また来てしまった。
この場所。
学園の裏山の奥にある、すり鉢状の場所。
まるで小規模のカルデラのうような。
底に降りてみるとただの草原みたいに見えるけど、
僕はここで死にそうな目に遭っている。
だけど五月のあの日、ここで初めての出会いがあった。
万木君、香久夜さん、龍樹先生。
ま、普通の出会いじゃなかったけどね。
あれから二ヶ月経ったんだぁ。
長いようで短い、そして濃い日々だったな。
テロリスト体育館占拠事件があったり、
そのあとみんなで神社のお祭り行ったり、
香久夜さんに能力の特訓を受けたり、
そのまま万木君と香久夜さんの部下にさせられたり・・・。
ん? 部下はちょっと違うかな?
なんて朝の裏山(御祖家の人達は「ナカミクラ」って呼んでるみたいだけど)を物思いに耽りながら歩いていたら、
突然背の高い草を掻き分けて2人の生徒が姿を現した。
「おい、こんなところでなにしてっ・・・て」
2人の内片方がそう言いながら、僕達は視線を合わせて思わず言葉を漏らした。
「あっ・・・」
この2人、見たことある。
確か御祖家での僕と万木君のお披露目の時に見た顔だ。
向こうも僕の事に気付いたらしい。
2人とも腰に佩いた日本刀から手を放した。
「なんだ、おまえかぁ」
片方が言った。
ちゃんと見るとこの2人は顔が良く似ている。
双子なのかな。
制服が同じだから、あとは髪型と雰囲気で見分けるしかなさそうだ。
とりあえず、あからさまな落胆と僅かな敵意?怒り?をにじませた声で言ったのは、短髪のどことなく精悍な顔をした方の人だった。
「いったいなんだってこんなトコうろついてんだよオメーは」
ほぼ初対面なのにこの言い様。どうやらあまり好かれていないみたいだ。
理由はわからないけど。
まぁ僕としては今まで人に嫌われるってこともほとんどなかったんだけどね。
だって誰にも存在を知られてなかったんだから。
とはいっても、あまり良い感じはしない。
訳も分からず他人に嫌われるということは。
「兄さん、口が悪いよ」もう一人の方が言った「申し訳ないね。バカな兄さんは無視して」
「オレは空気以下!?」
やっぱり兄弟らしい。
「だけど、いくら君でも、スメラギの直属の人間でも、この辺りを勝手に歩き回ってもらっては困るんだよ。御祖家にも面子ってものがあるからね」
「はぁ、いや、あの、、、ごめんなさい」
口癖で謝ってしまった。
錦君が居たら怒られるな、これは。
「ここは御祖家最大最高の聖地であり禁忌の地でもあるんだ。存在理由といっても過言じゃない。分かってもらえるかな?」
「こんなぽっと出の奴に分かる訳ねーよ。だいたい御祖家に少しでも係わるなら、それくらい知っとけっつーんだ」
そうとう嫌われてしまっているらしい、お兄さんの方に。
「あ、その、ごめんなさい。この辺りに万木君が居るって聞いたので、捜しにきてみたんです」
「よ、よ、ヨロキ君だと!? 『さん』付けろ!! トキジクさんと呼べ!! あの人がどんなに凄い人かおまえは全然わかってない!!」
万木君のコトにもの凄く喰いついてきたお兄さん。
びっくりした。
「悪いね。彼はトキジクさんのこと心底リスペクトしちゃってるからさ」
「もういい!! そんな奴とっとと追い払って戻ろうぜ!!」
そう言って腕を組み仁王立ちでふんぞり返るお兄さん。
ううう、怖い。
「そういえば、誰にトキジクさんがここに居るって聞いたの?」
弟さん、の方が言った。
「あ、それは・・・」彼らは龍樹先生のこと分かるかな?「学園の世界史教えてる龍樹先生がこの辺りで見かけたっていってたので・・・」
「龍樹・・・・」
そう呟いて弟さんは真剣な顔つきになった。
「知ってますか? 先生のこと」
「うん、少し。あの得体の知れない先生だろ? 外国人の」
「あいつ、いったい何者なんだ? 瓜生の奴と一緒に、ここでスメラギと平気で喋ってたぞ?」
あれ? この人達瓜生君のことも知ってるんだ?
「あの人の言ったこととなると・・・・」
弟さんが思案気に顎に手を当てていたその時。
「!!??」
一瞬、地面がトランポリンみたいに歪んだ気がした。
ミゾオチ辺りに変な感触が生まれて消えた。
「な、なんだ!? 今の??」
お兄さんが刀に手をやって身構える。
「兄さんも感じた?」
2人の緊張が高まる。
「おまえ、なんか変なことしてねーだろうなー!?」
突然矛先がこっちに来たので慌てて否定した。
「なななんにもしてませんよっ!!!」
「まだここは中御座の範囲外のはずだよ」
「カタリ! ちょっとここで待ってろ。オレが周りを視てくる!」
そう言ってお兄さんは素早く背の高い草の茂みの中へ消えた。
そして草原に僕と弟さんの二人で取り残された。
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