「あ、おーい、ヨロキー」
今日最後の授業が終わって、廊下にでると丁度万木の奴が教室に入ってこようとしていた。
「ん? あぁ、タナバタかぁ」
「なんだよその気の無い返事」
「あ? カスガマロじゃねぇし、ってさ」
なんたるあからさまさ。この世界の錦様を相手に、なんたる態度!!
しかし万木って改めて見ても普通体型だよなぁ。この体のどこに片手で俺のこと持ち上げるクソ力があるんだろ。
「そのタナバタって呼ぶの止めろ。ニシキにしろ、ニシキ」
「別にイイけど~。 はいはい、ニシキな」
う、なんかその納得の良さが気に食わない。
まるで『どっちでもどーでもイイ』みたいな。
俺は軽んじられるのが大嫌いなんだ!!
「ん? どうした、ウンコ我慢してるみたいな顔して」
どんな顔してんの俺!? 逆に見てみたいっつーの。
「そういやさ、なんか用かよ」
「は?」
「呼んだろ、オレのこと」
「ああ、そうそうカスガどこ行ったか知らね? あいつ部活に入ってないっていうからさ、吹奏楽部どうかなって、見学でもって思ってたのに授業終わったらいなくなっちまって」
「んーーー、なんか大事な用事あるっつってたぜ?」
「大事な用? なんだソレ」
「学校との手続きみたいなことらしい。ま、詳しくは本人から聞けよ」
「ふうん」
なんだかんだいって、やっぱ俺、あいつのことなんも知らねーなー。
よし、今度奮発してお互い親密になるイベントでも企画すっか。
「おい、ニシキ」
「ん?」
「おまえ今、なんかよからぬ事考えてたろ」
「なんでだよ!」
「いつもの悪人顔がさらに悪そうににやけてた」
「そういうデマは止めろ!! 純真な読者さんは俺の顔分かんねーんだから、あらぬ想像して変なイメージ定着したらどうすんだよ!!」
「誰に言ってんの? それ」
「ウルサイ」
たく、小説なんだからイメージは大切なんだぞ。表紙とか挿絵なんて無いんだから。
「ニシキさ、ちょっと時間あるか?」
おっとこいつまだ居たのかよ。せっかく俺のイメージを伝えようと思ってたのに。
「なんで?」
「少し話しねーか? もうちょっと落ち着いたところでさ、ってなんでそんなに身構えてんだ!?」
「いや、俺、実は波紋法とか機甲術とか龍眼とかスゲーよ?」
「バトらねーよ」
「体は許しても心は許さない派だから」
「ヤル気マンマンじゃねーか」
「じゃ、なんだよ、話って」
「ん? まぁ、なんていうーか、アレだよ、ほら」
いきなり歯切れが悪くなった。顔なんて真っ赤にして。
春日のことだと無茶苦茶強気なくせに、他のことになるとからきしだなあ。
結構カワイイ奴だったりする。
「なんつーか・・・」
「いいよ、屋上でも行くか」
「お、おう。悪ぃーな」
黄色味がかった太陽が、山の方へと傾いていく。
影は長く濃くなって、風は既に涼しいくらいだ。
「ここ、良くくるんだ」
俺は校庭やその向こうを見渡しながら言った。
昼にも来てたしね。
気が付くと万木は裏山の方を険しい顔で見つめていた。
「ヨロキは部活入ってねーの? あんな力有り余ってんなら、いろいろ出来んじゃね?」
「オレ? オレは・・・・」
そこでなんだか思い詰めたような顔して黙ってしまう。
あれ?
なんか変な事訊いたか?
「オレは、運動とか苦手だからさ・・・」
「ウソ!? 全然そんなふうに見えねーんだけど!」
「うん、まぁ、いろいろあるんだわ・・・」
「へぇ」
『いろいろある』なんて便利な言葉だ。それだけで話を終わらせてしまう。それ以上の質問を遮断してしまう。
ま、いいさ。
なんか知らんけど、話したい事があって、だけどどうにもまだ踏ん切りがつかなくて、それでも本当は打ち明けたいんだっていう気持ちは見てとれて。
それはとても素直で誠実な態度で。
俺や、俺達のために必死で伝えようとしてくれているのは、単純に凄く嬉しかった。
「悪い、また今度話すよ」
「うん、大丈夫。そんな急がなくても。俺達、まだ出会ったばっかりじゃん。明日もある。明後日もある。学校で会える。まだまだずっと続くんだよ」
随分黙ってから、哀しいような儚げな笑顔で、「そうだな。人生は続く」と万木は言った。
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