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藤巻舎人 脳内ワールド

藤巻舎人の小説ワールドへようこそ! 18歳以下の人は見ないでネ

   

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私立日高見学園(11) 万木非時

オレは万木非時(ヨロキトキジク)。
GW(ゴールデンウィーク)中なのに、なんだか胸騒ぎがして、校舎まできてしまった。時刻は既に夜中の一時になろうとしていた。
米国の思惑は頓挫して、兵士も去って、残骸もすべて撤去されたし、もうこんな夜中まで警戒する必要はないはずなのに、スメラギの奴が注意を怠るな、なんて言うから気になって仕方ない。
明日会ったら野球部の下照幟(シタテルノボリ)のユニを請求してやる!!
なんてぶらぶらと来てみたら、驚くほどの不穏な空気。確かにここ一ヶ月異質な、張りつめたようなものを感じてはいたが、ここにきて何か大きな変化が訪れようとしているのか。
とにかく、山に入ってみるしかない。


見た目ではわからなくても、山の境界に足を踏み入れてみてば異常はすぐさま感じられた。まるですべての木草土がざわめいているようだ。
おそらく、何らかの変化があるとすれば墜落現場だ。
オレは歩調を速めた。
あの大地の裂け目に近づくほどに、騒々しさは高まっていった。本当に聴覚に何らかの音が届いている訳じゃない。オレに霊感やその類の超感覚は備わっていないが、第六感とまではいかなくても、研ぎ澄まされた全身でそれは感じられた。
大地の裂け目、楕円形の谷を見下ろすところまに到着すると、底の真ん中辺りで赤い光が明滅するのが見えた。
あれは・・・。


その時、周辺に満ち満ちたあらゆる騒音を切り裂いて劈き届く声、いや叫びがあった。

『僕はちゃんとここにいるのに!!』

反射的にオレは跳んでいた。
力の限り、思いっきり、本気で。
こんなに力を込めたのは何年振りだ?
だって、この声は。
この声は。
気の遠くなるほど、記憶から消えてしまうほど永い間待ち焦がれていた、あいつの声じゃないか。
間違いかと思った。
いや、間違いじゃない。
間違えようがない。


谷底に着地して、その10メートル先に人が立っているのが見えた。
大丈夫、オレは夜目が利くんだ。
そしてその周囲に赤い光を宿す黒い影が三つ。しかも正面の影が・・・。
あれこれ判断する前に再び跳んで、空中で黒い物体に跳び蹴りを喰らわせた。感触はあった。ちゃんと実体がある証拠だ。
衝撃で倒れてしまったらしい、草の上にうずくまる奴を見下ろした。
月明かりに照らされた青白いメガネをした顔。
記憶にある容貌とは別物だ。
だけど、目は変わらない。
その目に宿る魂の光。

「よう、春日麿。探したぜ」

言葉をかけたけど、何も返ってこない。
まぁ、理解に戸惑っても無理も無い。
早く、声が聞きたい。

「が、その前に、このワン公たちを蹴散らさなきゃな!」

オレは周囲に注意を向けた。
再開の気分に浸るのはまだだ。

「い、犬なの? アレ?」
「ん? まぁ犬は犬でもとり憑かれた野犬って感じだな」

ああ、こんな声なんだな。
おまえの声はこんななんだな。
おまえはちゃんとここにいるんだな。
よっし!! 俄然ヤル気出てきた!!!

