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藤巻舎人 脳内ワールド

藤巻舎人の小説ワールドへようこそ! 18歳以下の人は見ないでネ

   

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題名の無い物語

     4 桜の季節



 剣之介と太一が入学する県立大槻高校は、二人の住むアパートから、普通に歩いて十五分ほどのところにあった。立地的には、市街地と郊外の境目辺りというところだろうか。ゆるやかに住宅地と田舎が混じりあっている環境だった。
 そして入学式当日の朝。剣之介は自転車で行くつもりだった。
「歩いて行こうよ」と太一。
「おまえだけな。俺はチャリで行く」
「だって、オレ、チャリないもん」
「おいおい、チャリぐれぇ買えよ! 田舎じゃ重要な交通手段だぜ、ってなんで俺が田舎を定義しなきゃなんないんだ? 普通おまえの方が知ってることだろ」
「わがったよ、今度実家がら送ってもらうがら、だから、な? ホントお願い、一緒に行こうぜ? 最初ぐらい二人で校門くぐりたいんだよ」
 ・・・・、変な奴。いつものほほんとしてるクセに、時々妙なこだわりを見せる。こだわりというより、一種のわがままに近いのだが。そして太一のわけのわからないわがままに振り回されながらも、何故かそれを受け入れてしまう。心のどこかで、コイツには大きな借りがある、と囁く声が聞こえる気がする。そんなの絶対にあるはず無いのに。まったく厄介だ。


 まだまだ風は冷たかったが、早朝の空気は新鮮で、体に甘かった。
 はぁ、しかし今日から高校生、学校は面倒だ。まぁ、俺のこと知ってる奴は誰もいないし、このアホ太一とは違うクラスだし、ひっそり過ごしていくか。
 広い校庭をぐるりとフェンスが囲い、それにそって延々と桜の木が植えられ、そのどれもが満開を迎えてきた。ざっと風が吹くと、すべての花びらがざわめき、生き物のように揺れる。短い、有限なる命。だからこそ美しいのだろうか。確かに、剣之介は桜の散り際が一番好きだ。脆く、はかなく散っていく、退廃の美。しかしそれは一年に一度のものであり、そして春が来れば再び見れるものだから美しいのだ。
 それまで余りにも身近だったものが、突然失われ、もう二度と会えない、触れられない、無二のものが消えてしまう。美しいなどとはいっていられない。それは残酷であり、身を裂くような苦しみと哀切であり、喪失なのだ。もう、次はないのだ・・・。


「おい」
「・・・・」
「おい、ケン!」
 誰かが自分の名を呼んだ。剣之介はハッとして振り返る。そこには、もうよく見知った、日に焼けた人懐っこい笑顔があった。
「桜、キレイだな。出会いと別れ、そこにはいっつも桜があるな」
 隣を歩く太一が、頭の後ろで手を組んで、ピンクの霞を見上げた。
 まだ出会ったばかりだ。だけど、コイツもいつかは俺のもとを去っていく。そう思うと、一歩身を引いてしまう。
 そうだ、一歩身を引いていろ、委ね過ぎてはダメダ。失った時の傷が大きくなるだけだ。なるべく近づかないように、係わりあわないように・・・。
「何言ってんだよ・・・」
 剣之介は呟く。
「ケン、どうした?」
 まただ、コイツ、また俺のこと『ケン』って呼んだ。チャン付けじゃなく、『ケン』って。
「べ、別に・・・」
「大丈夫!」太一はいきなり肩に腕をまわして抱き寄せた。「田舎の高校だからって心配すんな! イジメられたらすぐにオレに言えよ? オレが守ってやるがんな!」
「ば、バ~カ、なに変なこと心配してんだよ。アホか。俺がイジメられる訳ねぇだろ。つぅか引っ付くな、離れろ! ホラ、自転車で追い越して行く奴らが変な目で見てくだろ!」
「いいじゃん、別に。変に思わせておけば♪」
「おまえは良くても、俺はイヤだ!」
「もう照れちゃって、ケンちゃん」
「てめぇ、殺すぞ!」


