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藤巻舎人 脳内ワールド

藤巻舎人の小説ワールドへようこそ! 18歳以下の人は見ないでネ

   

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私立日高見学園(34) エピローグ3 九条魚名

「さぁ、どこから切断して欲しい?」
ゴージャスな外人女は囁いて、オレが横になっているベッドの脇に立った。

待って欲しい、と思った。
だがしかし、もう遅い、・・・か。
さんざん周囲を騙してきたアメリカのスパイがこの期に及んで「生きたい」、なんて虫の良過ぎる話だよな。
オレはあの学園の奴等を売ったんだ。
死人が出てもおかしくなかったんだ。

もう、終わりにしよう。

疲れたよ・・・・・。

「どこでもイイ。ざっくりやってくれ・・・・」

「あら、つまんない。・・・・まぁいいわ」

外人女は呟き、暗い光を宿す指をオレの体の上にかざした。
そしてオレは目を閉じる。

「ハーイ!! 検温の時間ですよー!!」
病室のドアが勢い良く開かれ、怒鳴り声が緊張の一瞬を切り裂いた
仰天してオレは閉じかけた目を見開き、女も動きを止めて背後を振り返った。

「え・・・あ、瓜生・・・?」
ドア枠に寄り掛かってニヤニヤ笑っているのは、瓜生襷だった。
「よー、九条、なに勝手に現実から逃げようとしてんだよ」
「ばっ、オレはっ・・・」
オレ達の遣り取りの隙をついて女が瓜生に迫ろうとしたが、直ぐに止めた。
「おーっと、動くなよ。ビョーインで怪我したくないでしょ?」
瓜生が手にしていたのは、オレが体育倉庫で使っていたグロック9だった。
「瓜生、なにしに来た!!」
「おいおい冗談は顔だけにしろよ」
「余計なことをするな!!」
「バーカ、病院は命を助けるとこだぜ?」
「それが余計なことだと・・・」
そこで女が割って入ってきた。
「ほーらね、坊やもこう言ってることだしぃ、ここは出直してきてちょーだい♪」
「やかましぃ、黙れ」
「わかんないかなー?? あんた、邪魔なんだ、よ!!」

女は瓜生の方へ一歩踏み出し、爪で引っ掻くように大きく中空を薙いだ。
しかし踏み込みが甘かったのか、その指は瓜生のところまで届かない。
と思ったら狙いは最初から拳銃だったらしく、どうやったのか知らないが、グロック9は瓜生の手元で紙の如く裁断されてしまった。
その後女は、連続して攻撃を畳み掛けるのを寸前で思いとどまったらしい。
瓜生がそれをさせなかったのだ。

「おー。まさかリアルで南斗水鳥拳の使い手がいるとはねー」
瓜生が訳の分からないことを呟いた。
「なにソレ? 美しいの?」
女が返す。
「むしろユダかよ!!?」

何故だ。
何故こうまでしてオレに構う。
つい数日前まで話した事もなかったというのに。
オレはおまえの敵だったんだぞ?
おまえを殺そうとしたんだぞ?
なんで助ける。
おまえになんて助けられたくない。
おまえにだけは助けられたくない。
オレに出来ないことを易々とやってのけ、
オレが持たないものを易々と手に入れ、
何食わぬ顔して今度はオレを助けようとする。
おまえが嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ。
おまえが憎い憎い憎い憎い憎い。
苦しめてやりたい。
絶望に追い込んでやりたい。
殺してやりたい。