「うぅらぁぁあああっ!! かかって来い!!」
全身に力がみなぎる。
オレは完全に全開にした。
ピリピリと空気が弾けるのが分かる。
周りの犬達はもちろん、草木一本まではっきりと感知出来た。
大気のわずかな揺らぎさえ感じ取れる。

態勢を整えつつあった異形の犬達だったが、オレの気迫に気圧されたのか、動きを止めた。
その姿は最早犬とは呼べない代物だった。
口は肩の辺りまで大きく裂け、不揃いで大きく鋭い牙の間からは長い舌が垂れ下がり、絶え間なく唾液が滴り落ちている。毛はほとんど抜け落ち、剥き出しになった皮膚は壊死したように黒く、それでいて水っぽくぬめっていた。
そして鰐のように伸びた顔に点在する、赤黒く濁る四つの目。
既に侵蝕と同化がかなり進んでいる。もう器となった犬達は救えないだろう。
『八重』ではなく『七重』の太刀を持ってきて当たりだったかな?
オレは紐を解いた。

「鞘を、預かっていてくれ」
鞘を渡すと、あいつは黙って受け取った。
武人が鞘を預けるってことは、どういうことか分かるよな。
オレはそんな言葉を目に込めて見つめた。

「一瞬で終わらせる」
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私立日高見学園(10) 佐伯主税

「なぁなぁ、チカラ、そういえばさぁ」
オレのベッドに横になってマンガを読んでいた錦が言った。
「んん?」
レーシングゲームに集中しながらオレは答えた。
「この噂知ってる?」
「噂?」
「うん。どのクラスかわかんないけど、一年のクラスに、見えない生徒がいるんだって」
「はぁ? 透明人間?」
「よくわかんない。時々見えるらしいよ?」
「へぇ」
「何故か空いている席とか、足りないプリントとか」
「幽霊?」
「メガネしてるんだと。その生徒は」
「ふぅん」
そのままその話は終わって、またしばらくお互いの時間を過ごした。錦はマンガを読んで、オレはゲーム。


「あ、また負けたよ」
オレはコントローラーを床に投げ出し、腕を上げて伸びをした。
「かぁー、疲れた」
そう言って、ベッドにうつ伏せになってマンガを読んでいた錦の上に抱きつくように覆いかぶさった。
「おまえまだマンガ読んでんの?」
「今イイとこ」
「なんだよ、オレよりマンガかよぉ」
錦のケツの辺りに股間をスコスコと打ち付ける。

「うんん・・・」

その時錦が漏らした切ないような甘いような声に、オレは何故かゾクゾクときてしまった。何か心臓の奥の奥がジンと熱くなるのを感じた。
そんな声初めて聞いたし、こんな感覚も初めてだった。
あ、ヤベ、気持ちイイ・・・。
いつの間にか大きくなっていたチンコが、錦の柔らかなケツに当たって、更に刺激されて。
あ、何だコレ、止まんねぇ、止められねぇ。
こ、これ以上激しく腰を振ったら・・・。
落ち着け、オレ。冷静に冷静に冷静に。
なんでこんなに錦の体が気になるんだろう。
このままギュッとくっつきたい。
抱き締めたい。

「な、なぁ、ニシキ」
「ん、ん?」
「おまえ女と付き合ったことある?」
「な、なんでいきなり?」
「いや、なんとなく」

スウェットパンツとTシャツだけの薄着なのに、スゲー暑くなってきた。
体温上昇しまくりだし、チンコはそのまんまだし。錦の背中に乗ったままだし。
「無いよ、そんなの」
錦は素っ気無く言った。
「じゃ、エッチしたこともないんか?」
少し黙ってから、無いよ、答えが返ってきた。
「男とはやったことは?」
「は?」
「いや、そういう話よく聞くからさ。男同士でもするって」
「ど、どこで?」
「あ? や、野球部の先輩の話とかさ・・・」
「へぇ」
「で? ニシキはどうなんだよ?」
「男と? 無いよ」
まだ錦はマンガを読んでるのかな。背中からだと後頭部しか見えない。こいつ、どんな表情してるんだろう。
「チカラ、興味あんの? 男に」
その問い掛けに何て言ったらいいかわからなくて、思わず錦のうなじに顔をうずめてしまった。
髪の毛と首の境目辺りに鼻をくっつけて、軽く息を吸い込んでみる。
微かに、錦の匂いがした。
なんだ? 今日のオレ。変だ。変だ。変だ。
気も変になりそうだ。