 なんだか太一といると調子が狂う。こんな訳の分からない奴は初めてだ。こんな無防備に近づいてくる奴は初めてだ。
 剣之介は驚き、戸惑いながらも、その接近のすべて拒むことは出来ないでいた。
 嫌な奴、嫌な奴。油断出来ない。


 学校の敷地を一周して、ようやく校門に着いた。入学式だけあって、親と一緒に登校する新入生も多かった。
 職員玄関の前に広がるロータリーと、その真ん中にある芝生の庭と噴水。まだ溶けずに残っている汚れた雪。みんなぞろぞろと芝生を迂回して、奥の正面玄関へと歩いていく。
「んん?」
 剣之介は思わず呻いた。冷たい空気を超えて、微かに切るような高い金属音が聞こえたからだ。
「どうした?」
「いや、ドラムの音が聞こえた。シンバル・・・」
「え?・・・」太一は不思議に思って、耳を澄ました。「ああ、なんか音楽みたいのが聞こえるなぁ」
「どっかで、ドラム叩いてる奴がいる」 
 確かに音楽みたいなものが聞こえてくる。多分吹奏楽部だろう。しかしこの風に乗って微かに聞こえる音の中から、なぜドラムの音だけ・・・、ああ・・・。太一には思い当たる節があった。
「そういえば、ケンちゃんの部屋に、ドラムのバチ、いっぱいあったな」
「・・・? おまえ、どうして知ってんだ?」
 あ、ヤバイ。時々剣之介の部屋に無断で入って、いろいろ探索してるなんて言ったら、殺されるどころか嫌われる。そんなこと口が裂けても言えない。
「あ、いや、その、だがら・・・」どもる太一を、剣之介が睨む。「あ、ホラ、行ってみようぜ? なんか楽しそうだばい? ほらほら♪」
 そう言って、剣之介の後ろに回り、せかすように背中を押してごまかした。
「なんだよ、押すな、バカ」
「いいがらいいがら」
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真夏日(7)

 

 変なことなんて起こりっこない・・・。

 いや待て! 起こりっこない、じゃなくて、変なこと起こすんだよ!!
 そうだ、これはチャンスでしょ? 母上がいたって関係ないYO! むしろ押し殺した興奮でモエるかも♪
 なんてエロ妄想に浸りながら、ダイニングで先輩と先輩の母上と夕飯を食べる。濡れた制服は脱いで、先輩のTシャツとジャージをかしてもらった。うへへ、これだけで悦に入れる。
 夕飯のメニューは、手作りポテトコロッケ、ポテトサラダ、じゃがいもとわかめの味噌汁、ごはん、・・・。
 なんでも親戚からジャガイモが送られてきたそうだ。


 食事が終わって、片付け手伝いますと言ったら、母上に笑って断られた。
「いいんだよ、気ぃ遣わなくて。俺らは食うのが仕事だ」と先輩。
「あら、正人は手伝ってくれてもいいのよ?」と母上。
「ヤベ、笑ってるうちに、上行こうぜ」
 先輩は二階にくるよう促した。
 先輩の名前って、正人っていうだ。
 先に階段を上る先輩に向かって言う。
「あの、先輩って一人っ子ですか?」
「いや、妹が一人。今日は友達の家に泊まりに行ってる」
 階段を上りきって短い廊下の突き当たり、ドアを開ける。
「なんだ、気になるか? まだ中二だぞ?」
 パチっと明かりのスイッチをつける。
「ち、違いますよ」
 六畳程度の洋室。ベッドに机に棚にテレビにクローゼット、などなど。
「そんなにムキになるなよ、健全健全♪」
「そんなんじゃ・・・」
「ま、適当に座れよ」
 先輩はベッドの上を指差す。俺は素直に腰掛ける。
「テレビでも観っか」
 リモコンでテレビをつけ、先輩はカーペットの上に腰を下ろし、ベッドに背をもたれた。テレビでは、いつもの芸能人バラエティー。糸目を細めて、眩しそうにテレビを観てる。膝丈のジャージ、薄いスネ毛、褐色の太い脚。Tシャツから伸びる張り詰めた腕。広い肩幅、伸びかけたうなじの髪。俺は先輩の隅々を目で舐める。
 どうして先輩は、そんなに話したこともない、単に後輩の友達の俺に、こんなに優しいんだ? 考え過ぎなのか? 誰にでもこうなのか?
 ああ、その薄っすらとうぶ毛の生えた赤い耳にかぶりつきたい。
 ああ、ヤバイ。チンコが勃ち始めてる。このまま背後から、背後からぁぁぁあ!!


