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藤巻舎人 脳内ワールド

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カテゴリー「私立日高見学園 第1章」の記事一覧

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私立日高見学園(17) 瓜生襷

ゴールデンウィークが終わってしまった。
まぁ部活でほとんど終わったんだけど。
どこにも行ってないんだけど。
それなりに楽しかったんで良しとする。

しかしなんで部活とかで学校来るときは苦じゃないのに、授業で学校に来るときはかったるいんだろう。
平日の朝は起きれないのに、休みの日の朝に限って早く起きてしまうのと同じだろうか。
イイせんいってるような気もするけど、惜しい気もする。
なんて考えている内に教室に着いた。

「おいおいおいおい、瓜生君、実に久しぶりじゃないかね、元気してたかい?」
着席するなり錦がおかしなキャラで寄ってきた。
「昨日も部活で学校来てたろ」
「いやいやいやいや、そういうんじゃないんだ。そーゆーんじゃないんだよ、瓜生君! なんかもう、何週間振り? みたいな。ずーっと俺たちのことほったらかして裏山で学園異能バトル繰り広げてませんでしたか? って勢い?」
えーーー!? なんか不穏な事言い出しちゃったよこの人!!

「訳分かんねーこと言ってんじゃねーよ」
「だってさ、だってさ、俺だってさ・・・」
「ホラ、おまえ他の人の机に勝手に座んなよ。めーわくだろ」
「だってここの席誰も居ない・・・って、いたーー!!?」

居た。
居てしまった。
言った本人のオレも居るとは思わなかった。
いや、別に居てもおかしくないんだけど。
席があるんだから誰かが居て当然なんだけど。
何故か人が居て驚いてしまった。

メガネにかかくるくらいの長さの前髪。
黒縁メガネの黒と遜色違わないほどの見事な黒髪。
目立ちそうなんだけど目立たない。
何か濃いのに薄い。決定的に薄い。
希薄。
目の前に完全に居るのに消え入りそうな気配。

そんなメガネの彼は、自分の机の上に他人が座ってぎゃーぎゃー騒いでいるのに、耐えるようにじっと俯いて椅子に座っていた。握った両手を膝の上に置いて。

「あ、悪ぃ悪ぃ、ゴメンな。こいつ猿だからどこでも座っちまうんだよ」
存在に気付いてなお唖然としている錦に代わって言い訳をする。
「む、ムキーー!!」
錦はやっと我に返って猿の猿真似をして机から飛びのいた。
しかし、こんな奴クラスに居たかな。
いや、居た気がする。絶対に居た、と思う。
だけどその反面、名前も知らないし話した記憶も無い。
それを居たといえるのか?
新一年生とはいえ、既に一ヶ月経つんだぞ?
だいたいオレの隣の席だ。ずっと空席だったらおかしいと思うし、居たら居たで記憶くらいあるはずだ。

「む、むむむ?」
「どうした? ニシキ」
「ん? いや、こいつ初めて見た気がするのに初めてじゃないような気もする。ていうかなんだか虫の居所がおさまらない感じがするなぁ?」
「おまえ何言ってんだよ」
まったく意味が分からない。分かりたくもない。
「なんだか何週間もほったらかしにされてた感はこいつの所為なんじゃないかって思えてきたなぁ」
「無茶言ってんじゃねぇよ! バカ! ホント申し訳ない」
オレは立ち上がって錦を廊下に連れ出そうとした。

「・・・・・ゴメンなさい・・・・」
聞こえるか聞こえないか程度のか細い声で彼が謝った。
へ?
なんで謝ったのこの人?
「や、やっぱりおまえなんか悪い事してたんだろー!!?」
錦はソレ見たことかっていう悪魔いたいな顔でメガネ君に詰め寄った。
「あの・・・、よく分んないけど、ゴメンなさい・・・」
なんだよソレ、と突っ込もうとしたら、錦に先を越された。
「なんだよソレ? 君さぁ、意味も分んないのに謝る訳? 何も始まってないのに負けを選ぶ訳?」
いや、錦、おまえの方こそなんだよソレ、だ。
何をもって彼を責めている?
理由無き言いがかりを先につけたのはおまえの方なんだぞ?
などと言ってその場を収めようとしたら、いきなりメガネ君がうつむいたまま泣き出してしまった。
膝の上で握り締めた拳は震え、、大粒の涙がズボンに染みを作る。