だけど


ホントは      本当は・・・・


もっと        もっと知りたかった



おまえと      話したかった     おまえに訊きたかった


聴いて欲しかった




  受け入れて欲しかった            わかって欲しかった



おまえと           友達になりたかった


なんだか、一方的だよな。
だけど、だけど・・・・。

「あー!!九条テメェー!!油断してんな!!誰の為に闘ってると思ってんだ!?」
瓜生が叫んだ。
いつの間にか徒手空拳で瓜生と女は格闘していた。
「おまえって奴は・・・・折角ぅ・・・」
折角オレがいろんなこと思い詰めてたのにぃぃぃ。
「折角!?」
「うるさい!!誰が助けてくれって頼んだよ??」
「はぁ??」瓜生がキレ気味に声を上げる。
「ねぇ、ちょっとぉ、随分と余裕かましてくれるじゃない?」
女が不満そうに言って動きを止めた。
「そっちこそ手ぇ抜いてるだろ?」
瓜生が答える。
「あら、わかった?」
「さっき銃をバラバラしたやつ、使えよ」
「・・・・あんたに言われてやるのは癪だけど、まぁ、いいわ。それじゃ、死んで」

おいおいおい、何けしかけてんだよ瓜生。
この狭い病室で、あんな指先がライトセーバーみたいになる技使われたら、不利なのはおまえなんだぞ!!
だいたいこの女、相当の体術の使い手だ。
瓜生は良く凌いでいるが、押されてる。
女の指先に仄暗い青白い光が灯る。
次の瞬間、右腕を下から掬い上げ瓜生の喉元を指先で狙った。
しかし瓜生はその手首を捉えて止めた。
「大振りなんだよ」と呟く。
間髪入れず瓜生の顔面へ左手の突きを放つ。
駄目だ、速い。
女の手首を掴んでいる以上は避けられない。
と思ったら、寸前のところで女の突きが止まった。
何故止めた?
何が起こった?

手どころか、女の動きそのものがピタリと止まってしまった。
「ぐぐぐ・・・、あんた、なに、を・・・・」
女は唸るように声を絞り出す。
「はっ、悪ぃーけど奥の手っていうのはとっておくもんでね」
瓜生がニヤリと笑った。
「瓜生、おまえが何かしたのか?」
「まぁな。さーてどうする? この女に何か訊く事でもあるか? 今ならなんでも答えさせられるぜ?」
どうやら女は自由を奪われているらしい。
オレはまだ、瓜生の事を詳しく知らない。
他人の肉体を乗っ取る、などと荒唐無稽で非科学的な話は聞いていたが、本当の所どうなっているのかまったく分からなかった。
そういえばあの体育倉庫で瓜生は狂戦士のように豹変したり、3千年の記憶があるか? などと言っていたりした。
「さぁ、どうすんだよ、九条」
突然そんな事言われても、困る。
「え、あ、それじゃ・・・」

「ハーイ、ストップストップストップ!! 戯れはおわりの時間だよー!!」
突然、また入り口のドアが開いて、誰かが大声を張り上げながら病室に入ってきた。
なんたって訪問者の多い夜だ。
しかも全員まともじゃなさそうだ。
入ってきたのは、長身でピチっとしたスーツ姿で山高帽を被った白人男だった。
手には拳銃を持ち、瓜生へ銃口を向けている。おそらくベレッタM9。
「さぁ、少年、彼女を離してくれないか? なにか誤解があるみたいだが、話せばわかり合えるさ、その為に神は人類に言葉を賜ったのだ」
いや、言葉で説得じゃなくて完全に銃で脅してるだろ、おっさん。
どうやらもう一人おかしな奴が増えたらしい。 

「クソ、もう一人いたのかよ」
スーツの男を睨みながら瓜生は舌打ちした。
「こらこら、そんな汚い言葉を使っちゃいけないよ、少年」
瓜生は女の手首を掴んだまま無言で動かない。
「さぁ、美しくも純粋な我パートナーを解放してくれないか?」
「純粋?」
「ああ。彼女はピュア過ぎる。それが少々人生を生き難くしている嫌いがあるが、また魅力でもあるのだよ。ちょっと難し過ぎたかな? 高校生には」
スーツの男はそう言いながら、狙いをしっかりと定め、躊躇い無く引き金に掛ける指に力を込めた。
この間合い、この状況、この体勢。
まず逃げられない。
瓜生が掴んでいる女を自由に操れると仮定して、女を楯にしようとしても多分間に合わないだろう。それに薄ら笑みを浮かべて「パートナー」なんて言ってるけどこの男はいざとなったら平気で女を撃つ、そんな冷徹でプロフェッショナルな目をしている。
「彼女を離せば、ここは退かせてもらうよ。それは約束する。どうだい? 悪い条件ではないだろ?」
「この女を離したら、あんたらは何もせずにとっととこの病院から出て行く、それでイイな?」
交渉権なんてこちらには皆無だといって等しいのに、よくもまぁ強気な発言が出来るよ、瓜生は。
「保障はあるのか?」
「信じてもらうしかないね」
こんな怪しい奴等を信じろという方が無理だが、オレ達に選択肢はないだろう。
無理して戦っても、被害はこちらの方が大きい。
あくまで彼等の目的はこのオレの命なんだから。オレさえ殺せばリスクを負ってまで瓜生と戦う理由は無いのだ。
オレさえ、死ねば、それで済むのだ。