「はぁ、先輩、俺もう眠いす」
 俺はぐったりとベッドに寝転がる。
「ええ? まだ早いだろ」
「先輩、寝る時はベッドで二人ですか?」
「え、いや、オレが下に布団敷いて寝るよ」
「別に一緒に寝てもイイすよ?」
 わわわwww、俺、なに言い出してんだ? なんか止まんない。もう頭では考えられない。チンコでしか考えられない。俺はうつ伏せになって、チンコをベッドに静かに擦りつけながら、先輩の耳元に顔を近づける。
「一緒って、さすがに、なぁ?」
 先輩の日に焼けた顔が赤い。かわいらしい耳まで真っ赤だ。さりげなく問いかけながら、こちらを向く。視線が泳いでる。
「なぁって、なんですか? もしかして、先輩やらしいなぁ、もう」
「な、なに言ってんだよ? お、オレはなんにも言ってねえよ?」
「先輩、耳まで真っ赤ですよ?」
 そう言って、俺は先輩の耳を軽くつまんだ。
「うんっ」
 びくっと先輩が震える。そしてテレビまで後ずさった。
「先輩、俺と一緒に寝たいんすか?」
「ば、ば、バカ・・・」
 海老沢正人先輩は、テレビの棚に背中をぴたっとくっつけ、両手を床につき、膝を立てて、真っ赤な顔をうつむかせた。 

真夏日(6)

 こここ、これってどういう展開ですか?
 もしかして、そういう展開ですか?
 いや、これとかそれとか言う前に、エビ先輩って、俺と同じなのか? 男が好きなのか?


 まて、待て待て待て。瀬川が言ってたろ? エビ先輩は優しいって。だから、これだって単なる親切心なだけのことなんじゃないのか? そう、きっとそうに決まってる。変な期待はしないほうがイイ。よくある事だ。後で泣きを見るのがオチだ。


 今俺は、めっちゃ好みの海老沢先輩と二人で、電車の席に向かい合って座っている。先輩は黙って窓辺に肘をつき、暗い車窓を、激しく叩きつけ水滴が流れる向こうを眺めてる。何も喋ってくれない。
 車体はガタゴトと揺れ、その度に俺の膝と先輩の膝が小さくくっ付く。
 いったい何考えてんだろ、この人。糸目なだけに、いつも笑ってるように見えて、実は表情が読めない。むむむ、どうしよう。なんで俺、焦ってんだ? このドキドキが、膝を伝って先輩にバレたら・・・。


「あの・・・」
 沈黙に耐え切れず、俺は口を開いた。
「うん?」
 傾けていた顔を、僅かにこちらに向けるエビ先輩。
「そういえば、先輩のウチって、どこなんですか?」
「ああ、二つ目。もう次の駅だぞ」
 そう言って、更に目を細めてニカッと笑った。
「へぇ・・・」
 口がひどく渇く。思わずむせりそうになる。
 先輩、俺は、その日に焼けた肌が、ものすごく欲しいデス。
 舐めたらどんな味がするんだろう。


