さて昼飯の時間。
約束通り、千万喜が教室にやってきた。
「タスキさん☆ お昼食べましょうよ!」
丁度錦も寄ってきたので、隣りの席の春日と合わせて言った。
「昼どうする? オレと千万喜は弁当なんだけど・・・」
「弁当!?」と驚きの声を上げる錦。
「いや、誰が作ったかは訊かないでくれ」
「あ、そう」
お、素直に引き下がった。錦にしては珍しい。
「春日、どうする? 俺達もなんか買ってくるか?」
錦は席に座ったままの春日に訊いた。
「うん、いいよ」
「じゃ、屋上で食おうぜ。雨上がってるみたいだし!」
え、雨止んだけど濡れてんじゃねーの? と思いながら「分かった」と答えた。
屋上に出ると、まだ雲が多いが、西の方には既に青空が見えた。
遠くには、雲の隙間から幾筋もの光の柱が降りている。
「うわ~、タスキさん☆ ぜんぜん濡れてませんね!」
「あ? ああ」
ホントだ、屋上の床、濡れてねぇ。
もう乾いたのか?
「この辺に座りましょうよ。虹が見えるかもしれないですよ☆」
なんだか千万喜が少女に見えてきた。
弟キャラというより、妹?
気のせいか?
ん? そもそも千万喜は弟キャラだったのか?
「どうします? もうお弁当食べちゃいます?」
「ん? ああ」
「九条の兄貴はどうします?」
「あ、そうだなぁ・・・ってナニ!?」
今なんて言った?
「ちゃんと人の話聞いて下さいよぉ。九条さんはどうしますか? 呼びますか? って言ったんですよ」
千万喜はカワイイ顔して拗ねてみせた。
「え、いや、そこまで気を遣うつもりはねーよ」
「はいはい、そうします」
何か言いたそうなまま、千万喜は大人しく腰を下ろして、弁当の包みを広げ始めた。
う~ん、やはり油断ならねーな、コイツは。
「お~い、瓜生~、お待たせ~」
錦と春日が昼飯を買ってやってきた。
お、佐伯も一緒じゃん。あいつもうすぐ大会始まるのに練習大丈夫なのか?
昼休みも練習してる野球部員いるみたいだけど。
「わ~、みなさんこっちですよ☆」
千万喜が手招きする。
「伝説の焼肉サンド、ゲットしたぜ~い」
錦がビニール袋からパンを取り出した。
「オレのおかげだろ」
「そうそう、主税の頑張りが奇跡を呼んだんだ!」
「大袈裟だよ」と佐伯がツッコむ。
「はいはいみんさん、それではいただきましょう☆」
『いただきまーす!』(全員)
オレは弁当箱のフタを開け、すぐさま閉じた。
え? なにコレ。
コレが高校生男子が作る弁当か!?
スゲー乙女チック、いや、もはや母親が幼稚園児へ作ってやるファンシー弁当だな、こりゃ。
チラっと千万喜の方を見ると、同じくフタを閉じて目を丸くしているところだった。
そしてオレの視線に気付いた千万喜は、笑いを必死で堪えようとしている。
堪えろ、千万喜!! ここで笑ったら男が廃る!!
しかし数秒ともたなかった。
「ぶっはっはっはっは~!!! みなさんちょっと見て下さいよ☆ ボクのお弁当もの凄くないですか~?」
千万喜は弁当のフタを開け、みんなに見せびらかす。
「え? どれどれ」と覗き込む錦。「おお、スッゲー!!! 美味そうじゃん、コレ」
「か、カワイイんじゃね? もしかして、女子が作ってくれたのか?」
ちょっと顔を赤らめて言う佐伯。純情過ぎるだろ。
「わー、スゴイ。僕も今度作ってみようかなー」
変な方向に向かってる春日。
「なんだか食べるのもったいないですね☆ タスキさん」
千万喜がオレに向かって笑顔で言った。
「え、まぁ、そうだな。食べるけどな」
たく、千万喜は後で説教だな。九条が一所懸命作ってくれた弁当を見せびらかすんじゃない、ってな。
さて、肝心の味の方は、と。
う、、、。美味い。
こ、これは革命か!?
今までメシは自分で作ってたけど、こんなに料理上手なら、今日から九条が料理当番決定だな。
そういやアイツのコーヒー美味過ぎだったもんなぁ。
「あれ、タスキさん☆ どちらへ?」
腰を上げたオレに千万喜が目ざとく訊いてきた。
「ん? ちょっとお茶買ってくらぁ」
「それならボクが買ってきますよ☆」
「いいよ。おまえはそいつらのお相手をしてなさい」
オレは錦と佐伯と春日達を顎で指示した。
「なんだよ、そいつらって~」と錦が不満気に言う。
「うるせー。その他一同よりはいいだろ」
オレはそう言い捨てて、席を外した。
それでもついてきたそうな顔をしていた千万喜は放っておいた。
うん、甘やかすのは良くない良くない。
って、オレは親か?
校舎の一階まで下りて、自販機でお茶を買った。
ゴトン、と大きな音を響かせて、ペットボトルが落ちてきた。
それを取り出しながら、フウと大きな溜息をつく。
オレの周りも随分賑やかになったもんだ。
「なんだよ腰曲げて溜息ついて、ジジ臭ぇ~」
振り返ると、そこには奇杵襲と奇杵語の双子の兄弟が居た。
「なんだ、おまえらいつも一緒に居るのかよ」
オレはペットボトルのキャップを開けながら言った。
「兄さんと一括りにされるのは心外だな」
弟の語の言葉に「なんで!?」と心底驚いてツッコミを入れる兄の襲。
「相変わらずおもしれーね、おまえ等」
「面白いのは兄さんの顔だけだよ」
「そうそう、みんな笑うんだよな、オレの顔見て・・・ってオイ!!」
やっぱりいつものノリだ、この兄弟。
「ていうかさ、おまえ等フツーに学校来てんだな」
「普通もなにも、オレたちはれっきとした高校生だ」
兄の襲が勇んで言った。
つーか声デカイ。
「なに? 御祖家の人間は学校に来なくてもいいとでも思った?」
弟の語が表情1つ変えずに返す。
「いや、そういう意味じゃないんだけど、なんつーか、お前等の一般的な学園生活とは違った側面しか見てないからさ、こうして日常の一コマを共有してると、面白いなってことだよ」
「ふーん、ボクもそう思ってたよ、君に対してね」
けっ、言ってくれるぜ。ちょっと見ない間にまた皮肉屋にもどっちまった。
可愛くねぇなー。
「ま、その内またお世話になるかもしんねーしな、その時はよろしく頼むわw」
「どういう意味だよそりゃ」
襲がマジっぽく低い声で言った。
ん? どうした急に雰囲気が変わった・・・、あ、そういうことか。
「兄さん黙って」
語が冷静に、だけど毅然とした態度でこちらを睨む。
「・・・・、何か知ってるの?」
「いや、社交辞令のつもりで言ったんだけど、気にすんな。今のオレは基本的に不干渉だよ」
オレはそう言ってその場を立ち去った。
面倒な事になる前にな。
うわー、背中に双子の視線を痛いくらいに感じるぜ。
まったく、まだまだ若いな。
早く屋上戻ろっと。
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