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藤巻舎人 脳内ワールド

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カテゴリー「私立日高見学園 第3章」の記事一覧

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私立日高見学園(4) 万木非時

「一万年生きてきたなど、偽の記憶かもしれない、だろ?」
そう言って龍樹先生は陰惨な笑みを浮かべた。

え?

つまり、

それは、

いったい、

どういう事だ?


オレの中にある記憶は全部偽物、だと?
オレという人格はウソ、だと?

「フフフ、極端な話、実は普通に高校生の年齢だということも有り得るかもね☆」

では、今ここにこうして立って、あれやこれやと考えを廻らせているオレはいったい何者なんだ?

「ま、どっちにしろ、創られた存在なんだろ? トキジク君☆」

「いい加減な言葉で惑わすなっ!!」
姫の鋭い言葉がパシンっという乾いた音と共に響いた。
波の音と潮風にも負けない、肉声。
初めて聞くかもしれない姫の、怒声。
見ると龍樹先生が頬を手で押さえている。
やっぱり、引っ叩いた、のか?
もしかして、ヤバい状況?
裏山での出来事が脳裏をよぎる。
このオレが反応すら出来ずに心臓に短剣を突き刺されたことを。
守り切れるか!?

「フッフッ負っ負っ・・・」
低く呻き声を漏らす龍樹先生。笑ってるのか?
「ハァーッハッハッハッ!! なんともすばら 『べチン!!』
ええええええ!?
『べチン!!』って・・・。
かなり喰い気味にもう1回姫のビンタが飛んだ。
キメ台詞すら言わせない猛攻。
ていうかオレ達、もしかして死んだ?

「いやいや、なかなか良いのを持ってるじゃないか☆ 美しき者から手を上げられる。紳士として本望デス!! そしてそれが騎士道へと通じていくんだろ?!」
溌剌とした笑顔で奇異な事を口走る龍樹先生。
「美しき女性に虐げられてこそ騎士なのだよ!!」
どこで覚えてきた、その倒錯した嗜好。
まぁ、バカなおかげで助かったかもしれない。
姫もリアクションに困って引いている。

「ま、それはさておき、あちらの方は、お知り合いかな?」
先生の視線の先には、1人の男が立っていた。
白のカッターシャツに黒いネクタイ、黒のスラックス、黒の革靴。
まるで葬式帰りだ。
そして左手には太刀が一振り。
こちらが気付いたのを知って、近づいてくる。
あの人は確か、唱(トナウ)さんの弟で、奇杵仕(クシキネ ツカウ)さんだ。
「あの方は、私のお目付け役だ。良く言えばボディーガード」
姫が平坦に言った。
「ふぅん、なんだか殺気立ってるみたいだけど?」

「彼女から離れろ!! 妙な動きをしたら叩っき斬るぞ!!」
確かに凄い剣幕だ。
「おまえもだ、ヨロキ!! 菊桐姫から離れろ!!」
オレにまで怒気を向けてくる。
「ねえ、君って彼等の一味じゃないの? もの凄い邪慳な扱いだけど」
先生が小声で訊いてくる。
そういうところは知らないんだ、この先生。
「いえ、まぁ、いろいろあるんですよ」
とだけ答えておいた。
実際いろいろあるのだから仕方がない。
御祖家の中で、オレはいま一つ認知されていない。
それも当然か。
突然胡散臭い素性の存在が現れて、自分達の盟主であるスメラギの傍に居るんだからな。
一族の内に伝わる伝説の中の存在など、誰も信用しないし、信用ならないだろう。
そういう見地からすれば、姫の言う「御祖家にとってもスメラギにとっても特異な存在」というのも分かる気がしないでもない、か。