さっきからオレ、展開が早過ぎてついていけてないんですけど。
落ち着こう、オレたち。しばし落ち着こう、一息入れよう。
「あ、あの、だいじょーぶかな?」
「いえ、ちがうんで・・・」
メガネ君が何かぼそっと呟き始めたと同時に、教室の後ろの引き戸がバシン!!と大きな音をたてて引き開けられた。

「ごらぁぁああ!! てめぇら!! オレの春日麿を泣かせてんじゃねぇええ!!!」
鬼のような形相の男がどかどかと近づいてきた。

えーー!!??
またおかしな展開になってきたーー!!
そして鬼の男はオレと錦の胸倉を同時に掴み、床からつま先が浮くくらいに持ち上げた。
「こんなことしてどうなるかわかってんだろうなぁ?」
物凄い怒気を孕んだ低い声で脅しつけ、刺し貫くような目で交互にねめつけてくる。

ていうか腕一本で高校一年生の男子を持ち上げるなんて芸当普通出来るのか? こいつの異常な勢いよりもまずそれにドン引きした。
「ちょちょ、ストップストップストップ!!」
オレと錦は慌てて制しようとする。
「落ち着け!! 俺らなんにもしてねーって!!」
いや、錦、何もしてないはちょっと苦しいなぁ。ま、泣くほどのことはしてないと思うが。

「じゃ、なんで春日麿が泣いてんだよ!!」
さっきの状況見たら、オレたちがメガネ君を囲んで泣かしたように見えなくはないわなぁ。誤解されても仕方がないが、こんな問答無用の仕打ちを受けるいわれは無い。
ていうか、カスガマロっていうの? このメガネ君。
とそんなこと悠長に考えてる場合じゃない。

鬼気迫る彼の鬼の追求に言葉を詰まらせていると、メガネ君が立ち上がって止めに入ってくれた。
鬼男の胴体にしがみついて。必死に。
「だから万木君、違うって、誤解だって、二人を放してよ!」
「じゃ、なんで泣いてんだよ、おまえは」
ふ、と首を圧迫している力が緩む。
「そ、それは・・・」
カスガマロと呼ばれる彼は、何故か視線を逸らして言い淀んだ。
「言ってやれ言ってやれ!! この怪力バカに!!」
「黙れ!!」
と錦曰く怪力バカに一括されてしまった。
それにしてもホントに怪力だ。いや、怪力なんてもので定義出来る代物ではないんじゃないか?
ターミネーターのシュワちゃんみたいな体格でもないし、背だってオレ達とそんなに変わらないのに。

「えっと、言わなきゃダメかな・・・」
なんでそこで照れる?
お願いだから言ってくれ。冗談でもイイから。
こっちは命がかかってるんだから。
ちょっと大袈裟だけど、あながちそうでもないかも。
「泣けてきたのは・・・」
さっきから恐ろしく声が小さい、っていうか声を出すこと自体に慣れていないって感じの人だ。
皆で、この場合、胸倉掴まれて宙吊り首吊り状態のオレと錦と、そんなことを可能たらしめている怪力バカの三人で、次の言葉をじっと待った。

「涙が出たのは、嬉しかったから。
泣けるほどに嬉しかったから」
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私立日高見学園(16) 児屋根春日

「さて、我々も退くとするか」

銀髪の人が呟いた。
その一瞬、地面がぐにゃりと歪んだ気がして、あ、沈む、と思ったら、周りの景色が変わっていた。
「あ、れ?」
ここは、校庭? 学園の?

