狙われた秘密特訓 3
ウチの高校はちょっと変わっている(ホントにちょっとかどうかは自信がない)。
“男子たるもの、友情をもっとも大切とし、真剣に男と付き合うべし。(よく知らないけど)古代ギリシャのスパルタ然り、日本の武士然り。真の男子は男同士の関係を一番重要とする!”
こんな感じが学校の理念になっている。校長だって「男と付き合え!」と事あるごとに言っている。
「その経験が今後の人生をより円満に生きていくのに役立つ」そうだ。
その所為もあって、ウチの学校は男同士がかなり親密だし、スゲエ仲イイし、特に表立ってではないけど、ホントに付き合ってる奴らも結構いるらしい。
それに外では女と、学校では男と、なんてのも普通にあるって聞いた。まあ、男子校ということもあって、彼女つくるよりは、目の前にわんさかいる男と付き合う方がお手軽なのかな。
こんな学校だから、俺たち新入生の中でも、男同士ホレたハレたなんて会話は日常のことになりつつあった。
「コウヘイ、サンキュー!」
ずっと向こうにある売店の辺りで、シンジが大声を出して飛び跳ねていた。
「アイツ、高校生にもなってガキみてぇに」と一人ゴチた綿貫は浅黒い顔を赤らめて叫び返す。「バカ! ふざけてアイス落としても知らねえぞ!」
「落とすわけないじゃん」と聞こえてきた声が一転して悲痛な叫びに変わった。「ああああぁ、落っこちた!」
「かぁ~、ホントバカ」
綿貫はたまらず片手で顔を覆った。
「行ってやらないのか?」と俺。
「いや、今までアイツを甘やかし過ぎた。高校に入ったんだし、これからは厳しくいかねえとな」
「オヤジ臭ぇ、父親みたいだぞ」俺はプッと吹き出す。
「笑うな」
向こうから「コウヘイ、どうしよぅ~」とまたシンジの泣き出しそうな声が響いてくる。
「ほっとこう。それより、おまえホントにシンジのこと気に入ったみたいだな」
「なっ、なんでだよ」いきなりの図星なので動揺を隠しきれない。
「さっきから不機嫌そうだぞ? おまえ」綿貫はニヤニヤと楽しんでるみたいにこっちを見る。「妬いてるな?」
んなことねえよ、と言ってみたものの、内心めちゃくちゃ綿貫のことが羨ましくてしょうがなかった。あんな風にあいつと話せたらなぁ、あんな風に俺の名前を呼んでくれたらなぁ、俺に甘えてきてくれたらなぁ、ってもう胸が張り裂けんばかり。
「おまえだって結構人気あるんだぜ」と綿貫。
「へ?」なんのことを言ってるのかさっぱり。
「不器用そう、単純そう、朴訥として、男臭い、そこがイイんだってよ」
「それ褒めてんのか?」
そう言って綿貫の表情を読もうとしたら、すっと前を向かれて上手くかわされた。あれ? どうしたんだ?
「ほら、行ってやれよ」綿貫は俺の尻をバスンと叩いた。「チャンスだぜ」
「あっ、うん」
意外な綿貫の気遣いに戸惑いながらも、既に心はシンジのところに飛んでいた。ヤバイ、心臓がバクバクと高鳴って、ぶっ壊れそうだ。落ち着け、落ち着け、冷静に・・・。
そう自分に言い聞かせながら、俺はぎこちなく浜田シンジへと近づいていった。
<つづく>
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