「菊桐姫はこちらに!!」奇杵仕さんは太刀を抜き、その切っ先をオレと龍樹先生の間に向けた。「勝手な行動は困る!! で? この状況はいったい何なんだ?!」
視線からすると、どうやらオレに説明を求めているらしかった。
「この状況・・・、っていうと?」
「だからどうしてここに居て、この男は何をしているんだ!?」
奇杵仕さんは苛立たし気に、言葉を荒げて言った。
「ああ、オレが姫を誘って海を見にきたんだ。そしてコチラはオレの学校の先生様で・・・・、まぁ偶然出会った訳で・・・」
うん、ウソにはなっていない。むしろ確実な、そして適切な説明だと思う。
これ以上詳しい事を言えば言うほどオレの立場はどんどん怪しくなるってもんだ。
特にこの先生に関しては。

「日高見の教師!? こんな見てくれで? だいたいどうしてずぶ濡れなんだ!?」
ホラきた。
つーか香久夜からなんも説明無いんだよなー、龍樹センセの事。
まぁ、あったらあったでややこしい事態になるんだろーけど。
オレは先生に、自分で説明して下さい、と目で催促してみた。
ホント、この存在は災いでしかない。
「オッホン!!」龍樹先生は偉そうな咳払いをして、語り出した「ここは教師として、大人として、私が説明致しましょう。正に私は、散歩の最中でして・・・・」
そこで先生は話を止める。
どうやら説明終わりらしい。
「・・・・・・・。で?」
終った事に気付かず、先を催促する仕(ツカウ)さん。
「? え? 何が?」
「だからなんでそんなびしょ濡れの格好になって姫から張り手喰らわされてたんだ!?」
マジになるな、仕さん。この先生を相手にして。
「あぁ、それね」と言ってもの凄く不吉な笑みを浮かべる先生「惑わして、迷わせて、かどわかしていたんですよ、このいたいけな少女を☆」
ヤバイ。
挑発に乗るな、仕さん!!

「余り調子に乗るなよ」
低くドスの効いた声で仕さんが言う。
そしてその姿を消した。
奇杵仕(クシキネ ツカウ)。
スメラギ御三家の一つ、奇杵家当主、奇杵唱さんの実弟にして、瞬間移動の能力を使いこなす。
現在、水分家最強巫女、菊桐姫のお目付け役。
その彼がオレ達の前から姿を消した瞬間、龍樹先生の背後に姿を現した。
先生の背中に日本刀を突き付けた格好で。
「姫に対して数々の無礼、もはや一般人かどうかなど関係無い。今ここで土下座して謝れ」
仕さんは先生を脅す。
「随分物騒じゃないか。この国は平和な国って聞いてたんだけどなぁ」
「3秒くれてやる。1、2、さ」
『バシュ』
3、と数え終える前に、太刀を握った仕さんの腕が肩まで破裂した。
なんの前触れも無く。
まるで埋め込まれていた小型爆弾でも爆発したように。
飛び散る肉片。
真紅の血飛沫。
仕さんの真っ白なシャツを鮮やかに染め上げる。
「あはははははは!!」高らかに笑い声を上げる龍樹先生、あるいは這寄る混沌「これは愉快愉快、ダイヤモンド☆ユカイ!!」



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私立日高見学園(3) 万木非時

「ほら!! 海が見えてきたぜ!!」
オレは背後に向かって叫んだ。
にしても、姫には既に見えてるはずだから要らんことなんだが。
読心や遠見、千里眼。
人の記憶以外の過去、あるいは未来は分からないにしても、
その他あらゆる事象を見て、感じて、知ることが出来る少女。
彼女にしてみれば・・・

「そうでもないぞ!!」緩やかな坂道を登り切って海が見えた途端、姫が声を発した「やはり肉眼で見るのとは違うんだ!!」
その声にはどこか高揚がこもっていた。
なるほど、そういうものなのか。
『あまり自分の肉体器官を使わずにいるとな、自分が希薄になっていく気がするんだよ。まるで肉体を失って大気に、あるいは世界に溶け込んでいってしまいそうな、内と外の境界が曖昧になって・・・』
『なんだかコエーな、そういうの』
そこで姫が沈黙する。
わかる気がする。
自分への恐怖。
自分という存在への恐怖。
それとどう折り合いをつけ、コントロールしていくか・・・。

