転任してきて早々担任となった龍樹先生。
驚いた。
ど肝を抜かれた。
心臓が口から飛び出した。
全身の血の気が引いた。
髪の毛が真っ白になった。
ウソです。
いやしかし、本当に信じられなかった。
新しい先生が、あの褐色の肌の人だなんて。
裏山の荒れ地に突然出現して、しかもパーティーに行くような格好で、世界の終わりとかを僕に押し売りして、万木君の心臓に短剣を突き刺して、挙句の果てに「興醒めだ」だなんてのたまっていた超自分勝手な人。・・・人?
どういう事なの?
あれは夢じゃなくてやっぱり現実だったんだ。
現実の存在だったんだ。
僕は思わず未だに残る左手の傷跡に目をやった。
「君の所為だ」
褐色の人は僕に言った。
全部僕の所為だっって・・・・。
「なぁなぁなぁなぁ、春日カスガぁ、今度の先生どう思う?」
なんだか興奮気味に錦君が席に寄ってきた。
「えー、あぁ、まぁねぇ・・・」
いったいなんて言えばいいんだろう。
「背ぇ高いよねー」
「バカ、そんなんじゃなくて、ジンガイだぜジンガイ」
「・・・人外!? なんで分かったの、そんな事!! 確かにあの人は・・・」
「見りゃ分かるだろ、どう見たって東南アジアとかだろ?」
「・・・へ?」
「いや、インド? ネパール? シンガポール? うーんなんだか分かんねーや」
あ、そういう事なんですね。
「あれで世界史教えんの? なんかいろいろスゲーな」
「まぁ、国語教えるよりはイイかも」
「お、イイこと言うようになったねぇ、5点」
・・・・5点? 何点満点で?
「あれ、今日もヨロキ姿見せねーのな。残念」
「うん・・・・、昨日から、なんか学校休むって言ってた」
「具合でも悪ぃーのか?」
「違うみたい」
万木君ははっきりとは理由を言わなかったけどなんだか深刻そうだった。心配をかけまいと何か隠してるみたいだった。
はっ!! まさかあの先生絡みの事なのでは!!?
そうだよ、褐色の人が今度は学園の教師として白昼堂々と現れたんだ。これが問題にならない訳がないじゃないか!!
だがしかし、肝心の万木君がどっか行っちゃってるんだし、どうしたものか。
あとこんな事打ち明けられる人は・・・、そうだ香久夜さんだ!!
うーん、また大学の理事長室に居るのかなぁ、っていうかあの人一応高校生なんだよね? 学園の生徒なんだよね? いったい何年生なの? 授業とか受けてるの?
まったくの未知なる存在だ。
授業受けてる様子が想像出来ない。どんな高校生だよまったく。
「おーい、カスガー、戻ってこーい」
「え?」
「おまえ今どっか行ってたろ?意識。心ここに在らずって顔してたぞ」
「う・・・、うん、ちょっと考え事」
「おいおいおい、この錦様を目の前にして他の事考えてたっていうのか? 随分なご身分だなぁ、おい」
「ハハハハ、ずっとニシキ君のこと考えてたんだよ、大好きだって♪」
「ふむ、良かろう。今度チューしちゃる」
錦君は腕組みしてご満悦顔で何度も頷いた。
あれ、なんか罪悪感。ごめんね、錦君。
お互い円滑な人間関係を進める上でのウソ。
僕も短期間で随分世渡り上手になったものだ。
なんて間違った感慨に耽っていると、予鈴がなった。
「お、もう授業かよ。あれ、瓜生がまだ戻ってねーや」
錦君が瓜生君の席から立ち上がって言った。
「そういえばさっき急いで教室出てったね」
なんだかあの先生に用事が有り気みたいだったけど、まさかね。
「サボりかな?」
「もしかしたら体育館にでも行ったんじゃない?」
「なんで?」
「ほら、今日3、4限の授業、芸術体験で体育館で演劇鑑賞でしょ?」
「ああ、そういやそうだ。やったね!! 今日は楽だな」
「だから、体育館に覗きにでもさ。劇団の人たちが舞台づくりしてるみたいだよ」
「ふうん」
とそこで、一限目の数学の先生が教室に入ってきた。
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