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藤巻舎人 脳内ワールド

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カテゴリー「私立日高見学園 第2章」の記事一覧

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私立日高見学園 第2章 後書き

シリーズ 私立日高見学園

第二章 「All Around The World」

完結です。

後半は遅筆になってしまい申し訳・・・・。

次章は登場人物個々の日常を綴った短編集的な感じになると思います。
生活の中でキャラクターを掘り下げてみる、なんて。

ではでは、読んで下さっている皆様、これから読もうとして下さっている皆様、
今後とも宜しゅうお頼み申し上げます。

藤巻舎人





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私立日高見学園(34) エピローグ3 九条魚名

「さぁ、どこから切断して欲しい?」
ゴージャスな外人女は囁いて、オレが横になっているベッドの脇に立った。

待って欲しい、と思った。
だがしかし、もう遅い、・・・か。
さんざん周囲を騙してきたアメリカのスパイがこの期に及んで「生きたい」、なんて虫の良過ぎる話だよな。
オレはあの学園の奴等を売ったんだ。
死人が出てもおかしくなかったんだ。

もう、終わりにしよう。

疲れたよ・・・・・。

「どこでもイイ。ざっくりやってくれ・・・・」

「あら、つまんない。・・・・まぁいいわ」

外人女は呟き、暗い光を宿す指をオレの体の上にかざした。
そしてオレは目を閉じる。

「ハーイ!! 検温の時間ですよー!!」
病室のドアが勢い良く開かれ、怒鳴り声が緊張の一瞬を切り裂いた
仰天してオレは閉じかけた目を見開き、女も動きを止めて背後を振り返った。

「え・・・あ、瓜生・・・?」
ドア枠に寄り掛かってニヤニヤ笑っているのは、瓜生襷だった。
「よー、九条、なに勝手に現実から逃げようとしてんだよ」
「ばっ、オレはっ・・・」
オレ達の遣り取りの隙をついて女が瓜生に迫ろうとしたが、直ぐに止めた。
「おーっと、動くなよ。ビョーインで怪我したくないでしょ?」
瓜生が手にしていたのは、オレが体育倉庫で使っていたグロック9だった。
「瓜生、なにしに来た!!」
「おいおい冗談は顔だけにしろよ」
「余計なことをするな!!」
「バーカ、病院は命を助けるとこだぜ?」
「それが余計なことだと・・・」
そこで女が割って入ってきた。
「ほーらね、坊やもこう言ってることだしぃ、ここは出直してきてちょーだい♪」
「やかましぃ、黙れ」
「わかんないかなー?? あんた、邪魔なんだ、よ!!」

女は瓜生の方へ一歩踏み出し、爪で引っ掻くように大きく中空を薙いだ。
しかし踏み込みが甘かったのか、その指は瓜生のところまで届かない。
と思ったら狙いは最初から拳銃だったらしく、どうやったのか知らないが、グロック9は瓜生の手元で紙の如く裁断されてしまった。
その後女は、連続して攻撃を畳み掛けるのを寸前で思いとどまったらしい。
瓜生がそれをさせなかったのだ。

「おー。まさかリアルで南斗水鳥拳の使い手がいるとはねー」
瓜生が訳の分からないことを呟いた。
「なにソレ? 美しいの?」
女が返す。
「むしろユダかよ!!?」

何故だ。
何故こうまでしてオレに構う。
つい数日前まで話した事もなかったというのに。
オレはおまえの敵だったんだぞ?
おまえを殺そうとしたんだぞ?
なんで助ける。
おまえになんて助けられたくない。
おまえにだけは助けられたくない。
オレに出来ないことを易々とやってのけ、
オレが持たないものを易々と手に入れ、
何食わぬ顔して今度はオレを助けようとする。
おまえが嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ。
おまえが憎い憎い憎い憎い憎い。
苦しめてやりたい。
絶望に追い込んでやりたい。
殺してやりたい。