「おら!! 辛気臭せー話は終りだ!! もう海に着くぜ!!」
コンクリートの堤防に沿ってしばらく走り、適当な駐車場に入ってバイクを停めた。
エンジンを切るか切らないかの内に後ろの姫はバイクから飛び降り、メットをオレに放り投げると、砂浜の方に駆けていく。
「おーい、そんな靴じゃ砂だらけになるぞー」
そう声をかけた瞬間には、足を止めてソックスごとローファーを脱いでいた。
「おうおう、はしゃいじゃって。さっきまでグズってたのに」
『グズってたのはおまえだろ!!』
間髪入れずにに抗議の声が意識を強打した。
めまいがする。
グェ、ちゃんと聞いてやがった。

オレはバイクに跨ったままメットを脱ぎ、大きく息を吐いた。
意識が遠のきそうなほどに高く晴れ渡った空。
裏山で米兵を迎えた時も物凄く晴れてたっけ。
そういやあん時も姫と一緒だったよな。
よし、今度は春日麿を連れてこよう。
『私で悪かったな!!』
再びガツンと言葉が飛んできた。
こりゃ、テレパシーも武器になるな。

梅雨の合間の晴れ間とはいえ、田舎の浜辺にはほとんど人気が無い。
遠く海に突き出した崖の辺りに犬を散歩する女性が1人。
それくらいだ。
オレ、視力もイイんです。
波は穏やかで、湿った潮風もそれほど気にならない。
オレはバイクを降りて、砂浜へ歩を進めた。
姫はスカートをたくし上げ、素足で波と戯れている。
水飛沫を上げ、打ち寄せる波から逃げたり、砂の生の感触を楽しむように何度も踏みしめたり、海水を蹴り上げたり、波が足元をさらうままにしたり。
なんだか、まるで光と水の狭間で、ダンスしているみたいだ。
どこか懐かしい光景。
いつか見たような気がする。

「そうイヤラシイ目で見るな」
姫は今にも笑い出しそうな顔で言った。
その目にはギラギラとした強い意思がみなぎっている。
「んな訳ねーだろ」
「おまえもこっちへ来い」
「水、冷たくねーのかよ」
「これくらい、平気だ。むしろ気持ちイイぞ」
オレはスニーカーと靴下を脱いで、波が届かない砂の上に置く。
姫の立つところまで近づく。
濡れて色が変わっている砂の感触が不思議だ。

「気付いていると思うが」オレを目の前にして、姫が口を開いた。潮風に黒髪が揺れる「トキジクの記憶は多少いじられている」
「えっ、・・・・あぁ」
なんとなくそうかとは思っていたが、ズバリ指摘されると動揺してしまう。
やはり、そうだったか。
「おまえの記憶は、いったいどうなっている? 生まれた時から、今まで一万年以上もの記憶が全部存在しているのか?」
姫が少し心配そうな顔で訊く。
「いや、実はそうでもない。今となっちゃあんまり気にならなくなってたけど、実際かなり曖昧なんだよな」
「ふむ、その曖昧さは人為的なモノに依る部分があるみたいだが・・・、まぁ、『人為的』というところも微妙だがな」
たく、怖いこと言ってくれるぜ。
人為的じゃなかったら、いったい何の所為なんだ?
「そりゃ、アレだろ。心当たりなどいくらでもあるんじゃないのか?」
はいはい、そうですね。
オレの周りには化物じみた奴等の方が多いですよ!!

