がなにも言わなかったので話を続けた。
「端的に言おう。おまえの存在は分かっていたのだ。ただ、見つけられなかった。御祖宗家分家総出でも探知出来なかった。おまえの両親が、おそらく自分たちの身に危険が迫った時、あるいは死んだ時、オートで起動する結界を施していたんだろうな。おまえの両親は優れた術者能力者だった。
それに加えておまえ自身の力が内向きに働いて、ほぼ二重といっていいステルス性を生じさせた。同時に両親は物理的というか社会的にも徹底的な隠蔽工作を準備していた。巧妙に隠されたおまえの存在は、『児屋根』姓を名乗っていてもなお、探す者には辿り着けぬ、まるで迷宮の奥深くに封印されたようになっていたのだ。そして、捜索は迷宮入りになった」

「・・・・・・」

え、いや、そこで上手い事言ったみたいな、やり切った感果汁100%フレッシュジュースみたいな顔されても困るんですけど。
ていうかココ、シリアスシーンですよね?普通。

「ここまでで、なにかあるか?」
「あ、なんていうか、一応聞いてはいたんですが、なにぶん重要に思えることが沢山あり過ぎて、処理しきれてないです。混乱してます」
「ふむ、当然だな」
香久夜さんはそのちっちゃい体で椅子から立ち上がった。
「話を続けると」
あれ、続けるんですね。
「おまえの捜索は打ち切られ、コールドケースになっていた訳だが、オレがスメラギを継承してから、捜索を再開して、今に至るということだ。言い訳がましいが、当時オレは御祖家とはまったく離れた立場に居て、おまえの存在自体知らなかった。ま、捜索に係わっていたとしてもあの頃のオレはなにもかも不安定だったからな、力になれたとは思はないが」
気が付くと香久夜さんはソファーの周りを歩き回りながら話していた。
くどいようだけど、小学生の姿で。

「まだ、全然整理出来ていないんですが、一番気になることを一つ」
香久夜さんは無言で促した。
とにかく、まず一つ一つ解き明かしていかないと前に進めない。
「僕の両親は殺されたんですか?」
「うむ、確証は無いが、おそらくは・・・」
「命を狙われる理由はあったんですか? 別に十分な理由があれば許されるなんてものでもないんですが、気休めというか・・・」
「正直、分からないんだ。御祖家とおまえの両親とは繋がりはあったがそれだけのようでな。登録者名簿に名前を載せていた程度だったのかもしれん」
「登録者名簿?」
「うん」
「それには僕の名前も載っているんですか?」
「うん」
「その所為で僕は捜索された」
「以前はな。オレは純粋に好奇心からだ。どんな奴なのか知りたかった」
「なんなんです? 登録者って」
「血だよ」
「チ?」
「異能の血だ」
「異能の・・・」

そう、それだ。
ずっと僕の周りで起きていたこと。
余りにも自然に、日常的な恒常的なものだったので、もはや疑問にすら思わなくなっていた事。
「それって、いったいどんなものなんですか?」
「いろいろあるんだがな、おまえに限って言えば、拒絶だ」
「・・・拒絶? というと?」
さっきから僕、オウム返しばっかりのような。だけど仕方がない。だって知らない事ばかりなんだから。
「もしかして織姫ちゃんの『事象の拒絶』みたいな・・・?」
「マンガの読み過ぎだろ。真面目にやれ」
叱られた。ていうかブリーチ・ネタ、香久夜さんに通じるんだ。
「裏山でも言ったろ? おまえには拒む力がある、と」
「はぁ、まぁ」
香久夜さんは向かいのソファに腰を下ろし、僕と面と向かった。
もちろん小学生の少年の姿だ。

「文字通り拒否出来るんだよ。昔から影が薄い存在だったろ? 自分がどうしようもない役立たずで矮小な人間だと思っていただろ?」
「そ、そうですね」
うん、それは否定出来ない、だけどなんだか悪意が感じられる。言い過ぎなんじゃないか、とも解釈出来る。楽しんでいやしませんか?とも感じ取れる。
「もともと内向的で孤独を好む性癖だったようだからな、無意識に人と接することを拒絶していたんだよ。意識的でなかったから力が内から漏れ出る程度の影響で済んでいたが、両親の死を切っ掛けに、力の存在い気付いていなくとも、確固たる意志で周囲を拒絶し始めた、世界を拒絶し始めた。だから世界から締め出されたんだ。
気付かれにくい、ではなく、気付かれなくなった。
見えてないと同然だった。
そこに居ないと同然だった。
存在しないと同然だった。
生きていないと同然だった。
それがおまえの今までの人生だった」

随分な言われようだった。
本当の事だとしても、改めて言われると重い。現実は辛い。
「おいおいおい、今度はオレまで拒絶するなよ。力は強い思いと直結している。人間、やはりマイナスの思いの方が重いからな」
一つ質問すると二つ三つ分からないことが返ってくる。今まで僕の知っていた世界はいったいなんだったんだ? まるで砂漠の砂粒程度だったんじゃないか?
「そうやって自分を低く低く持っていくのは悪い性癖だぞ」
いやだから、性癖じゃないです。
性の匂いまったくしませんから。

「いまひとつ理解出来ないんですが、拒絶って、他人から見えなくなる力なんですか?」
「うむ、それはちと違うな。その力は昔は結界としてよく用いられた。人を寄せ付けたくない所、立ち入られたくない所、人目に付かせたくない所、存在を知られたくない所、様々な場所で結界師が結界を張った。ま、それ以外にもいろな用途がある、大変応用が利く力だな」
「父さんや母さんにもそんな力が?」
「主に父親から受け継いだんだろう。これは昔っから『児屋根』の力だ」
「父さんの・・・」
「力の発現は遺伝的な要素もあるが、魂の素質の方が大きくて、強い」
「それはどういうことなんですか?」
「力は今やほとんどが遺伝によって太古から受け継がれてきたものが要因だ。しかし魂の力はその大元となるものなんだ。これはまたいずれ話そう」
「もしかして、万木君が昔の僕を知っているみたいなことと関係あるんですか?」
「意外と鋭いな。ま、今日はこの辺にしておこう」
「万木君と香久夜さんの関係っていうのは・・・」
「それもあとあとな。とりあえず、ここまでだ。カスガの頭も限界だろ」

なんだかちょいちょいバカにされているような気がする。
確かに、頭パンクしそうだけど。
頭痛してきたし。
僕はバランスを崩しながらソファかた腰を上げた。
「明日、知恵熱で学校休むなよ」
とことんだな。
理事長室のドアーを開けて、出ていこうとする僕の背中に、香久夜さんは声をかけてきた。
「ヨロキのこと、頼むぞ。あいつは世界で最も孤独な人間の一人だからな」
僕は振り返って、部屋の中で、ソファの前に立つ香久夜さんを見る。
「世界一孤独、というか孤独の宝石箱だ」
もはや意味が分からない。
「さ、もう下がって良いぞ。ちゃんと宿題やれよ」
その言葉が終わるか終わらないかの内に、ドアーが勝手に閉まってしまった。
バタン、と。
拒絶するように。
僕は独り、既に暗くなった廊下に取り残された。

子供の姿でも、変わらずどこまでも俺様な人だった。



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藤巻舎人
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読書 ドラム 映画
自己紹介:
藤巻舎人(フジマキ トネリ)です。
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