「陽ちゃん。オレ・・・」
目を細め、恥ずかしそうに櫂が顔を近づけてくる。
柔らかそうな唇を、モノ欲しそうに小さく開いて。
あああ、櫂、マズイよ。やっぱこういうのはマズイよ。だっておまえはまだ十四歳だぞ? オナニーだってやってるのか? まだまだ知らないコトが沢山あって、これから知っていくっていうときに、いきなり男とキスするのか? あああ、ダメだ。そんなに顔を近づけたら。そんな顔したら・・・。
「な~にがダメなんだ?」
「・・・え? なにがって・・・。アレ?」
突っ伏していた机から顔を上げる。ガヤガヤと騒々しい教室。みんな席を立って出ていったり、座ったままかたまって話をしていたり。
「もう授業はおわってんぞ?」
「あ?・・・ああ、そう」
夢、だったのか。そうだよな。そんなことあるはずないよな。
「寝ぼけてないで、ホラ、行くぞ」
立花はまだ座っている俺を見下ろして急かす。
「どこに?」
夢があまりにリアルだったから、興奮、いや、とまどう内容だったから、なんとなく現実になじめずにいた。
「メシだよメシ。早くしねぇと、学食の席、無くなっちまうって」
「ああ・・・」
俺は曖昧に返事をして、ようやく立ち上がる。
「なんだよ。昨日寝てねぇのか?」
「あ? ううん。まぁね」
適当にごまかして、教室を出る。
「はぁ、やだねぇ」立花は大袈裟に溜息をついて、大きな肩を落とす。「お盛んなコトで」
「な、な、なんのコト言ってんだよ?!」
「とりあえず、俺の部屋の上で、ベッド軋ますなよ?」
「バ~カ! ちげぇよ! なに勘違いしてんだ」
俺は立花のむっちりとしたケツを軽く蹴り飛ばした。立花は、ニシシっと笑い、知ってるよ、と言って逃げた。
立花は、大学に入って最初にできた友達だ。なにせ住んでるアパートが一緒で、俺が二階、その真下の部屋が立花。学部も同じだから、だいたい取ってる授業も同じで、通学のときも二人だったりする。
立花はサイクリング・サークル、俺は合気道部に入った。
学食は、思ったほど混んでいなかった。
料理をのせたトレーをテラス席に置いて座る。
「なぁ、陽介って、彼女いねぇの?」
「いないよ」
俺はカツカレーを口に運びながら、ぶっきらぼうに答えた。
「じゃあさぁ。どんなのが好みなんだ?」
面倒臭いけど、答えないとさらに面倒だから、一応答える。
「う~ん、なんていうか、初々しくてぇ、純粋でぇ、いろいろ手取り足取り教えたくなるような・・・」
そこでさっきの夢の櫂の姿が浮かんだ。アレ、これってもしかして櫂のこと?
「なんか田舎臭いなぁ」
「いや、そうじゃなくて」
「あ、もしかして、初モノ好き? おまえ」
「あ、その」
やっぱ俺は櫂が好きなのか?
「それは難しいだろう。滅多に拝めないぜ? ヴァージンなんて。犯罪でもしない限り」
「は、犯罪?!」
「そ、十代、未成年。それはヤヴァイだろ?」
「だ、だ、だよねぇ・・・、ははは」
ああ、笑えない。どうすんの? 俺。
「今日さ、学校終わったら、おまえ、ヒマ?」
「あ、バイト・・・」
そうなんだよ、バイトなんだよ。櫂と会うんだよ。
「ふーん、そっか・・・」
ん? なんだろう。なんか変な立花だなぁ。
「バイトかぁ。あ、そうだ。おまえ、中華料理屋でバイトしてんだよな?」
「うん」
「今日、食べに行っていいか?」
「あ? イイけど?」
「よっし! 決まり!!」
立花は嬉々として中華丼を口に掻き込んだ。なんか櫂に似てるなぁ。そう考えると、立花が可愛くみえてきた。あれ?
「もしかして、おごり?」
「しねぇよ。せいぜい割引」
「じゅーぶん♪」
立花は、ぴかぴか輝くみたいに笑った。そこで俺は、何故か櫂のことが気になった。
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