ようやく五月祭りの日曜日。
野球部の練習は結局午後の1時に終わってしまって、一旦家に帰ることにした。
学校からは歩いて通える距離なのだ。
下照幟と竹生雄友先輩は二人で裏山に行くそうだから、神社で合流するすることにして、後の瓜生と錦と春日はオレの家に集合する予定になった。
待ち合わせ時間まで一眠りして、起きたところで瓜生がまず到着した。
「よーっす。なんか佐伯んチ来んの久々だなぁ」
瓜生は靴を脱ぎながら言った。
「そうか?」
「おじゃましまーっす」
「気にすんな、今誰も居ねーから。先に二階に上がってて」
「ああ」
オレは麦茶の容器とコップとお菓子を盆に載せて自分の部屋に上がった。
「なんか麦茶しかなかった」
「お~、ありがと」
ベランダに出て午後の風景を眺めていた瓜生は部屋に戻ってきた。
「ここまで祭りのお囃子が聞こえるだろ?」
「ああ、聞こえた。裏山も近くに見えるしな」
オレはコップに麦茶を注いで瓜生に渡した。
「サンキュ」と言って「う~ん、美味い!!」と一気に飲み干した。
「で? なんか話でも?」
もう一杯麦茶を注ぎながら、オレは訊いた。
「え?」
「待ち合わせ時間にはまだだいぶあるし、瓜生は時間には正確だろ? だからなんかあんのかな~って思って。あれ? 違った?」
「いやいや、出来るね、佐伯のおっさんは、さすがだね」
「おっさん言うな」
「いやさ、別に今話さなきゃなんないってほどでもないんだけどさ」と前置きして瓜生はニヤっと笑った「おまえ、ニシキのことどう思ってる?」
「・・・・はぁ?」
突然錦の話が出てきからおかしな声を出してしまった。
しかしなんで錦?
それを錦をどう思ってるか、なんて今更?
「どうって、・・・幼馴染だし、すげぇ仲イイ友達? どう? 違った?」
「バーカ、なんでオレの顔色見んだよ、違うとか正しいとかの問題じゃねーの」
「じゃオレの口から何が聞きたいんだよ」
ちょっとイラっとして言った。
「ふーん、てっきり両想い的な感じかと思ってたけど、そうじゃないのかぁ」
「?・・・『両想い』?誰と誰が?」
「おまえとニシキとがだよ」
「えっ」
「おまえさ、その『えっ』はどういう『えっ』なの? 驚愕? 拒絶?」
「う、瓜生だって極端じゃん、そういうんじゃねーよ」
「まぁいいよ。とりあえず、ニシキはかなりおまえに傾いてきてるぞ」
「え、いや、その傾いてるって、どういう?」
「サエキ、鈍感過ぎ!! ここまで言ったらそりゃもう『好き』ってことだろ?」
鈍感過ぎと言われて少しムッとなる。
「鈍感じゃねぇよ。オレだってニシキのこと好きだぜぇ?」
そこで瓜生はしっかりとこちらを見据えて言った。
「じゃあ訊くけど、おまえの『好き』ってどういう『好き』なんだ?」
オレは戸惑う。
「え? ・・・『好き』は、その、『好き』であってぇぇぇ~、『好き』に種類なんてあんの?」
「あ~~!! もうイイやぁ!!」瓜生はもう降参みたいなポーズをとって、そのまま後ろのベッドに倒れ込んだ「ヤメヤメヤメ、なんでもない、今までの話は無かった事にしてくれ」
「え~、なんだよそれ~、なんか勝ち逃げっぽくてヤダなぁ」
「ウルセ~てぇの。てめ~は脳ミソまで硬球になっちまったのかよ」
「おまえさぁ、最近口悪ぃよなぁ。なんか昔に戻ったみたいだよ」
「あ? ほっといて~」
瓜生はベッドに仰向けに寝転がりながら手だけ挙げてひらひらとさせた。
いったい何が言いたかったんだよ瓜生は・・・。
オレは釈然としないまま冷たい麦茶を飲み干した。
なんだよ、単に好きじゃ駄目なのか?
だいたい、オレの錦に対する『好き』はそんじょそこらの『好き』じゃないんだぜ?
『大好き』なんだぜ?
それに瓜生のことも好きだよ。
あ、大好きだよ。
ん? これじゃ錦と一緒だな。
あれ、錦への『大好き』と、瓜生への『大好き』は、・・・・ち、が、う? のか?
そこで外から「キーッ」という自転車のブレーキ音が聞こえてきた。
錦だ!!
「嬉しそうだなぁ? さえき~」
オレの反応を窺っていたのか、瓜生はいつの間にかベッドの上で体を起こしていた。
「フツーだろ!?」
錦が玄関のチャイムをやかましく鳴らす。
「たくうるせーなー、とっとと行くか」
瓜生が立ち上がる。
「ああ」
階下に下りて玄関を出ると、自転車に寄り掛かる錦の隣りに初めて見る人間が居た。
中学生?
いや、高校生か?
錦くらいの身長でちょい色黒で頭髪を針みたいに尖らせている。
「タスキさん、非道いじゃないですか!! 今日がお祭りなのに黙って家を出ましたね☆」
「げ!!?? チマキ、どうしてココに居る!?」
え? 瓜生の友達なのか?
ん?・・・・家?
「俺と一緒に来たんだよ、ちょうど途中で道訊かれてさ」
錦が瓜生に言った。
「バカ、余計なことをー」
「ていうかおまえらさぁ、一緒に住んでんだって? 聞いたぜ?」
「そうなんです。この度ぼくこと面足千万喜はタスキさんのマンションにてお世話になることになりました☆」
「ばーーっか!! そんなのいちいち発表するな!!」
いったい何があった!?この二人に!!
「どうぞ宜しくお願いします!!」
面足千万喜君はペコリと頭を下げた。
「ああ~なんかイイなぁ~」錦が赤く染まり始めた空に向けて言った「なんか楽しそう~」
「他人事だからそう思えんだよ」
瓜生が皮肉っぽく言った。
だけど本当に嫌がってる訳じゃない。
本当に嫌だったら、なにがなんでも拒否する、それが瓜生だ。
うん、確かに、なんか楽しくなりそうだ。
「それじゃ、そろそろ裏山にに行こうぜ。向こうでカスガとヨロキも待ってるし」
そう言わないといつまでもここで話していそうな雰囲気だった。
「チカラ~、自転車置いてってイイ?」
「ああ。その辺停めといて」
「うわ~、神社の祭りって初めてなんですよ。わくわくしますネ、タスキさん☆」
「おまえはそうだろうよ」
「以前に体験したお祭りといえば☆ 黒山羊の頭部を被って・・・」
「それどんな祭り!? サバト!!??」
オレ達は騒がしく、裏山へと出発した。
五月最後の日曜日。
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