「あのさ、チカラのチンコがオレの尻んところでビクンビクンしてるんですけど」
「あ、いや! 悪ぃ!!」
オレは慌てて起き上がった。
すると錦もむくりと起きだして、あぐらをかいてオレと面と向かって座った。顔が赤くて、視線をベッドの上に泳がしている。
スウェットだからオレの股間の盛り上がりはモロバレだけど、ジーンズを履いてた錦のアソコも、膨らんでいた。 

「あの、男同士やるって、いったいどうやるんだろうな」
別に痒くもないのに頭の後ろに手をやって、ごまかした。
「なんで俺に訊くんだよ」
錦がこっちを見ずにぼそっと言った。
「だって、おまえいっつもオレのオナニー見たいとか言ってんじゃん。だから詳しいのかなぁ、って思って。つかなんで今日は大人しいんだよ」
そこでオレ達はお互い黙ってしまった。

私立日高見学園(9) 児屋根春日 

終わらせなくちゃ。
僕が、終わらせなくちゃ。

真夜中に寮を抜け出し、学園の敷地を横切って、裏山への道を登り始めた。
服装は何故か制服だった。
パジャマでも良かったはずなのに、わざわざ着替えてしまった。そんなの無意味なのに、変だよね。
五月といっても夜は冷える。制服のブレザーが有り難かった。あれ、役に立てるじゃん。
空には大きな月が出ていた。
結構急斜面だし、木々や草や蔦が生い茂っているけど、案外足場が見えないことはなかった。
月の光って、こんなに明るかったんだ。
銀色の、だけど金属的じゃなくて、とても淡い。
ありがとう、照らしてくれて。
どうしてだろう、こんなにも心穏やかなのは。
もう少しですべてが終わると思うと、気が楽なのかな。
それになんでまた学校の裏山になんて入ったんだろう。
聞く話によると、三月に米国のスペースシャトルが墜落したらしい。
あれ、それとも宇宙ステーションの補給機だったかな。
とにかく米国の何かが墜落して、積載されていた積荷の影響で一時危険区域だったそうだ。
危険だったのは、放射線か何かの所為だろうか。
放射線にしろ機密保持にしろ立ち入りが禁止され、米軍が直接警備していた。政府機関もマスコミも完全シャットアウト。かなり外交上こじれて、最近ようやく立ち入り禁止や米軍駐留が解かれたらしい。
まぁ、それらのことで、裏山に入ったのかもしれない。
何か危険なことが待ち構えているかもしれない。
その危険な何かが、偶然すべてを終わらしてくれるかもしれない。
放射線とか毒ガスとか宇宙で開発されたバクテリアとか。
ここまで来て他力本願。


いつの間にか道は下りになって、すり鉢状の谷底へと向かっていた。
裏山といっても山が一つだけあるというもにではなくて、
その山は日高見丘陵の一部を成していて、ずっと山谷が続いてしる。
目的地がある訳じゃない。
強いて言えば墜落現場だけど、どこかもわからない。
僕は何かに導かれるように、谷を下っていった。
木の根や熊笹や下生えを踏み越え、たどたどしく歩いて行く。
幾分地面が平らになってきた頃、木々と闇の向こうに微かな光が見えた。
無意識に歩調が早まる。
笹や枝で皮膚が傷付くのもかまわず、息を切らして歩いた。
自然、胸が高鳴る。
何故か不安や恐怖は無かった。
あそこに行けば。
あのぼんやりと光る明かりの元に行けば・・・。


突然視界が良くなり、楕円形の開けた広い場所に出た。
周りを木々が生い茂る斜面で囲まれ、まるで穴の底だ。
暗い夜空に月が怪しく輝いている。
暗藍の闇。
そして楕円の広場の先端で僕を待ち構えるかのように光る何か。