だけど


ホントは      本当は・・・・


もっと        もっと知りたかった



おまえと      話したかった     おまえに訊きたかった


聴いて欲しかった




  受け入れて欲しかった            わかって欲しかった



おまえと           友達になりたかった


なんだか、一方的だよな。
だけど、だけど・・・・。

「あー!!九条テメェー!!油断してんな!!誰の為に闘ってると思ってんだ!?」
瓜生が叫んだ。
いつの間にか徒手空拳で瓜生と女は格闘していた。
「おまえって奴は・・・・折角ぅ・・・」
折角オレがいろんなこと思い詰めてたのにぃぃぃ。
「折角!?」
「うるさい!!誰が助けてくれって頼んだよ??」
「はぁ??」瓜生がキレ気味に声を上げる。
「ねぇ、ちょっとぉ、随分と余裕かましてくれるじゃない?」
女が不満そうに言って動きを止めた。
「そっちこそ手ぇ抜いてるだろ?」
瓜生が答える。
「あら、わかった?」
「さっき銃をバラバラしたやつ、使えよ」
「・・・・あんたに言われてやるのは癪だけど、まぁ、いいわ。それじゃ、死んで」

おいおいおい、何けしかけてんだよ瓜生。
この狭い病室で、あんな指先がライトセーバーみたいになる技使われたら、不利なのはおまえなんだぞ!!
だいたいこの女、相当の体術の使い手だ。
瓜生は良く凌いでいるが、押されてる。
女の指先に仄暗い青白い光が灯る。
次の瞬間、右腕を下から掬い上げ瓜生の喉元を指先で狙った。
しかし瓜生はその手首を捉えて止めた。
「大振りなんだよ」と呟く。
間髪入れず瓜生の顔面へ左手の突きを放つ。
駄目だ、速い。
女の手首を掴んでいる以上は避けられない。
と思ったら、寸前のところで女の突きが止まった。
何故止めた?
何が起こった?

手どころか、女の動きそのものがピタリと止まってしまった。
「ぐぐぐ・・・、あんた、なに、を・・・・」
女は唸るように声を絞り出す。
「はっ、悪ぃーけど奥の手っていうのはとっておくもんでね」
瓜生がニヤリと笑った。
「瓜生、おまえが何かしたのか?」
「まぁな。さーてどうする? この女に何か訊く事でもあるか? 今ならなんでも答えさせられるぜ?」
どうやら女は自由を奪われているらしい。
オレはまだ、瓜生の事を詳しく知らない。
他人の肉体を乗っ取る、などと荒唐無稽で非科学的な話は聞いていたが、本当の所どうなっているのかまったく分からなかった。
そういえばあの体育倉庫で瓜生は狂戦士のように豹変したり、3千年の記憶があるか? などと言っていたりした。
「さぁ、どうすんだよ、九条」
突然そんな事言われても、困る。
「え、あ、それじゃ・・・」

「ハーイ、ストップストップストップ!! 戯れはおわりの時間だよー!!」
突然、また入り口のドアが開いて、誰かが大声を張り上げながら病室に入ってきた。
なんたって訪問者の多い夜だ。
しかも全員まともじゃなさそうだ。
入ってきたのは、長身でピチっとしたスーツ姿で山高帽を被った白人男だった。
手には拳銃を持ち、瓜生へ銃口を向けている。おそらくベレッタM9。
「さぁ、少年、彼女を離してくれないか? なにか誤解があるみたいだが、話せばわかり合えるさ、その為に神は人類に言葉を賜ったのだ」
いや、言葉で説得じゃなくて完全に銃で脅してるだろ、おっさん。
どうやらもう一人おかしな奴が増えたらしい。 