素足を幾度も冷たい波が洗っていく。
キラキラと日を浴びて輝く海が、姫のカタチを縁取る。
「トキジク、おまえの記憶を聴かせてくれないか?」
いつしか姫の眼差しは真剣だった。
知られたくない、知って欲しくないことなど沢山してきた。
しかし今更隠しても仕方ないし、なにより姫が本気になれば隠し通すことなど出来ないのだ。
ま、そろそろ、いいか。
「うん、おまえは充分抱え込んできた」姫が柔らかく言う「誰かに打ち明けるのも、誰かと分かち合うことも必要な事もある、それに、知りたいのだ、私自身が」
「え?」
「御祖家とは、スメラギとは、何なのか。この力が何の為にあるのか。真実が知りたい」
そうか。姫はオレの記憶を通して、自分の事を知りたいんだ。自分の存在理由を。
「・・・・、わかった。いいぜ」
オレの返事を受けて、姫はすっと手をかざしてきた。
『記憶を聴かせてくれないか』と姫は言った。
そう、姫の名、『菊桐姫』は『聴くり姫』でもあるんだ。
さぁ、オレの過去を聴いてくれ・・・・。

と目を閉じかけたところで、姫の背後に有り得ない光景を見て驚愕した。
オレの動揺を感じ取って、姫が咄嗟に海側を振り返った。
突然、泡立つ海水の中から立ち上がったのは・・・。
「りゅ、竜樹っ!! センセイ?」
「ヤァ、君達、奇遇だねぇ☆」
「って、アンタいったいここでナニしてんだよ!!???」
海水でずぶ濡れのスーツ姿。
貼りついた長い黒髪を掻き上げる。
「ナニって、散歩に決まってるじゃないか☆」
午後の金色の日射しを一身に浴び、
褐色の肌に映える真っ白な歯を露わにして笑った。
文字通り水も滴るイイ男なのだが、実際はアホにしか見えない。

「どんな散歩してたら海の中から出てくんだよっ!!!」
しかも服着たまま。
竜樹先生は中まで海水でグショグショの革靴をガッポガッポいわせながら近づいてきた。
「うーん、海水って、しょっぱいんだね。どう? 塩分補給する?」
そして悪びれる事もなく、片手をオレ達の方へ伸ばしてきた。
「舐めるかっ!!!」
「おい、トキジク、こいつは・・・」
いつの間にかオレに引っ付くくらい近くに寄っていた姫が小声で訊いてきた。
「これはこれはお姫様。私めは単なる高校教師でございます☆」
先生は仰々しい身振りで挨拶した。
「単なる・・・・・ではないんだろ?」
「あぁ」
とうなずくオレ。
こんな教師、どう見てもまともな訳がない。

『おい、トキジク。この男の精神は・・・』
姫が思念で語りかけてきた。
『なんだよ、読めねぇーってか?』
『いや・・・・・・、底無しの、暗黒』
「いやいやいや、お二人だけでお喋りとは、仲が良いことで。いつぞやお世話になったのはお姫様、あなたでしたか!!」
「何の事・・・・、あっ」
「そうです察しがよろしいようで。裏山一帯の結界喪失及び索敵探査無効のさなかに、よくぞ思念を飛ばしてきたものです!!」
「もしかしてあんたが・・・・、トキジクは知っていたのか?」
「ん? ああ、直接っていうか、なんとなくな」
コイツ以外いねーっていうか、な。
「そう機嫌を損ねなさるな。世の中には知らないでいた方が良い事もあるのですよ。例えば、そこに居るトキジク君の過去、とかね☆」
「おいおい、なんか知ってる風じゃねーか」
「常々言っている通り、知りたい事ならなんでも知っているんですよ、ハイ。そこのお姫様以上にね☆」

「あんたいったい何者なんだ」
姫が珍しく語気を荒げている。
「さて、己とはいったい何者なのか・・・。人間の永遠のテーマじゃあ~りませんか? 人は何処から来て何処へ行くのか。なんと謎に満ちていることか!! そこの彼の過去のように。まぁ、しかし、記憶の中の過去など、正しいとは限らないでしょ?」
うん、なぁ結構忘れてる事は多いよな、何せ一万年生きてるんだから。
「いやいやいや、そういう事を言っているんじゃないんですよ。私が言いたいのは、君の過去が真実とは限らない、という事なんです」
「だからそれが・・・・」
「君の記憶は何者かに操作されているかもしれない」
そ、それはさっき姫も言っていた。
「一万年生きてきたなど、偽の記憶かもしれない、だろ?」
竜樹先生は意味有り気にニヤリと笑った。
波の音が、突然大きく聞こえだした。