ザザザザ

突然、丈の高い草が揺れる音がした。
風は無かった、と思う。
僕は歩みを止めた。
本能的に耳を澄ます。

気のせいか、と胸を撫で下ろして、再び足を踏み出したとき、
また音がした。
今度は聞き間違えではなかった。
ガサガサと草が擦れる音。
何か、ある程度大きなものが動き回る気配。
犬?
一瞬思い浮かんだ。
野犬か?
だとしたら・・・。
音は違う方向から聞こえる。
複数居る。
額に汗が滲む。
怖いのか?
ここまで来たのに。
世界の終わりを望むのに?

ハッとして顔を上げると、前方二メートル程の草むらの中に、血のように赤黒い光が三つ見えた。

・・・目?

と思った瞬間、視界の左隅で黒い大きな影が動いた。
僕は反射的に左手を大きく払った。

「うわっ!!」

左手が何か重いものに当たった。
すると影は跳ねるように僕の後ろの草むらへ消えていった。
手の甲には、ゴリッという感触と、熱い引き裂くような痛みが残った。

ぐうう、痛い痛い痛い痛い!!

恐る恐る左手を月明かりの下に出してみる。
そこには、闇に浮かぶ赤い血と肉と、息を呑むほどに白い骨が見えた。

何だよコレ、
何なんだよ!! コレは!!!

体中の筋肉が強張っていく。
足が震えている。
立っているのがやっとだ。
胃の辺りがむかついてきて、今にも吐きそうだった。
全身、汗でびっしょりだった。

また、草の音がした。
目が痛いくらいに開かれる。
前方に、赤い光が三つ、いや四つ?
後ろから、更に横からも気配が伝わってくる。
そして今まで嗅いだこともない、魚の内臓みたいな臭い。
シューシューという音。

右手で左手首を握る。
ヌルりと血で滑る。
胃から込み上げてくるものを必死で抑える。
手の脈打つ激痛で思考もバラバラだ。
終わりなのか。
これで死ぬのか。
これが終わりなのか。
死ぬんだ。
僕は死ぬんだ。
誰にも知られずに、見知らぬ山の中で、
獣に生きたまま食べられるんだ。
信じられない。
気が狂いそうだ。

痛いよ。
嫌だよ。
怖いよ。
死にたくないよ。

助けて欲しかった。
だけど誰の顔も浮かんでこなかった。
育ての親や本当の両親さえ。
友達や知り合いも、頼れる人なんていない。
この世界に誰もいない。
僕は独りだ。

何で誰もいないんだよ。
誰か助けてよ。
僕を助けてよ。
僕はちゃんとここにいるのに!!!

心の叫びが聞こえたかのように、
赤黒い光を持つ黒い影が、僕の視界を覆った。
噛み締め過ぎて、奥歯がミリっと軋むのが分かった。
その瞬間、突風が吹いた。
風というより、衝撃波に近かった。
何が起きたのか理解出来なかった。
僕は地面に転がり、左手の痛みで呻いた。
押し倒された草の上に、月明かりを遮る影が伸びる。
顔を上げると、そこには人の形をしたものが立っていた。
まるで僕を護るみたいに。
体を張って。

「よう、春日麿。探したぜ」

私立日高見学園(8) 児屋根春日 

4月に、僕は私立日高見学園に入学した。
荷物なんてほとんど無かった。
お金だって持ってなかった。
だけどそんなの必要無かった。
欲しい物があればお店で頂けばいい。
だって仕方ないじゃないか。
もしお金を持っていても、レジの人だって僕に気付かない。

学園がある町まで、新幹線と電車を乗り継いで行った。
鍵がかかっている場所以外、僕に入れない場所は無かった。
改札を乗り越えたって誰も気付かない。
監視カメラに映っていたって、誰も気付かない。
ちょっとした問題だったのは、席に座っていても僕に気付かなくて誰かが座ろうとしてくることだった。