「クソ、もう一人いたのかよ」
スーツの男を睨みながら瓜生は舌打ちした。
「こらこら、そんな汚い言葉を使っちゃいけないよ、少年」
瓜生は女の手首を掴んだまま無言で動かない。
「さぁ、美しくも純粋な我パートナーを解放してくれないか?」
「純粋?」
「ああ。彼女はピュア過ぎる。それが少々人生を生き難くしている嫌いがあるが、また魅力でもあるのだよ。ちょっと難し過ぎたかな? 高校生には」
スーツの男はそう言いながら、狙いをしっかりと定め、躊躇い無く引き金に掛ける指に力を込めた。
この間合い、この状況、この体勢。
まず逃げられない。
瓜生が掴んでいる女を自由に操れると仮定して、女を楯にしようとしても多分間に合わないだろう。それに薄ら笑みを浮かべて「パートナー」なんて言ってるけどこの男はいざとなったら平気で女を撃つ、そんな冷徹でプロフェッショナルな目をしている。
「彼女を離せば、ここは退かせてもらうよ。それは約束する。どうだい? 悪い条件ではないだろ?」
「この女を離したら、あんたらは何もせずにとっととこの病院から出て行く、それでイイな?」
交渉権なんてこちらには皆無だといって等しいのに、よくもまぁ強気な発言が出来るよ、瓜生は。
「保障はあるのか?」
「信じてもらうしかないね」
こんな怪しい奴等を信じろという方が無理だが、オレ達に選択肢はないだろう。
無理して戦っても、被害はこちらの方が大きい。
あくまで彼等の目的はこのオレの命なんだから。オレさえ殺せばリスクを負ってまで瓜生と戦う理由は無いのだ。
オレさえ、死ねば、それで済むのだ。

「わかった。この女を解放する」
瓜生は女をスーツ男の方へ放り出した。
女は拙い足取りで男の胸に飛び込んだ。
男はその間、一瞬たりとも隙を見せず、銃口を瓜生に定めたままだった。
「さて、約束もしてしまったし、行くとするか」
男が言った。
「あら、折角形勢逆転したんだしぃ、やっちゃいましょうよぉ。約束は破るためにあるのよ?」
誰か注射打て、このイカレ女に。
「いや、時には妥協も必要だ。藪蛇にならないようにね」
男が女を諭した。
ん? ヤブヘビ?
「という事で、我々は退かせてもらうよ」
「名残惜しいけど、またネ♪ アデュー」
引き際は素早かった。

「随分あっさり行ったな・・・」
オレは大きく息を吐いて言った。
「ん? まぁ要するにここは御祖の土地ってことだろ? 危険を冒してまで長居は無用って訳だ」
うーん、納得出来たような出来ないような・・・。
「お節介な奴が居るって話」
「それにしても、この騒ぎでよく誰も来ないようなぁ、この病院」
「バーカ、このフロアの人間は全員眠らされてるよ。たく、荒っぽいよなぁ、患者になにかあったらどうすんだよ」
「瓜生はどうして?」
「ん? 何が?」
「いや、だから・・・・」クソ、オレの口から言わせるのかよ「何で、おまえは来たんだよ・・・って」
「あー。夕方ここに見舞いに来た時、なーんか怪しい気配があったからさ、ちと警戒してたっつー訳」
・・・・・、そういうこと訊きたかった訳じゃないんだが・・・。
だけど、あれからずっと、家にも帰らずここを見張っていてくれたのか。
どうしてそこまでする? と改めて訊きたかったけど、なんだかもうどうでもよかった。
どうせおかしな答えが返ってきて、オレには理解出来ず、堂々巡りになるだけだ。
もういいや。
どうでもいいや。
成り行きにまかせても。

「ほんじゃ、オレ、そろそろ帰るわ」
「あ? ああ」
帰るのか・・・。
「大丈夫だって、心配すんな」
どうやらオレの表情が心配そうな顔に見えたらしい。
それはちょっと誤解なんだが。
「代わりに、御祖の奴等が見張ってくれるらしい」
御祖家の奴等が?
なんで?
あ、もうこの質問にはうんざりだな。
「ちゃんと寝て、早く怪我治せよ」
「おまえがやったんだろ?」
「あはは、そうだったよな、ウケる」
瓜生がドアの所で笑った。