私立日高見学園(2) 万木非時

「私ぃ、海がみたい!!」
姫は後ろでそう叫んだ。
いつもの堅苦しい物言いではなく、年相応の少女の声。
普通だったら当たり前であるはずの意思表示。
だけど姫は普通ではない。
御祖家というとてつもない怪物に与する水分(ミクマリ)家最強の巫女。
本来ならばおいそれと外出など出来ない境遇だ。

『ふん、それは他でもない、おまえだからだろ?』
姫はオレの意識に語りかけてきた。
『え?』
『裏山でも言ったろ? おまえは御祖家にとってもスメラギにとっても特異な存在なんだよ』
『ふーん』
いつからだろう。
スメラギの周りを御祖家などというものが取り囲み始めたのは。
『時代の変遷だよ。おまえは変わらなくとも、人間はたかだか数十年で入れ替わっていく。国や社会やそれらの仕組みも然りだ』
『まるでオレが悪いみたいな言い方だな』
そうだ。
すべては移ろい過ぎていく。
オレを独り置き去りにして、次から次へと。
『そう、望まれているからだろ?』
『? 誰に? 何を?』
『トキジクに変わって欲しくないと、スメラギの願いであろう』
スメラギの、望み?
『おまえだけには、変わって欲しくない、と・・・』
オレに変わって欲しくない。
それって、どういう意味なんだろう。

「それはぁ!! 自分で考えろ!!」
突然姫は、現実の肉体を使って大声を発した。
オレの生きている意味。
一万年も生かされている理由。
それは・・・・。
そこで、春日麿の顔が浮かんだ。
再び春日麿に廻り合えた。
一万年という時を経て。
あの『大断絶』から。
そう考えたなら、生きてきて良かったと、いえるのだろうか。

「なぁ!! もっとスピード出ないのか?」
姫が不平を言う。
半袖のセーラー服を、
濃紺のプリーツスカートを、
強い向かい風にはためかせて何を言うか。
とんだお姫様だ。
「ハァ!? 無茶言うな、ここは公道だぜ?」
「なんだ! 自信が無いのか!?」
そういう問題じゃない。
既に規定速度の時速60㎞は超えてるんだ。
それに信号だってある。
「ではこうしてやろう」
姫の一言で、感覚・意識が一気に拡張された。
周囲数㎞内のすべてを感じて、見て、知ることが出来た。
「おわっ!!」
さすがのオレでも、いきなりやられると驚く。
「どうだ? これで何も心配はあるまい!!」
確かに、数㎞先まで信号の変化がわかるし、前方を走る車だって対向車だって人の動きだって脇道からの車両その他諸々の動きも逐一把握出来た。
その気になれば付近の野良猫野良犬の挙動から、路面の状態、大気の動き、気温天候なんでもござれ。道路上の蟻の動きだって認識出来る。
それにオレの反応速度と情報処理能力も加えれば万に1つでも事故を起こすことはないだろう。
それでも・・・・。

「なんだ、人の規範を超えるのが怖いのか?」
「おまえなー」
どうしたんだ? 今日はやけにつっかかってくるなぁ。
「私は怖くなどない。むしろ、疲れた・・・・」
「・・・え?」
訊き返し、チラリと背後に目をやった瞬間、姫は後部席に装備されているバンドから手を離した。
ゆっくりと姫の体が後方へ退いていく。
ふわりと。
制服と長い黒髪を風になびかせ。
空中へ浮かぶように。
それはまるで、天女だ。
そして次の瞬間、膨大な思考がオレの意識に押し寄せてきた。

