流れ星 1
「おい、木ノ下の奴、知らねぇ?」
「いいや、見てないね」
「ふうん」
夏休み中の合宿も二日目。大会、そして定演(むしろこっち優先?)へ向けて、俺たち吹奏楽部は夜まで練習に励んでいた。しかも合宿所なんて大層なものはないから、高校の校舎でそのまんまやっていた。
「たく、アイツどこ行ったんだ?」
俺は一人グチて、みんなが布団を敷いて寝泊りしている音楽室へ向かった。
今日シメの全員で曲合わせの練習も終わり、風呂に行ったり音楽室で寝転がったり外に買出しに行ったりと、みんな忙しい。そんな中、木ノ下の姿だけ見つからない。まあ、今始まったことじゃないけど。アイツはいつもふらっとして、いつの間にか単独行動をしてることが多い。
変わった奴だ。
ファゴットっていう、マイナーな楽器をやってる所為もあるかもしれない。普通、だいたい各パートごとに固まったりする傾向があるけど、木ノ下のやるファゴットは、一人だけだ。
「オイ、ワタル。プール行かねーか?」とペットの石川先輩が声をかけてきた。
「夜のプールに忍び込もうぜ!」隣で同じくペットの山田がイタズラっぽく笑っている。
「あっ・・・」うう、楽しそう。一瞬俺も行きます、と言いそうになって言葉が詰まった。「やっぱ、俺、ちょっとやることあるから、いいす」
「なんだよ~」と残念そうに先輩。
「用事終わったら来いよ。パーカの連中も来るってよ!」と山田。
「うん、わかった」
俺は上履きのまま、校舎の外に出た。
湿気はあるけど、涼しい心地よい風が、露出した肌を撫でる。
辺りは静かで、虫の声だけが響き、晴れ渡った夜空は余りにも無限だった。
玄関前のロータリーを抜け、校門のところまで足を運んだ。
「ホント、どこ行ったんだよ」
ジャージのポケットに両手を突っ込み、サンダルを引きずりながら歩き、校門の門柱に背をもたせた。背中にコンクリートの冷たさが伝わってくる。なんだか熱くなった頭も冷えてくる。
ちぇっ、プール行こうかな・・・。
「コラッ!!!」
「わぁああああ!!」
突然の声に俺はびっくりしてもたれかかっていた門柱から飛びのいた。
ナニ? 何が起こったんだ??
すると上のほうから笑い声が聞こえてくる。見上げると、門柱の上に人影が座っていた。
「あはははっ。ワァーだって、ワァー。超びっくりしてんの」
「・・・、木ノ下か? おまえそんなとこで何してんだよ!」
俺は半ギレ気味に言った。あー驚いた。
「べーつに~。ただ星空を見てただけ」
「空になんかあんのかよ」と怪訝そうに見上げる俺。
「上がってくれば? ここで見た方がいいよ?」
「あ? うん。ちょっと待ってろよ」
「逃げやしないから、気をつけなよ」
俺は鉄製の門によじ登り、それを足がかりに木ノ下の座る門柱の上に上がった。
「うおっ、なんだこれ? スゲー高いな、ここ」
そう言って門柱の上に立って辺りをぐるぐる見回した。すると、木ノ下が隣でくすくす笑ってやがる。
「なんで笑ってんだよ」
「え? なんか驚いたり、怒ったり、はしゃいじゃったりしてさ、か~わいいな~って思って」
「な、な、なんだよ? カワイイって・・・」
急に恥ずかしくなり、ストンと木ノ下の隣に腰を下ろす。木ノ下は何も言わず、また星空を見上げた。
続く・・・。
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