「じゃ」とオレ。

「おう」と答える瓜生。

「学校で」



病室に、独り残された。
照明を消して、暗闇の中、ベッドに横になる。
カーテンが開け放たれた窓から、銀色の月明かりが静かに射し込んで、ベッドの上を照らしていた。








私立日高見学園(33) エピローグ2 九条魚名

「学校で待ってる」

そう言い残して瓜生襷は病室を出て行った。

あいつとの会話が頭から離れなくて、時折襲ってくる傷の鈍痛も忘れて考え込んでしまった。

もう夜中の0時。
寝れやしない。

待ってる、だと?
どうしてオレなんかを待つんだ?
だいたい、オレは瓜生を殺そうとしたんだぞ?
それ以上に、オレが学校に戻ってどうする?
偽りの経歴。
偽りの生活。
偽りの性格。
ずっとだ。
あいつが考えるよりずっと長い間、12歳の時から偽物の自分を生きてきた。

国を、社会を、地域を、学校を、先生を、生徒を、同級生を、
みんなみんな、ずっとずっと、オレを取り巻くすべてを欺いてきたんだ。
独りで、誰にも心開くこともなく。
友達、友人、知人、そんなものつくれるはずもない。
だってオレのすべてが偽りなんだから。
結局最後には全部裏切るんだから。
楽しいなんて思ったこともない。
心から笑ったこともない。
悔しいこともない。
哀しいこともない。

だけど、

楽しいふりをした。
笑ったふりをした。
悔しいふりをした。
哀しいふりをした。

そうやって偽り、騙してきた。

しかし、その偽りの化けの皮が剥がされた今、
残されたのは剥き出しの、
どことも、誰とも、繋がりのない自分。
宙に浮いた風船のように、
誰の手も届かず、興味の対象から外れた存在。

かといって、母国に帰ることも許されない。
任務は失敗し、身分がバレてしまった。
すでに使い道もなく、リスクとコストをかけて回収する価値も無く、
むしろ機密保持の為にも排除すべき対象ではないだろうか。

それならいっその事・・・・・。

『コンコンコン』

病室のドアがノックされた。
深夜のこの時間、いったい誰が何の用だ?
「シツネン、NO、シツレイ オマー」
明らかに発音と使用がおかしい日本語が聞こえた。
そしてドアが引かれ、廊下の明かりが部屋に鋭く入ってくる。
逆光で良く見えないが、看護師・・・?
「クスリ、キメル、ジカンヨー」
オレは照明のスイッチを入れる。

「おい、あんた、誰だ?」
「ハイ? ナースヨ、ワタシ」
そう言って女は点滴の管をさぐる。
「ジョーダンだろ!?」
「OH!! ドウシテワカター?」

「・・・・・・」

明らかに違う。
漆黒の背中まであるストレートの髪。
しかもどう見てもズラ。
胡散臭い黒縁メガネ。
碧眼。
ショッキングピンクのルージュ。
超ミニのスカート(コスプレにしか見えない)
人を殺せそうな程のスパイクヒール。

「ワタシのへんそうみやぶる、きいていたよりヤルわね」
ロン毛のズラを掴み捨てて女は言った。

変装のつもりだったのか・・・。
てっきり変態仮装かと思った。

正体はアッシュブロンドのベリーショートの白人女性。
物凄くゴージャスな容姿だが、ギラつくその青い瞳はこの上なく不吉だった。
要するに、ハナから上から下まで只者ではないのだ。
いろんな意味で。

