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藤巻舎人 脳内ワールド

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私立日高見学園(33) エピローグ2 九条魚名

「学校で待ってる」

そう言い残して瓜生襷は病室を出て行った。

あいつとの会話が頭から離れなくて、時折襲ってくる傷の鈍痛も忘れて考え込んでしまった。

もう夜中の0時。
寝れやしない。

待ってる、だと?
どうしてオレなんかを待つんだ?
だいたい、オレは瓜生を殺そうとしたんだぞ?
それ以上に、オレが学校に戻ってどうする?
偽りの経歴。
偽りの生活。
偽りの性格。
ずっとだ。
あいつが考えるよりずっと長い間、12歳の時から偽物の自分を生きてきた。

国を、社会を、地域を、学校を、先生を、生徒を、同級生を、
みんなみんな、ずっとずっと、オレを取り巻くすべてを欺いてきたんだ。
独りで、誰にも心開くこともなく。
友達、友人、知人、そんなものつくれるはずもない。
だってオレのすべてが偽りなんだから。
結局最後には全部裏切るんだから。
楽しいなんて思ったこともない。
心から笑ったこともない。
悔しいこともない。
哀しいこともない。

だけど、

楽しいふりをした。
笑ったふりをした。
悔しいふりをした。
哀しいふりをした。

そうやって偽り、騙してきた。

しかし、その偽りの化けの皮が剥がされた今、
残されたのは剥き出しの、
どことも、誰とも、繋がりのない自分。
宙に浮いた風船のように、
誰の手も届かず、興味の対象から外れた存在。

かといって、母国に帰ることも許されない。
任務は失敗し、身分がバレてしまった。
すでに使い道もなく、リスクとコストをかけて回収する価値も無く、
むしろ機密保持の為にも排除すべき対象ではないだろうか。

それならいっその事・・・・・。

『コンコンコン』

病室のドアがノックされた。
深夜のこの時間、いったい誰が何の用だ?
「シツネン、NO、シツレイ オマー」
明らかに発音と使用がおかしい日本語が聞こえた。
そしてドアが引かれ、廊下の明かりが部屋に鋭く入ってくる。
逆光で良く見えないが、看護師・・・?
「クスリ、キメル、ジカンヨー」
オレは照明のスイッチを入れる。

「おい、あんた、誰だ?」
「ハイ? ナースヨ、ワタシ」
そう言って女は点滴の管をさぐる。
「ジョーダンだろ!?」
「OH!! ドウシテワカター?」

「・・・・・・」

明らかに違う。
漆黒の背中まであるストレートの髪。
しかもどう見てもズラ。
胡散臭い黒縁メガネ。
碧眼。
ショッキングピンクのルージュ。
超ミニのスカート(コスプレにしか見えない)
人を殺せそうな程のスパイクヒール。

「ワタシのへんそうみやぶる、きいていたよりヤルわね」
ロン毛のズラを掴み捨てて女は言った。

変装のつもりだったのか・・・。
てっきり変態仮装かと思った。

正体はアッシュブロンドのベリーショートの白人女性。
物凄くゴージャスな容姿だが、ギラつくその青い瞳はこの上なく不吉だった。
要するに、ハナから上から下まで只者ではないのだ。
いろんな意味で。

「それなら話は早いわ。わたしがどうしてココに来たかもうわかったでしょ?」
病室の暗い照明の下で、白人の美女は妖艶に笑った。
「オレを、殺しにきたのか?」
「違うわよー。一度、ナース服着てみたかったの。それでお医者さんごっこするの。静脈にコーラ注射したり、メスでお腹を掻っさばいて腸を引きずり出して内臓恋占いしたり、タネも仕掛けも無いノコギリでの大腿骨切断ショー開催したり、ね? 殺しに来たんじゃないって分かってくれた?」
もはやナースコスプレ関係無い。
「普通死ぬだろ」
「やっぱり分かってないのね。死なないようにやるのがイイんじゃない。楽しい時間を長引かせようとするのが人の性ってものでしょ?」
「やられる方にとっては苦痛でしかないんじゃないのか?」
「・・・・あら、そうね。それは思いつかなかったわ」