 木造のひなびた駅で降りた。俺たち以外に、ここで降りた客はいないようだった。雨は未だに激しく降り続いていた。
 駅からバスで二十分ほどの新興住宅街に、エビ先輩の家があった。降りたバス停から少し距離があったので、玄関につくまでにかなり濡れてしまった。
「うっひゃぁぁ~、結構濡れたなぁ♪」
 明かりのついた玄関の前で、犬みたいにぶるぶると頭を振って水を弾く先輩。なぜか楽しそう。そしてカワイイ。思わず抱き締めて頭をなでなでしたくなる。
「悪ぃな、傘持ってなくて」
「いえ、いいす。これくらい」
「すぐタオルやるからな」
 先輩は玄関のドアを開ける。
「ただいま~」
 すると、家の奥のほうから、母親らしい声が聞こえてきた。
「お帰りなさい! すごい雨でしょう」
「ああ、あのちょっとタオルくれよ」
「ああ、はいはい」
「あと、今日、友達、いや、後輩連れてきた」
「あらまぁ、そんなら電話してくれればよかったのに」
 玄関に出てきた女性が、先輩の母親なんだとすぐにわかった。だって同じ糸目だったから。
「今晩は、そしてお構いなく」
 俺はぺこりと頭を下げた。
「いいえ、いらっしゃ。さぁ、早く体拭いて。夕飯出来てるから、上がって」
 ふわふわのタオルを受け取った俺は、頭をくしゃくしゃと拭いた。
 そしてちょっと拍子抜けした。
 なんだよ、この展開だったら、両親はなんかの用事で家を空けて今夜は戻ってこないとか、期待してたのに。そうは上手くいかないか、ていうか、変なことなんか起こりっこない。先輩は普通の人なんだ。
 がむしゃらにタオルを擦り付ける。すごくいい匂いがした。

題名の無い物語

      3 そばにいたい


 剣之介は、昼間中、ずっとこの街を探索してまわっていた。自転車に乗って、暖かな風を切り、走った。
 ここ、大槻市の市街地。駅周辺には大きく繁華街が広がり、デパートやホテルや飲食店やなんやかんやが集中している。そして駅から市役所や郵便局の方へ伸びる大通りがあり、それに交差する大きな国道があり、広々と住宅が敷き詰められている。そしてやたら公園が多い。ほとんど森のようなところもある。
 大きな街ではあるが、端の方に行くと、住宅街は唐突に途絶え、いきなり開けた田園風景が始まる。空き地や荒地や林や森が現れる。東京や横浜のように、延々とどこまでも街が続く、ということはないのだ。ちゃんと田舎が存在するのだ。


 遠出をして、久々の運動、上気した体、汗に濡れた肌。すっかり夕方になってしまった帰り道、スーパーに寄って夕飯の買い物を済ませた。
 明日は入学式。太一の奴、しょっぱなから野球部の練習出るから、弁当作ってくれだと? いったい俺を何だと思ってるんだ?
 そうイラつきながらも剣之介は、ちゃんと弁当のオカズを考え、買い物をしてしまう。やるからには徹底してやる。手を抜かない。
「ただいま~」
 そう無意識に口にして、アパートのドアを開けた。既に外は薄暗いのに、部屋のどこにも明かりはついていない。
 アレ? 変だなぁ。
 いつもならもう太一は一日の練習メニューをこなして、ダイニングでテレビを見ながら夕飯をせがんでいる時間なのに。
 胸がザワつく。
 居るはずの人間が、居るはずの時間に、居るはずの場所に居ない。
 どっか出かけたのか? コンビニでも?
 あの時もそうだった。珍しく、遅くなるのかな? じいちゃん、まだ帰ってきてないや・・・。
 そして、もう二度と生きて帰ってこなかった。


