「よー、朝から揃ってるねー」
錦がニヤニヤしながら寄ってきた。
「揃ってるもなにも、席が隣りなんだっつーの」
朝の挨拶代わりにオレは言った。
「ハイハイ。おお、今日も春日はカワイイなー」
そう言って錦は春日の頭を撫でる。
春日の奴、最近可愛がられキャラだな。
ていうか、顔を赤らめるな春日。
「なんか春日いじってると、なんかこう、ムラムラっとくるよな~。食べちゃいたいつーか、襲っちゃいたい? みたいな?」
そこまで欲求不満気な顔で言われると冗談に聞こえないぞ、錦。
今にも春日を犯しそうな勢いだ。
「錦、春日が引いてるぞ」
「なんでだよー。そんなことないよなー、春日ー」
錦は春日に顔を近づけ、チューを迫る。
こいつ酔っ払いのオッサンか。
それ以前に春日、もっと嫌がれ。
なんだその錦君にだったらキスされてもイイよ、みたいな顔は。
まんざらでもない、みたいな顔は!!
むしろ嬉しい、みたいな顔は!!
「ほぉぉー、朝からお盛んだなー、ニシキー」
そんなところに運悪くやってきた佐伯は、若干顔を引きつらせている。
「お、お、おーっとぉー!! 主税じゃん!! なにがどうした!? なにがあった!?」
驚いて飛び退く錦。
なにがどうしたのはお前の方だ。
滅茶苦茶キョドってんじゃん。
「錦と春日はホント仲いいよな~」
佐伯が春日の頭を背後からぽんぽん撫でる。
「お、おお。俺達はスゲー仲いいよなー? 春日ぁー」
「それじゃオレも春日と仲良くしよーかなー」
佐伯は錦を挑発するように春日を抱き締める。
「お、あ、なんか、ソレ、すっげー反則っぽいんだけど!?」
なんともわかりやすく動揺する錦。
「なにが反則なんだ? なぁ、カ・ス・ガ♪」
佐伯が耳元で囁くと、春日は顔を真っ赤にしてゾクゾクと体を震わせ、「あぁん」と甘い声を漏らした。
「く・・・、かっ、かすがぁ・・・」春日の喘ぎ声を聞いて一瞬身を凍らせていた錦。「カスガぁぁぁぁー!! ヤラせてくれぇぇぇー!!!!」
抑えきれないその想い、いや欲望。
背後から佐伯に抱きとめられている春日に、錦は正面から抱き締めに走った。
「ストォォォーーップ!!! そこまで!!!」
オレは前に出て、レスリングのタックルみたいに春日に襲いかかる錦を足蹴にしてその突進を止めた。
そして錦と春日と佐伯の頭を順に一発ずつ引っ叩いてやった。
「おまえら、いい加減にしろ」
「なななんでだよ~」叩かれた頭を抑えながら泣き言を言う錦。「俺はただ健全で健康な高校生男子の自然な好意の発露を・・・」
「好意? 性行為の間違いじゃないのか?!」
佐伯が突っかかる。
「ばばばば、バカッ。お、俺はそんなんじゃぁ!!」
「明らかに動揺してるよな、錦は。やっぱお前は春日のことやぁらしい目で」
春日を更にぎゅっと抱き締める佐伯。
こいつまだ抱き付いてたのか、アホだな。
「ちがっ、いや、そうじゃなくて、そりゃ、春日のこと、好きだけど・・・」
「好きなんだろ?」
「だから、春日はカワイイし頑張り屋だし素直だし・・・」
結構腹黒いけどな。
「ほら、好きなんじゃん」
「な、なんで、主税は、そんな事、言うんだよ・・・・」
追い詰められて顔を赤らめている錦が可愛く思えてきた。
ていうか、二人の痴話げんかに巻き込まれている春日に同情する。
いやいやいや、春日は2人に挟まれてなんか嬉しそうにしていた。
3人揃ってアホだったか。
救い様がない。
しかしこの微笑ましいラブコメみたいな朝の状況を、こころよく思っていない奴が1人居る訳で。
むしろそっちこそ、救いがない。
「ハイハイ、そういうコトはあいつに殺される前にやめようね~」
オレは丸めた教科書で3人の頭を再度スパコ~ンと引っ叩き、教室の後ろを指し示した。
そこには、目を怒りで燃え上がらせ、今にも飛び掛かってきそうな体勢でこちらを睨みつけている万木が居た。
「てめぇ~らぁ~、オレの春日麿にナニしてやがるぅぅぅ」
歯を剥き出しにして唸ってる。
もはや獣だ、野獣だ、魔獣だ。
錦と佐伯と春日の3人揃って顔面蒼白にして、ほぼ白目。
この後朝の教室は、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
あしからず。
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