ふざけているのか。
まともじゃないのか。

「あ、けど、相手がどう感じて思うかじゃなくて、ワタシがどう感じて思うかでしょ? 結局他人の痛みなんて分かり得ないんだもの」
純白の白衣の天使が悪魔のようなことをさっきから口走っている。
「他人の痛みが感じれられなくても、痛がっているのも見たり、言葉にされれば知る事はできるはずだ」
瓜生を拷問していたオレが良く言う。
「そうね。その通りだわ。けどね、あなたとの会話を通して、今、ワタシは新しい自分を発見したところよ」
こんなイカレた女の新しい自分も高次なる自分も知りたくもなかったが、思わず口が滑ってしまった。
「なんだよ、それは」

「ワタシは、他人が苦しんでいる姿をみるのが何よりも大好きで、興奮するって事」
やっぱりそうでしたか。
「だから」女はゆっくりとベッドに歩み寄る。「ワタシをエキサイティングさせてくれない?」

「それは死んでくれって言ってるのか?」
「別に死ななくてもイイのよ」女はつまらなそうに言った「地獄のような苦痛と恐怖で廃人になったり記憶が無くなったり自分を見失ったり、なんてのでも面白いんじゃない? むしろそっちの方が濡れるわ」
「鳴かぬなら、殺してしまおう、ホトトギス~」
「あら、そっちの俳人目指すの? 素敵じゃない?」
冗談のつもりだったんだが。
ていうか日本文化になじみ過ぎじゃないのか? この外人。
「これから体験する恐怖、現在進行形で自分の肉体に施されていく責め苦、それらを俳句にして詠んでいくなんて、フウリュウだわ」
「使い方間違ってないか?」

しかし、いったいどうしたものか。
どう考えても、何をされても、
結果的に最終的にはオレは殺されるんだろう。
病室という密室。
ここは地上五階。
窓から逃げるのは困難だし、そもそも病院の窓は外へ出られるほど開かない。
唯一の出入り口への途中には変態女が立ちはだかっている。
そしてこの怪我・・・。

あれ、オレ、普通に逃げようとしている。
生きようとしている。
なんでだろう、この期に及んで。
もう何もここには無いはずなのに。
ここでのアイデンティティはすべて消え去ったというのに。
ここには未来なんて無いはずなのに。

「待ってる」

瓜生襷はそう言った。
オレを待っていると。
だから学校に来いと。
そしてまた見舞いに来ると。







「なぁ、あんた・・・」
オレはぼそりと呟く。
「なに?」
「オレ、やっぱり死にたくない」
「・・・・、ねぇ、やっぱりあなた勘違いしてるわ。ワタシはあなたを殺しにきたんじゃないってさっき言わなかった? ワタシはあなたを助けたいの」
「はぁ?」
いったいこの会話はどこへ向かっているんだ?
「ピンチはチャンスってよく言ってるでしょ? バカそうな社長とか胡散臭い成功者が。ワタシもね、そう思うの。痛みを負わなければ成長は無いって、何かを得たいなら何かを捨てろって、言うでしょ? ワタシはあなたの更なる成長の為に、あなたにピンチをあげるの。あなたの為に痛みをあげるの。あなたの為に何かを捨てさせるの。
 ね? だからワタシに感謝しなさい。そして喜びなさい。今、あなたは生まれ変われるかもしれないのよ」

女の蒼い目が見開かれる。
両腕をだらりと広げ、やや猫背気味に前傾姿勢になる。
いびつに立てられた指先が、ぼんやりと光を帯びる。
コツ、コツ、コツ、と冷たくヒールの音を響かせ、オレが横たわるベッドのすぐ傍までやってきた。
「さぁ、どこから切断して欲しい? 指? 耳? 鼻? 脚? 腕? それとも・・・・・」






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HN:
藤巻舎人
性別:
男性
趣味:
読書 ドラム 映画
自己紹介:
藤巻舎人(フジマキ トネリ)です。
ゲイです。
なので、小説の内容もおのずとそれ系の方向へ。
肌に合わない方はご遠慮下さい。一応18禁だす。

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