「それなら話は早いわ。わたしがどうしてココに来たかもうわかったでしょ?」
病室の暗い照明の下で、白人の美女は妖艶に笑った。
「オレを、殺しにきたのか?」
「違うわよー。一度、ナース服着てみたかったの。それでお医者さんごっこするの。静脈にコーラ注射したり、メスでお腹を掻っさばいて腸を引きずり出して内臓恋占いしたり、タネも仕掛けも無いノコギリでの大腿骨切断ショー開催したり、ね? 殺しに来たんじゃないって分かってくれた?」
もはやナースコスプレ関係無い。
「普通死ぬだろ」
「やっぱり分かってないのね。死なないようにやるのがイイんじゃない。楽しい時間を長引かせようとするのが人の性ってものでしょ?」
「やられる方にとっては苦痛でしかないんじゃないのか?」
「・・・・あら、そうね。それは思いつかなかったわ」

ふざけているのか。
まともじゃないのか。

「あ、けど、相手がどう感じて思うかじゃなくて、ワタシがどう感じて思うかでしょ? 結局他人の痛みなんて分かり得ないんだもの」
純白の白衣の天使が悪魔のようなことをさっきから口走っている。
「他人の痛みが感じれられなくても、痛がっているのも見たり、言葉にされれば知る事はできるはずだ」
瓜生を拷問していたオレが良く言う。
「そうね。その通りだわ。けどね、あなたとの会話を通して、今、ワタシは新しい自分を発見したところよ」
こんなイカレた女の新しい自分も高次なる自分も知りたくもなかったが、思わず口が滑ってしまった。
「なんだよ、それは」

「ワタシは、他人が苦しんでいる姿をみるのが何よりも大好きで、興奮するって事」
やっぱりそうでしたか。
「だから」女はゆっくりとベッドに歩み寄る。「ワタシをエキサイティングさせてくれない?」

「それは死んでくれって言ってるのか?」
「別に死ななくてもイイのよ」女はつまらなそうに言った「地獄のような苦痛と恐怖で廃人になったり記憶が無くなったり自分を見失ったり、なんてのでも面白いんじゃない? むしろそっちの方が濡れるわ」
「鳴かぬなら、殺してしまおう、ホトトギス~」
「あら、そっちの俳人目指すの? 素敵じゃない?」
冗談のつもりだったんだが。
ていうか日本文化になじみ過ぎじゃないのか? この外人。
「これから体験する恐怖、現在進行形で自分の肉体に施されていく責め苦、それらを俳句にして詠んでいくなんて、フウリュウだわ」
「使い方間違ってないか?」

しかし、いったいどうしたものか。
どう考えても、何をされても、
結果的に最終的にはオレは殺されるんだろう。
病室という密室。
ここは地上五階。
窓から逃げるのは困難だし、そもそも病院の窓は外へ出られるほど開かない。
唯一の出入り口への途中には変態女が立ちはだかっている。
そしてこの怪我・・・。

あれ、オレ、普通に逃げようとしている。
生きようとしている。
なんでだろう、この期に及んで。
もう何もここには無いはずなのに。
ここでのアイデンティティはすべて消え去ったというのに。
ここには未来なんて無いはずなのに。

「待ってる」

瓜生襷はそう言った。
オレを待っていると。
だから学校に来いと。
そしてまた見舞いに来ると。







「なぁ、あんた・・・」
オレはぼそりと呟く。
「なに?」
「オレ、やっぱり死にたくない」
「・・・・、ねぇ、やっぱりあなた勘違いしてるわ。ワタシはあなたを殺しにきたんじゃないってさっき言わなかった? ワタシはあなたを助けたいの」
「はぁ?」
いったいこの会話はどこへ向かっているんだ?
「ピンチはチャンスってよく言ってるでしょ? バカそうな社長とか胡散臭い成功者が。ワタシもね、そう思うの。痛みを負わなければ成長は無いって、何かを得たいなら何かを捨てろって、言うでしょ? ワタシはあなたの更なる成長の為に、あなたにピンチをあげるの。あなたの為に痛みをあげるの。あなたの為に何かを捨てさせるの。
 ね? だからワタシに感謝しなさい。そして喜びなさい。今、あなたは生まれ変われるかもしれないのよ」