「太一ぃ、居ないのか?」
 おずおずとふすまの閉まった太一の部屋に声をかけてみる。
 返事が無い。シンと静まり返った、薄闇に沈み行く空間。
 イヤダ、ヒトリニシナイデクレ。
 置いていかれるのは、独りにされるのはたくさんだ!
 まさか、太一まで・・・。
「太一ぃ!!」
 思いっきりふすまを開け放つ。バシンっと大きな音が響く。
「オワッ!!」畳に敷いた布団から、その音に驚いた太一がガバッと飛び上がった。「びっくりしたぁぁ~! な、どうしたんだよ?」
 今日発売のマンガ雑誌に夢中になっていて、部屋が暗くなっているのにも気付かずにいた。そしたらいきなりふすまが開いて、剣之介が呆然と立ち尽くしている。手にはまだ買い物袋を持っていた。
「お、おまえ、なにして・・・」
 剣之介がらしくないたどたどしさで訊いてきた。
「なにって、マンガ読んでた。もうこんなに暗くなってたんだな。それで? 今日の晩飯はナニ?」
 と言った辺りで、剣之介がいつもの様子と違うのに気付いた。
「おまえ、暗くなったら電気ぐらいつけろ! それに居るなら返事しろ!! このバカ!」
 声が震えていた。大きく叫んでごまかしていたけど、はっきりとわかった。もしかして、泣いていたのかもしれない。
 ピシャッとふすまが閉められた。足を大きく踏み鳴らし、剣之介が自分の部屋に入っていくのがわかった。


 剣之介はいつでもどこかしらの明かりをつけている。寝るときもデスクライトをつける。外出するときもダイニングの明かりをつけていく。帰ってきて、部屋が暗いのを嫌がった。電気代が高くつくぜ、と茶化したら、意外にも、何も答えてくれなかった。
「ケンちゃん・・・」
 太一はそう呟き、紐を引っ張って部屋の明かりをつけた。


 岩熊太一が始めて古谷剣之介に会ったのは、小学一年生の夏だった。自分の母親がいつも自慢にしていた兄、太一にしてみれば伯父の息子、剣之介にずっと会いたかった。そして、出会えた。
 周りにいる田舎の友達とはまるで違う、洗練されているというか、賢そうで、華奢で、柔らかく、可愛らしかった。一目見て、コイツと友達になりたい、と強烈に感じた。
 だからいつでも剣之介にひっついて、抱きついて、この手の中に囲っていた。多少嫌がられてもいたけど、仕方が無い。もっとくっついていたかった、ずっと抱きついていたかった。でないとすぐにいなくなってしまいそうで・・・。もっと、もっと近くに。そばに。


 案の定、剣之介一家は、年に二度ほどしか岩熊家を訪れなかった。当然、太一には足りなかった。いつも、焦がれていた。
 そして、剣之介は忘れているかもしれないが、一ヶ月ほど、岩熊家に預けられていたこともあったのだ。太一には奇跡のような出来事だったが、その時の剣之介は、ほとんど心ここに在らずで、まるで抜け殻か人形のようだった。母親が死んでしまったのだ。
 外に出ようとせず、それどころか何もしようとしない剣之介の面倒を、太一は必死になってやった。やれることはたいしてなかった。ただそばに居て、蝉の声がやかましい薄暗い部屋で、ゲームをしたり、空気のような会話をしたり、御飯を食べたり、ただ黙って座っていたりした。
 守らなきゃ、守らなきゃ、オレがこいつを守らなきゃ。


 そんな小学四年生の夏休みも終わろうとしていたある日、突然やってきた剣之介の父親に、剣之介は連れて行かれ、それっきりとなった。
 その後は、父親に連れられて世界中を転々としていたらしかった。でしばらくして、母親から、剣之介は横浜にいる祖父に引き取られた、と聞かされた。太一は少し安心した。どうも剣之介の父親は好きになれなかったし、あの父親と一緒に居たら、剣之介は楽しくなれなそうだったから。


 あれから五年ほどの月日が経った。今、隣の部屋には、激しく渇望した、剣之介が居る。そう、一緒に住んでいるんだ。
 あの頃から、だいぶ変わってしまったようでも、変わっていないようでもあった。ただ、変わらないのは、自分が剣之介のことをちゃんと好きだということだった。

真夏日(5)