「わかった。この女を解放する」
瓜生は女をスーツ男の方へ放り出した。
女は拙い足取りで男の胸に飛び込んだ。
男はその間、一瞬たりとも隙を見せず、銃口を瓜生に定めたままだった。
「さて、約束もしてしまったし、行くとするか」
男が言った。
「あら、折角形勢逆転したんだしぃ、やっちゃいましょうよぉ。約束は破るためにあるのよ?」
誰か注射打て、このイカレ女に。
「いや、時には妥協も必要だ。藪蛇にならないようにね」
男が女を諭した。
ん? ヤブヘビ?
「という事で、我々は退かせてもらうよ」
「名残惜しいけど、またネ♪ アデュー」
引き際は素早かった。

「随分あっさり行ったな・・・」
オレは大きく息を吐いて言った。
「ん? まぁ要するにここは御祖の土地ってことだろ? 危険を冒してまで長居は無用って訳だ」
うーん、納得出来たような出来ないような・・・。
「お節介な奴が居るって話」
「それにしても、この騒ぎでよく誰も来ないようなぁ、この病院」
「バーカ、このフロアの人間は全員眠らされてるよ。たく、荒っぽいよなぁ、患者になにかあったらどうすんだよ」
「瓜生はどうして?」
「ん? 何が?」
「いや、だから・・・・」クソ、オレの口から言わせるのかよ「何で、おまえは来たんだよ・・・って」
「あー。夕方ここに見舞いに来た時、なーんか怪しい気配があったからさ、ちと警戒してたっつー訳」
・・・・・、そういうこと訊きたかった訳じゃないんだが・・・。
だけど、あれからずっと、家にも帰らずここを見張っていてくれたのか。
どうしてそこまでする? と改めて訊きたかったけど、なんだかもうどうでもよかった。
どうせおかしな答えが返ってきて、オレには理解出来ず、堂々巡りになるだけだ。
もういいや。
どうでもいいや。
成り行きにまかせても。

「ほんじゃ、オレ、そろそろ帰るわ」
「あ? ああ」
帰るのか・・・。
「大丈夫だって、心配すんな」
どうやらオレの表情が心配そうな顔に見えたらしい。
それはちょっと誤解なんだが。
「代わりに、御祖の奴等が見張ってくれるらしい」
御祖家の奴等が?
なんで?
あ、もうこの質問にはうんざりだな。
「ちゃんと寝て、早く怪我治せよ」
「おまえがやったんだろ?」
「あはは、そうだったよな、ウケる」
瓜生がドアの所で笑った。

「じゃ」とオレ。

「おう」と答える瓜生。

「学校で」



病室に、独り残された。
照明を消して、暗闇の中、ベッドに横になる。
カーテンが開け放たれた窓から、銀色の月明かりが静かに射し込んで、ベッドの上を照らしていた。








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プロフィール

HN:
藤巻舎人
性別:
男性
趣味:
読書 ドラム 映画
自己紹介:
藤巻舎人(フジマキ トネリ)です。
ゲイです。
なので、小説の内容もおのずとそれ系の方向へ。
肌に合わない方はご遠慮下さい。一応18禁だす。

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