女の蒼い目が見開かれる。
両腕をだらりと広げ、やや猫背気味に前傾姿勢になる。
いびつに立てられた指先が、ぼんやりと光を帯びる。
コツ、コツ、コツ、と冷たくヒールの音を響かせ、オレが横たわるベッドのすぐ傍までやってきた。
「さぁ、どこから切断して欲しい? 指? 耳? 鼻? 脚? 腕? それとも・・・・・」






私立日高見学園(32) エピローグ1 瓜生襷

「帰れ」

最初の一言がそれだった。

「おい、勝手に椅子を出すな、座るな、帰れと言ったのが聞こえなかったのか?」

病室のベッドで横になる九条魚名はそう息巻いた。

ここは市内の御祖系列の総合病院だ。
その個室に、九条魚名は入院していた。

「まぁまぁそう気張るなよ」
「誰の所為でこんなことになってると思ってるんだ?」
「あ? 自業自得だろ?」オレはそう言い捨て、キャスター付きの長テーブルの上にグラビア雑誌を置いた「そら、土産だ」
「バ、バカ!! 要らねーって!! そんなの置いてあったら誤解されんだろ!!」
「誰にどんな誤解されるんですかー?」
「おまえっ・・・痛っ・・・」
「ほらほらまだ怪我人なんだから、大人しくしてろ」
「お、おまえがやったんだろ・・・」
痛みを堪えながら九条は言った。
「あん? なんならもっと入院長引かせてやってもイイんだぜ?」

「だいたい、何しに来たんだよ」
九条はふて腐れた感じで言った。
「はぁ? 見舞いにきまってんだろ?」
「だからぁ! なんでおまえが見舞いなんて来てんだよ!!」
「でかい声出すなよぉ、病院だぞ?」
「おまえがそうさせたんだ」
「たくぅ、その被害者意識治した方がイイぞ?」
「なっ!!・・・」
ベッドの背中を起こした状態でいた九条が今にも飛び掛かってきそうなほど身を乗り出し、顔を真っ赤にして怒りを露わにしていた。
ま、図星を言われて怒るのも無理も無い。
だけどそこを避けるほどオレは甘くない。

「九条さぁ、これからどうすんの?」
オレは折り畳み椅子の背にもたれて言った。
しかし九条は真っ白な布団カバーを見つめたまま答えない。
いや、そう易々と答えられないんだろうな。
なにせ、すべてを失ったんだから。
今までの生活の丸ごとを。
そして今、ここにいる九条は、
何の目的もなく、何者でもなく、何の理由もなかった。
偽りの身分、偽りの生活、偽りの心。
アメリカ政府から派遣され、何年もの間、御祖家をスパイする為にすべてを捧げてきた人間。
何もかもが潰れ、頓挫し、無に帰してしまった。
そして九条の今の境遇は、もしかしたらこのオレ自身にもあてはまったかもしれない。

しかし、同情はしない。
起こってしまった事に沈み、
選んでしまた事に後悔していても、
いつかはそこから這い上がり、抜け出さなきゃならない。
オレが何を言おうと届かない時は届かないし、
何を言っても無駄な時は無駄なんだ。
自分を許せるのは自分だけだし、
未来を受け入れるのも自分だけだ。
それでも、してやれる事はある。

「ま、今後の身の振りは置いといて、とりあえず怪我治ったらちゃんと学校来いよ」
オレは椅子から立ち上がる。
「は?・・・学校?」
「うん」
「学校に何がある? 行くことに今更何の意味がある!?」
「別に。なんも無いかもしんないし、なにかあるかもしんない。おまえ次第なんじゃないのか?」
「意味がわからない」
「意味はこれから考えろ。全治二週間だっけ? 考える時間はいくらでもあんだろ」
「バカにしてるのか? からかってるのか?」
「おまえこそ、勉強をナメてんじゃねーぞ? 今度教科書持ってきてやる」
言いたいことは言った。
「じゃあな。ちゃんと養生しろよ。学校で待ってる」
病室の引き戸を開けて、オレは廊下に出た。