もう疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた
私の力を知る人間は、どうしたって私の前では身構えてしまう。
スッと心を閉ざそうとする。
当たり前か。ワタシは人の心が読めるんだから。
それは怖いよね嫌だよね。
自分の考えてる事、思ってる事、隠している事、嘘の事、本当の事、好きな事、嫌な事、忘れていた事、忘れたい事、言いたい事、言えない事、言いたくない事、言っちゃ駄目な事、全部全部知られてしまうのだから。
おのずと敬遠される。
私の力を知らない人に対しても、私がちょっと力を使えばすべてを知り得てしまうという前提ある以上、私自身が距離を置いてしまう。
そしてなによりも、私は何も知りたくないのだ。
少しでも力のセーブを誤れば、途端に闇夜の洪水の如く、黒水のような思考が私の中に雪崩れ込んでくる。
私は暴風雨の大海に浮かぶ一枚の木の葉に成り下がる。
それを防ぐためにも、私は常に緊張と集中を強いられる。
力の封印など、無いよりはましだ、という程度だ。
私の力は強過ぎる。
手に余りそうになる。
持て余しそうになる。
しかしそれが他に悟られれば、私は一生日の目を見ることは叶わなくなるだろう。
制御出来ない力は、危険なだけなのだから。
恐れの対象でしかないのだから。
忌むべき存在。
疎まれるべき存在。
そんな私など、居なければいいのだ。
要らない存在なのだ。要らない存在なのだ。要らない存在なのだ要らない存在なのだ

「さよならだ」
それは肉声だったのか意識に響いたのか区別がつかなかった。
姫の安らかな笑顔が遠ざかっていく。
猛スピードで流れていく風景と共に。
だかしかし、オレは余裕で姫の片腕を掴み、簡単に躰を引き戻した。
時間にすれば一秒にも満たない瞬間だった。
それでもオレには充分だ。
「ふざけるのもいい加減にしろ!!」
オレは前方に向き直ってバイクの運転に戻った。
「ふん、そう真面目にとるな」
「はぁ!?」
「トキジク相手にあんな行動無駄だと分かっているよ」
「万が一ってこともあるだろ!!」
「信じていたよ。オマエが止められることを。オマエが止めてくれることを」
「試されるこっちは堪ったもんじゃねーよ!!」
姫の言う通りだった。
オレならあんな行動とられても止めるのは簡単だ。
正直、万が一、なんてありはしない。
絶対に止めることが出来る。
「なんだ、機嫌が悪そうだな?」
「別にー!!」
こいつ、知ってやがる。
姫が手を離した刹那、オレは思ったのだ。
『いかないでくれ。オレを独りにしないでくれ』と。
クソ、自分の中に残る弱さを吐露した自分にイラつく。
一万年生きてたって、この低落。
オレの人生いったい何だったんだ?
「そう自分を卑下するな!」
その声に多少笑いがこもっている。
「ウッセー!!今度やったらゼッテー助けねー!!」



私立日高見学園(1) 万木非時

オレの愛車である、というのはウソで、実は唱(トナウ)さんのを借りてきたんだけど、カワサキZEPHYR750を校門の前の車道に着けてメットを脱いだ。
古びた赤レンガで出来た塀と校門。
今では青々とした葉っぱを生い茂らせている桜の樹が塀沿いに並ぶ。
梅雨の中休み。
きらきらした日射しが桜の梢に遮られ木漏れ日をつくる。
そんな中、古風なセーラー服姿の女子高生達が校門から出てきて歩いていく。
校舎から聞こえてくる活気ある声、活動の気配。