 七月最後の金曜日、ようやく補習も終わり。
 昼飯食った後、軽音楽部の部室で、レッチリやジミヘンのコピー・セッションをしてたら夕方になってしまった。しかも急に黒雲が空を覆い始め、バケツをひっくり返したような激しい雷雨になった。
 どうすんの、コレ?
 三十分待ったけどやみそうにないどころかますます激しくなってきて、仕方なく自転車はあきらめ、バスで駅まで行くことにした。


 部の友達ともそれぞれ別れて、人気の無くなったプラットホームで独り電車を待つ。おいおい、この雨、ダイジョブか?
 そしたら案の定、アナウンスが聞こえてきた。集中豪雨の為、上り電車はしばらく動きません、だと。この田舎の路線はすぐに電車が止まる。雨なら倒木とか土砂崩れとか、雪なら積雪、その他強風、などなど。一度枯葉が線路に積もって、スリップするから電車が走れません、なんて事があった時は、怒るよりも笑ってしまった。

 
 そんなこんなで、電車は来ない。いったいどうすんだよ、家に帰れねーじゃん、俺。
 さて、どうすっかな~駅中ぶらぶらしてよっかな~と思案していたら、いきなり背後から声をかけられた。
「よう、浅見・・・、だよな?」
 振り向くと、そこには糸目先輩がいた。
「あ・・・、い(糸目じゃなくて)、海老沢先輩」
「い?」
「あの、なんでもないす」
 俺はうつむき、顔を赤くする。こんなに間近にこられると、さすがに照れる。やっぱ好みやわ~♪
「どうしたんだ? 電車待ち?」
「ええ、はい。けどこの雨で運休みたいです」
「ウッソ、俺の使ってる路線は動いてるぞ?」
「マジですか。あのボロ電車、いい加減廃車にしろって感じですよ」
「ふ~ん、大変だな~」
「ハァ、そうなんす」
「へ~」
 エビ先輩は制服のポケットに両手を突っ込んで、落ち着きなくソワソワしている。
 ???何なんだ?どうしたんだ?
「あ、あの、浅見、でイイんだよな? おまえ」
「は? はぁ・・・?」
 なんでそんな再確認? そういえば、エビ先輩はどうして俺の名前を知ってたんだろう。
「どうすんの?」
「え?」
「いや、電車無いし、いつ走るかわかんねーんだろ?」
「ええ、まぁ、そうすね」
 そこでエビ先輩はちょっと黙り込む。俺は先輩の言葉を待つ。
 ホームの外は相変わらず土砂降りで、暗闇の向こう、水煙が立ち昇っているのが見える。屋根を打つ雨音が、やけに大きく聞こえ、世界中をすっぽり覆っているみたいだった。


「お、オレんち来ないか?」
「え?」
「あ、あのさ、このまま電車待っててもいつになるかわかんないだろうし、もしかしたら終電もなくなっちまうかもよ? そしたら、浅見がよければ、オレんち来てもいいんだぜ、っていうか、そのぉ・・・、あ!」
 先輩の言葉が終わらないうちに、プラットホームに電車が入ってきた。俺の乗る電車じゃなくて、エビ先輩が乗る電車だ。
「で?」
 電車のドアがプシューと開く。
 エビ先輩は俺の顔を見ないで、尋ねてくる。
「あ・・・」
「どうする? ウチ、来るか?」
「あ・・・、ハイ。行きます」


 俺たちは電車に乗り込み、ボックス席に向かい合って座った。
 ガコンと一度大きく揺れて、電車は走り出した。
「今からだと、泊まっていくことになるけど、大丈夫か?」
 エビ先輩が、暗闇の窓に映る俺に向かって言った。
「ハイ、ダイジョブです」
 俺は唾をゴクリと呑んだ。
 クーラーの風が、腋の下にかいた汗を冷たく冷やした。

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プロフィール

HN:
藤巻舎人
性別:
男性
趣味:
読書 ドラム 映画
自己紹介:
藤巻舎人(フジマキ トネリ)です。
ゲイです。
なので、小説の内容もおのずとそれ系の方向へ。
肌に合わない方はご遠慮下さい。一応18禁だす。

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