そう。
迷え、戸惑え、恥じて、後悔して、不安がって、悔しがって、絶望して、のた打ち回れ。
その先に、おまえの出す答えが待ってる。




私立日高見学園(31) 佐伯主税

ようやく五月祭りの日曜日。
野球部の練習は結局午後の1時に終わってしまって、一旦家に帰ることにした。
学校からは歩いて通える距離なのだ。
下照幟と竹生雄友先輩は二人で裏山に行くそうだから、神社で合流するすることにして、後の瓜生と錦と春日はオレの家に集合する予定になった。

待ち合わせ時間まで一眠りして、起きたところで瓜生がまず到着した。
「よーっす。なんか佐伯んチ来んの久々だなぁ」
瓜生は靴を脱ぎながら言った。
「そうか?」
「おじゃましまーっす」
「気にすんな、今誰も居ねーから。先に二階に上がってて」
「ああ」
オレは麦茶の容器とコップとお菓子を盆に載せて自分の部屋に上がった。
「なんか麦茶しかなかった」
「お~、ありがと」
ベランダに出て午後の風景を眺めていた瓜生は部屋に戻ってきた。
「ここまで祭りのお囃子が聞こえるだろ?」
「ああ、聞こえた。裏山も近くに見えるしな」
オレはコップに麦茶を注いで瓜生に渡した。
「サンキュ」と言って「う~ん、美味い!!」と一気に飲み干した。

「で? なんか話でも?」
もう一杯麦茶を注ぎながら、オレは訊いた。
「え?」
「待ち合わせ時間にはまだだいぶあるし、瓜生は時間には正確だろ? だからなんかあんのかな~って思って。あれ? 違った?」
「いやいや、出来るね、佐伯のおっさんは、さすがだね」
「おっさん言うな」
「いやさ、別に今話さなきゃなんないってほどでもないんだけどさ」と前置きして瓜生はニヤっと笑った「おまえ、ニシキのことどう思ってる?」
「・・・・はぁ?」
突然錦の話が出てきからおかしな声を出してしまった。
しかしなんで錦?
それを錦をどう思ってるか、なんて今更?

「どうって、・・・幼馴染だし、すげぇ仲イイ友達? どう? 違った?」
「バーカ、なんでオレの顔色見んだよ、違うとか正しいとかの問題じゃねーの」
「じゃオレの口から何が聞きたいんだよ」
ちょっとイラっとして言った。
「ふーん、てっきり両想い的な感じかと思ってたけど、そうじゃないのかぁ」
「?・・・『両想い』?誰と誰が?」
「おまえとニシキとがだよ」
「えっ」 
「おまえさ、その『えっ』はどういう『えっ』なの? 驚愕? 拒絶?」
「う、瓜生だって極端じゃん、そういうんじゃねーよ」
「まぁいいよ。とりあえず、ニシキはかなりおまえに傾いてきてるぞ」
「え、いや、その傾いてるって、どういう?」
「サエキ、鈍感過ぎ!! ここまで言ったらそりゃもう『好き』ってことだろ?」
鈍感過ぎと言われて少しムッとなる。
「鈍感じゃねぇよ。オレだってニシキのこと好きだぜぇ?」

