「お~い、あの~、すみませ~ん」
何度か声を張り上げてみたけど反応が無い。
ったく、無駄な体力使わせんじゃねーよ。
「あの声だけ野郎はいない、のかな?」
試しに呟いてみたけど、静まり返っている。
よし、今しか無い!!
俺はベッドから立ち上がり、静かに素早く移動し、この透明な檻の中にある、
なんの衝立てもない便器の前に立った。
よし、イケる!!
真っ白な検査着みたいなズボンを下ろし、勢い良く放尿する。
はぁ~、気持ちいい~。
「ところで棚機錦君」
突然例の声が響き渡った。
「退屈ではないかね?」
最悪のタイミングだ。
なにこれ、狙ってたろ。完全に俺がションベンする機会を見計らって声かけたろ。
我慢していた末の放尿の快感も途中立ち消えとなり、モヤモヤした気分で雫を切ってズボンを上げた。
「ずっと居たのかよ」
洗面台で手を洗いながら言った。
「いやいや偶然偶然」
ホントかよ。こいつは信用ならない。
「偶然戻ったら、君がカワイイ仮性のペニスを出して放尿していたんだよ」
注目する視点が完全におかしい。
それ以前に話しかけるタイミングに作為と悪意を感じる。
「退屈していないか、だって?」
俺はまたベッドの上に戻った。
「なんかテレビとかゲームとかないの? せめて本や雑誌くらい」
「ふん。まぁ考えてみよう」
声は言った。
社交辞令みたいに当てにならないけどな、この声のことは。
「それよりも、話をしようじゃなか」
「はぁ? なんで」
「なんでって、どうせヒマなんだろ?」
こんな状況に追い込んだのはオマエラだろ!! って言ってやりたかったけど、監禁され相手も見えないのに議論吹っかけても無駄なので止めておいた。
いつまで続くかわからないんだ、なるべくセーブしていかなきゃな。
「話すっていったいなに話すんだよ。あんたのことなにも知らないのに」
「君が話せばいい」
「はぁ? 俺がぁ?」
「そう。例えば・・・」
そこで声の主は言葉を止めた。
奇妙な間が出来た。
何かしら不安にさせる空白。
ずっと考えて用意していたことを見せつけようとする瞬間。
「そう、例えば、君の父親のこと、とか」
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