学園には寮があった。
だから住む場所は問題なかった。
ちゃんと入寮するようにと、送られてきた案内に指示されていたから。
地図を見ながら寮を探して中に入った。
まだ新学期は始まっていなかったけど、学生は沢山いた。
それでも誰も僕に気付いた様子は無い。
もう慣れている。当たり前のことだ。
割り当てられた部屋を見つけた。
ドアを開けると靴を脱ぐ場所とシューズボックス。
入ると直ぐは、どうやら共有スペースらしい。
そこに簡易キッチンと続いてトイレ。
奥には二部屋が並んでいた。
一つは僕の部屋。もう片方には誰も入っていなかった。
これから誰か来るんだろうか。
誰か来るにしたって、また気付かれないのかな。
一言も話せないのかな。
そう思うと、何かに期待してここまで来たのに、暗い気持ちになった。
本当に、暗い、底なしの闇に落ちていく感じ。
何もかも無駄だったのかもしれない。
これは偶然が重なった壮大な勘違いか、宇宙的な悪戯なのかもしれない。
体が濡れた雑巾みたいに重くなった。
眠ってしまいた。
このまま世界を閉じて、眠り込んでしまいた。

指定されていた自分の部屋に入る。
南向きの窓とベランダ、フローリングの床。
ベッド、机に椅子、クローゼット、本棚、コンピュータ。
机の上には教科書類。
クローゼットにはシャツと制服一揃え そして寝具。
一つの疑問があった。
いったい誰がこんなことしてくれたんだろう。
足長おじさん的な誰か?
そんな存在に心当たりはまったく無かった。
だけど部屋の入口のネームプレートには、しっかりと『児屋根春日』と僕の名前があった。
いずれにせよ、僕のことを知っているんだ。
少なくとも名前くらいは。
では、どうやって知ったんだろう。
考えても答えは出てこなかった。
答えって、なんだろう。
答え、なんて存在するのかな。

そして僕の学園生活は一ヶ月を過ぎて、GW(ゴールデンウィーク)へと突入した。
まったく以前と変わらない生活。
誰にも気付かれず、誰にも話しかけられず、誰にも認識されない。
時間割通りに教室で授業を受けた。
先生からは一度も指されなかった。
プリントやテストはまわってくるけど僕の分は足りないので、黙って先生のところから失敬して、黙って先生の机の上に置いた。
教室や廊下では人にぶつからないように気を付けた。
日程が終わると、寮に帰り、課題をこなしたり、テレビを少しだけみたり、ネットしたり、あと大抵は読書をした。
食事だけは僕の分もあった。
お風呂は使用時間が過ぎてから独りで入った。
何も無い、無言で静かな生活が、四月から一ヶ月続き、GWの真っ只中の夜、突然、ふとすべてを終わらせようと思い立った。
このままここに居たって、仕方ないんだ。
何も変わらない。
ちょっとだけ、夢をみていた。
だけど、その夢も覚めてしまった。
果てしなく続く無味乾燥な日常が続いていた。
これからも、ずっと。
終わらせなくては。
それは僕の義務なのかもしれない。

私立日高見学園(7) 児屋根春日 

僕は児屋根春日(コヤネカスガ)
春日って名字みたいな名前だね、なんてよく言われる。
いや、それは嘘。
真っ赤な嘘。
悲しいくらいに嘘。
言われたことなんて一度も無い。
ついでに言うと友達だって一人も居ない。
だから僕の名前を気にする人なんて居ないんだ。
別にいじめられてる訳じゃない。
意図的に無視されてる訳でもない。
ただ単に、気付かれないだけなんだ。