そこで瓜生はしっかりとこちらを見据えて言った。
「じゃあ訊くけど、おまえの『好き』ってどういう『好き』なんだ?」
オレは戸惑う。
「え? ・・・『好き』は、その、『好き』であってぇぇぇ~、『好き』に種類なんてあんの?」
「あ~~!! もうイイやぁ!!」瓜生はもう降参みたいなポーズをとって、そのまま後ろのベッドに倒れ込んだ「ヤメヤメヤメ、なんでもない、今までの話は無かった事にしてくれ」
「え~、なんだよそれ~、なんか勝ち逃げっぽくてヤダなぁ」
「ウルセ~てぇの。てめ~は脳ミソまで硬球になっちまったのかよ」
「おまえさぁ、最近口悪ぃよなぁ。なんか昔に戻ったみたいだよ」
「あ? ほっといて~」
瓜生はベッドに仰向けに寝転がりながら手だけ挙げてひらひらとさせた。

いったい何が言いたかったんだよ瓜生は・・・。
オレは釈然としないまま冷たい麦茶を飲み干した。
なんだよ、単に好きじゃ駄目なのか?
だいたい、オレの錦に対する『好き』はそんじょそこらの『好き』じゃないんだぜ?
『大好き』なんだぜ?
それに瓜生のことも好きだよ。
あ、大好きだよ。
ん? これじゃ錦と一緒だな。
あれ、錦への『大好き』と、瓜生への『大好き』は、・・・・ち、が、う? のか?

そこで外から「キーッ」という自転車のブレーキ音が聞こえてきた。

錦だ!!

「嬉しそうだなぁ? さえき~」
オレの反応を窺っていたのか、瓜生はいつの間にかベッドの上で体を起こしていた。
「フツーだろ!?」
錦が玄関のチャイムをやかましく鳴らす。
「たくうるせーなー、とっとと行くか」
瓜生が立ち上がる。
「ああ」

階下に下りて玄関を出ると、自転車に寄り掛かる錦の隣りに初めて見る人間が居た。
中学生?
いや、高校生か?
錦くらいの身長でちょい色黒で頭髪を針みたいに尖らせている。
「タスキさん、非道いじゃないですか!! 今日がお祭りなのに黙って家を出ましたね☆」
「げ!!?? チマキ、どうしてココに居る!?」
え? 瓜生の友達なのか? 
ん?・・・・家?
「俺と一緒に来たんだよ、ちょうど途中で道訊かれてさ」
錦が瓜生に言った。
「バカ、余計なことをー」
「ていうかおまえらさぁ、一緒に住んでんだって? 聞いたぜ?」
「そうなんです。この度ぼくこと面足千万喜はタスキさんのマンションにてお世話になることになりました☆」
「ばーーっか!! そんなのいちいち発表するな!!」
いったい何があった!?この二人に!!
「どうぞ宜しくお願いします!!」
面足千万喜君はペコリと頭を下げた。
「ああ~なんかイイなぁ~」錦が赤く染まり始めた空に向けて言った「なんか楽しそう~」
「他人事だからそう思えんだよ」
瓜生が皮肉っぽく言った。
だけど本当に嫌がってる訳じゃない。
本当に嫌だったら、なにがなんでも拒否する、それが瓜生だ。

うん、確かに、なんか楽しくなりそうだ。

「それじゃ、そろそろ裏山にに行こうぜ。向こうでカスガとヨロキも待ってるし」
そう言わないといつまでもここで話していそうな雰囲気だった。
「チカラ~、自転車置いてってイイ?」
「ああ。その辺停めといて」
「うわ~、神社の祭りって初めてなんですよ。わくわくしますネ、タスキさん☆」
「おまえはそうだろうよ」
「以前に体験したお祭りといえば☆ 黒山羊の頭部を被って・・・」
「それどんな祭り!? サバト!!??」

オレ達は騒がしく、裏山へと出発した。
五月最後の日曜日。




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プロフィール

HN:
藤巻舎人
性別:
男性
趣味:
読書 ドラム 映画
自己紹介:
藤巻舎人(フジマキ トネリ)です。
ゲイです。
なので、小説の内容もおのずとそれ系の方向へ。
肌に合わない方はご遠慮下さい。一応18禁だす。

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