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藤巻舎人 脳内ワールド

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私立日高見学園(14) 瓜生襷

最近はオレ、九条、千万喜、の三人で登校している。

はっきりいって、ウザイ。

千万喜はもちろん、何故か九条も意固地になって一緒についてくる。
まぁオレのチャリスピードにも、基礎的な体力がある九条は苦労しながらも追いついてくる。
千万喜に至っては息1つ乱さない。
こいつに関してはもう考えないことにしている。
いちいち突き詰めていたら日常生活に支障をきたす。
それどころか世界秩序が混乱する。

それぞれ駐輪場に自転車を停め、昇降口までくると、唐突に九条がリュックに手を入れてごそごそと何かを取り出した。
「ん・・・」
無造作に差し出されたものは・・・・?
「何アホな顔してんだよ、弁当だ。早く取れ」
「え?」
オレは呆気にとられ、言われるままに弁当の包みを受け取った。
「ホラ、おまえのも・・・」
「ええ!?」
なんと千万喜の分もあった。
「え、ちょ、なんで??」
「要らねーなら返せ」
仏頂面でぶっきら棒に言う九条。
今朝は随分キッチンに長く居るなぁと思ったら、三人分の弁当作ってたのかよ。
今朝は時間が余ったんだよ、と言い残して九条は二年生だから別の棟なので、オレ等とは逆方向へ歩いて行った。
登校してきた生徒で込み合う昇降口で、弁当を手に立ち尽くすオレ達。
「タスキさん☆ど、毒見します?」
千万喜が茫然と囁く。
「やぁだよ。ちゃんと食え」
「ハイハイ、分かってますって☆」

千万喜とはクラスが別なので、廊下で別れた。
「お昼一緒に食べましょうね☆」
なんて言ってたけど、そういや千万喜の奴、友達いるのかな?
なんか想像つかないんだけど、まぁイイか。
自分の教室に入ると、隣りの席の児屋根春日は既に着席しているのが目に入った。
オレはいつものように春日の漆黒の髪に覆われた頭を後ろから軽く叩いて挨拶をした。
「ヨーッス、春日ぁ」
「あ、おはよう、瓜生君」
黒フレームのメガネをかけた春日は、柔らかく笑った。
随分自然になってきたもんだ。
最初はぎこちなくて仕方なかったもんなぁ。
ていうか入学して一か月くらい、コイツの存在知らなかったし、隣りに居たくせに。
恐るべき存在感の無さ。
それはもう異常なレベルだった。

「錦の奴は・・・、相変わらずまだ来てないっと」
オレは呟く。
「そういえば、錦君っていつもギリギリで来るよね。家近いのに」
「ああ、あいつ新聞配達のバイトしてるからなぁ」
「ええ!? そうなの? 知らなかった!!」
春日の反応のでかさにこっちが驚いた。
ま、大好きな奴の知らない一面を知るってことは、驚きではあるか。
「あいつ、そういうコトあんま自分から言わねーけど、別に隠してる訳じゃないんだよな。だからついでに言っとくけど、あいつん家、母子家庭だからさ、家計を助ける苦学生ってなもんだな」
言い終えると、春日は無反応だった。
ていうか驚いて言葉も出ないらしい。
「あのさ、大袈裟に考えんなよ? 苦学生とか言ったけど、あいつは苦にも思ってねーんだからさ。周りが気にしすぎることはねー」
「う、うん・・・、わかった」
大分気にしているらしい。
言わなきゃよかったか?
「ま、どうしても詳しいこと知りてーんなら、錦に直接訊けよ。それが一番イイ」
又聞きはどうしても情報が錯綜するし、誤解を招きやすい。
春日は真剣な顔でうなずいた。

「けど、そんなこと、僕が訊いて大丈夫かな?」
「あのな、どうでもイイ気持ちで訊くならやめとけよ。それと、おどおどして申し訳なさそうな感じで訊くのはよせ。失礼だし、錦をイラっとさせるだけだ」
「うん・・・」
仲良くなりたい奴のことって、結構なんでも知りたいものだよな。
もっと仲良くなりたくて。
もっと親密になりたくて。
もっと近くに寄りたくて。
相手のいろんなことを知って、理解して、気持ちを思いやる。
優しくしたい、必要とされたい、求められたい、力になりたい。
お互い持ちつ持たれつ、寄り掛かって、支え合って・・・・か。
非常に甘い考えだが、魅力的ではあるよな。

「そういやさ、春日んチってどういう家族構成なんだ?」
二ヶ月近い付き合いだけど、訊いたことなかったよな。
それにコイツ寮生活だし、家遠いのか? それともなんか事情があんのか?
「えっ、いや、・・・なんていうか」
「なんだよ。なんかおかしなことでもあんのかよ」
「あの、おかしなっていうか、ちょっと複雑っていうか・・・」
春日は消え入りそうな声で、うつむいてしまった。
ていうかホントに存在が消えてしまいそうな感じだ。
「バーカ、てめぇ他人のこと知りたいくせに、自分のことは言えねえーってか? ふざけんな」
「そんなんじゃ!! そんなんじゃないんだけど、なんていうか・・・・、単純に一言では言えないっていうか・・・」
「わかったよ!! 泣くな。つい怒鳴ったりして悪かった」
オレは涙ぐむ春日の頭をくしゃくしゃと撫でてやった。
「そうだよな、15、6年だって立派な人生だ。誰にだって簡単じゃない、単純じゃない」
生きてきた時間で人を判断することは出来ない。
長く生きてたって、なにもせず、なにも学んでこなかった人間だって大勢居るんだ。
「わかるよ、ただ生きるだけで辛いことだってあるよな」
息をするようにすべてが苦痛な時だってある。
この世から消えてしまいたい時だってある。
世界が終わってしまえばいいと思う時だってある。

「いないんだ」
メガネを外して、滲んだ涙を手の甲で拭いながら、春日は呟いた。
「え?」
「僕の家族は誰もいないんだ。僕は独りぼっちなんだ」
「そっか・・・」
春日も、いろいろあるんだな・・・。
「おまえも、オレんチ来るか? もう一人くらいなら余裕あると思うぞ」
メガネ越しに赤くなった目でオレを見る春日。
表情が霧が晴れるみたいに明るくなる。
「うん、ありがとう。でも今は大丈夫。ヨロキ君も一緒だし、瓜生君だって、錦君だって、佐伯君だって、香久夜さんだって居るから。僕は独りじゃないよ」
「おお? 言うようになったじゃーん」
オレは春日の髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き乱した。
いっちょまえに成長してやがるぜ、こいつ。
って、んん? 今、香久夜って言ったか?
「よー、揃ってるねー、朝からー!!」
そこに錦が登校してきた。




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HN:
藤巻舎人
性別:
男性
趣味:
読書 ドラム 映画
自己紹介:
藤巻舎人(フジマキ トネリ)です。
ゲイです。
なので、小説の内容もおのずとそれ系の方向へ。
肌に合わない方はご遠慮下さい。一応18禁だす。

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