「なんか、イイなぁ」
「『なんかイイなぁ』、じゃない。変態か」
思わずこぼれた独り言に即座に容赦なく冷やかに突っ込まれた。
「あ、ようー、姫」
「女子高の校門の前で何ニヤニヤしてるんだ? 警察に通報した方が良かったか?」
「えっ!? オレ、そんなにニヤニヤしてた!?」
「吐き気を催す程に。と、ここを歩く女子生徒全員が思っている」
姫、こと菊桐姫は、歩道を行き交う女子高生を目で示して言った。
「・・・・、死にたい」
「死ぬのは勝手だが、いったい何故にこのような場所に居る? まさか本当に女子高生目当てだったのか?」
「え、いや、そのー、まぁ女子高生目当てっていうのは当たってるけど・・・」
そう言い終るか終わらないかの内に、姫は携帯を出して・・・。
「ちょっ、ストップ!! どこ? どこに電話しようとしてんの!?」
「警察」
「違う!!誤解だって!!女子高生っていうのは」
「女子高性?」
「だから話を聞け!!」
「なんだ、偉そうに」
えーーー!!!???ナニこの流れ!?
「オレはぁ、姫を誘いに来たんだよ!!」
「知っている。さっさとメットをよこせ。ここは目立つ」
「・・・・・・・」
相変わらずメンドクセー!!!
「早くしろ。さもないと『性的悪戯目的のオッサン誘拐犯が居る』と誰が通報するかわからんぞ」
「オッサン言うな!!れっきとした高校生だ!!」
「一万年生きてるんだろ?」
「とっくにオッサンの領域超えとるわ!!」
「フフフ、笑えん冗談だな」と姫は笑う「さぁっ!! 思いっきり飛ばしてくれ」

オレの外見は一万年経っても変わらずに、ほぼ18歳くらいのままだ。
一万年生きている、といっても三分の二は封印されて停止状態だったので、実際のところは数千年といったところだろう。
それでも、人間とは比べ物にならない。
オレの生きてきた年月は、人の想像を遥かに超えている。
あらゆる面で人外、規格外、桁違い。
この人の世において、オレの存在はまったくもって異質だ。
ウルトラマンと同じくらいに。

「最後の『ウルトラマン』は余計だな」バイクの後部に跨った姫が言った。「ウルトラマンとは雲泥の差だ」
「え?」
「いいから早くバイクを出せ」
「へいへい」
エンジンをスタートさせ何度かふかした後、アクセルを絞った。
風景が動き出す。
水の匂いがする空気を感じる。
街路樹の葉が、久し振りの日射しを受け、勢いを増している。
今回の誘いは、先月裏山の中御座で米兵との一件にて、姫をデートに誘うと約束させられたからだ。
「で? どこへ行きたい?」
オレは肩越しに背後の姫に声を掛ける。
半キャップだから声は届くはずだ。
しかし姫に渡したメットはジェットタイプだし、走行中ともあって、後ろからの声は聞こえづらい。
「え? なんて?」
「どこでもイイ!!」
姫が声を張り上げる。
「テレパシーで喋っても良イイんだぜ?」
そう言ってから、姫は通常時、力を制限されていることを思い出した。
躰に施された封印呪やその他諸々の手段で。
しまった、失言だったな。
『別に気にしてなどいない』
意識に姫の声が届いた。
『アレ? 力、使えんの?』
『ふん、この程度で私の力を抑えられていると思っておる。まぁ、そう思ってくれている方が楽なのだが、甘くみられたものだ。だいたい、力のオン・オフくらい朝飯前だ』
『だったらなんで・・・?』
『制御出来ると、思わせておいた方が、要らぬ恐れを抱かせずに済むだろ? そういうことだ』
姫の言葉。姫の心境。姫の境遇。
もっともな事だな。
それで丸く収まっていられるのなら・・・。
皆の妥協点。
人間関係ののラグランジュ・ポイント。

「だからこうやって!!」と背後で姫が叫ぶ「肉体器官を使って話すのはっ!!良い気分転換になるんだよっ!!」
猛烈にぶつかってくる風の音。
エンジンの駆動音。
それらに抗って、姫は力いっぱい生の声を発する。
自分が生きているという自覚。
「気持ちイイーーー!!!!」
その声を聞いて、姫の笑顔が目に見えるようだ。
光と風を一身に受け、五感で世界を感じている。
世界を受け止めている。

「海に行きたい」
「え?」
「私ぃ、海が見たい!!」
「おーし、わかった!! 飛ばすぜー、ちゃんと掴まってろよ!!」





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HN:
藤巻舎人
性別:
男性
趣味:
読書 ドラム 映画
自己紹介:
藤巻舎人(フジマキ トネリ)です。
ゲイです。
なので、小説の内容もおのずとそれ系の方向へ。
肌に合わない方はご遠慮下さい。一応18禁だす。

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