いつの頃からだろう。
昔はそれほどまでではなかったと思う。
他の人より影が薄いだけだった。
気付かれにくい、見付かりにくい。
それだけだった。
確かに僕自身、人付き合いに興味がある方ではなかった。
出来れば避けたかったし、独りでいるのを好んだ。
その傾向は小学二年生の時、両親が事故で死んでしまってから更に強くなったと思う。
その後母方の親戚に引き取れたものの、学校では常に独り。
誰とも話さず、先生からも次第に見向きもされなくなり、家ですら存在を忘れ去られることがままあるようになった。
それでも、食事が僕のだけ足りなかったら、訴えれば気付いてくれたし、学校のことや、日常生活で必要なことは、僕が言えばちゃんとしてくれた。
逆に言えば、僕が言わなければ、何もしてくれなかった。
そう、すべては無視というものですらなかった。
僕は気付かれないんだ。
そしてとうとう、中学を卒業する頃には、完全に忘れられてしまった。
僕の存在を、認識すらされなくなってしまった。
高校への進学の手続もしてもらえなかった。
食事も準備してもらえなくなった。
返事すらしてもらえなくなった。
多分視認すらされてなかったのだろう。
それは家の中だけでなく、外のすべてに及んでいた。
道を歩いていても、まったく見えていないように平気で人がぶつかってきた。ぶつっかても気付かれもしなかった。ただ自分が何にぶつかったのかさえ気付かずに、不審な顔をして立ち去っていく通行人達。
外の世界の誰もが、僕を居ないものとしていた。
僕は存在しないものとなっていた。
僕は世界に存在しなくなっていた。
僕は絶望していた。
いや、そんなもの通り越して、諦めていた。
だって、すべては徐々に進行していったから。
存在しないものとして扱われるのに、慣れていたというのもある。
受け入れていたというのもある。
だけど、社会的に存在が消滅してしうまでいくと、また違ってくる。
お金だって無い。
誰も応えてくれない。
店の商品をとっても誰も気付かない。
勝手に他人の家に入っても誰も気付かない。
何をしても誰も気付かない。
僕はこのまま誰にも知られることなく生きて、
誰にも気付かれることなく成長して、大人になって、
誰とも感情や経験を分かち合うことなく、
誰にも気付かれないまま死んでいくのだろうかと思った。
それって生きているっていうのかな?
僕は生きているのかな?
僕は本当に存在してるのかな?
何も感じなかった。
もう心が麻痺してしまったのかもしれなかった。
それどころか、心さえ消えてしまったのかもしれない。


そしてある日、僕に手紙が届いた。
誰にも気付かれないといっても、一応親戚の家には帰っていた。
そこでふと、郵便受けに、自分宛ての手紙が入っていることに気付いた。
そこには紛れもなく、児屋根春日と書いてあった。
何年ぶりだろう、手紙を受け取るなんて。
そして、こんな存在が抹消した僕に、いったい誰が手紙をくれるのか。
こんな無の存在となった僕に気付いてくれて、気にかけてくれて、手を差し伸べてくれる誰かがまだいたんだ。
そう思ったら、泣けてきた。
本当に溢れんばかりに、湧き水の如く、止め処なく涙が出た。
抑えることが出来なかった。
嗚咽した。
叫んだ。
大声で。
生まれて初めてだった。
それはもう、爆発だった。
最後の方は笑っていた。
涙を流しながら、笑っていた。
嬉しかったのかもしれない。

泣き疲れ、叫び疲れ、笑い疲れ、
自分の部屋の畳に抜け殻みたいに横たわっていると、
まだ手紙の中身を確かめていないことに気付いた。
僕は跳ね起き、涙で濡れたメガネを拭いて、手紙を開けてみた。
それは、私立日高見学園への入学申込書と案内だった。

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プロフィール

HN:
藤巻舎人
性別:
男性
趣味:
読書 ドラム 映画
自己紹介:
藤巻舎人(フジマキ トネリ)です。
ゲイです。
なので、小説の内容もおのずとそれ系の方向へ。
肌に合わない方はご遠慮下さい。一応18禁だす。

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