「たく、いつもいつも非常識で非現実的な力だよな」
万木君がぼやいた。
「おまえのような似非人類に言われたくないな」
銀髪の人が刀で肩を叩きながら言った。
「えー!!? 酷くない? それ。酷くない? オレってヒトじゃないの?」
「どこの世界に亜音速で動ける人間が存在する? そう考えたらもう既にヒトではないな、このヒトデナシが!!」
「うわ、うわ、うわ、何ソレ!? 」
万木君の顔がみるみる赤く染まって、口の端に泡が吹いてきた。
興奮し過ぎてちょっと怖い。

「あの、万木君、少し落ち着いて・・・」
「こ、これが落ち着いていられるか? って春日落ち着き過ぎだろ!!?」
「まぁまぁ、頭悪いのがバレバレだぞ? 興奮すると心臓の傷から血が吹き出るって、つーか見てみたいなぁ、ソレ」
銀髪の人は笑いを堪えるように言った。
「そ、そうだ!! おまえ、そのトンデモ能力で傷治せよ!!」
「フン、どうでもイイが、その傷の分と、今夜のおまえ等の尻拭いと、高くつくぞ? 当分はタダ働き決定だな、夜の奉仕活動とか」
「ふざけんな!!」
「なんだ、大好きじゃなかったのか?」
「だ、誰がだ!!」
夜の奉仕活動っていったいなんだろう。
どことなくいかがわしい感じがする。
あ、いや、そうじゃなくて、僕はぜんぜん変なこと想像なんてしてませんよ?

「まぁイイ。おまえらそろそろウチに帰れ。トキジクはどうでもイイとして、春日は体は普通だからな。傷は塞いでおいたが治した訳じゃない。まだかなり痛むし、そもそもおまえ自身の生命エネルギーを使った訳だから、そうとう肉体の負担になってるはずだ。それに『虚空』モドキも出したしな。今は平気かもしれなが、直ぐに疲労が出てくるぞ。明後日、ゴールデンウィーク明けても学校休んだら補習授業させるからな!」
「あ、あの」
「なんだ?」
「ありがとうございました」
「傷のことか?」
「あ、それもありますけど、あの時、声をかけてくれたのはあなたですよね。
『人間一人が世界を救うことが出来ないように、一人が世界を終わらせることも出来ない・・・』とか。
あの言葉を聞いて、あぁそうなんだ、って安心出来たし、吹っ切れたんです」
「ああ、しかしそこだけにフォーカスされてもなぁ。その続きが大事なんだよ。
『人間なんて、世界と向き合って世界を動かしている気になっているが、所詮自分と向き合っているに過ぎない』
ということは自分とは世界そのものなんだよ。だから自分とちゃんと向き合って、自分を完全にコントロールできるなら、人間一人でも世界は変えられるってことなんだ。ま、副次的な結果だ。
わかるか? そこまで理解出来なければ、たんなる戯言だ。自分の無知無能など気にするな。
あ、それと春日、明後日、放課後私の所に来い。おまえにはいろいろ話しておかなければならない事が山積みだ」
う、無知無能・・・・。
とちょっと凹んでいる隙に、銀髪の人の気配が消えた。
パッと。
マジシャンの手の中のコインみたいに。
そして本当に彼の姿はどこにも見当たらなかった。
残されたのは広漠とした暗い校庭と、僕たち。

「ふぅ、いったい何だったんだろう、ていうか誰だったんですかね? あの人」
僕はそう言って万木君の方に向き直ると、いきなりこめかみを鷲掴みにされた。
こ、これは、噂に名高いアイアンクロウ!?
「痛痛痛たたたたー!!!」
「敬語使うなって言ったよなぁ? こういうのは初めが肝心なんだよ」
「ちょ、メガネ、メガネ、壊れるから!!」
分かれば宜しい、なんて満足そうに頷く万木君。

「まったくぅ・・・、わかりましたよぉ」
「・・・敬語・・・」
「ギャー!! 暴力反対!!!」

なんで僕たち真夜中の校庭のど真ん中でこんなことしてるんだ?
真珠のようなお月様の光だけが慰めだよ、と夜空を仰いで涙ぐむ僕。
っていうか、つい数分前まであの真っ暗な山の中に居て、そこでは黒い犬の怪物に襲われ、万木君が現れて助けてくれたけど胸を刺され、褐色の肌の奇妙な男に死と終焉の選択を強要され、銀髪の人がこれまた突然現れて交渉の末その場を円く治めてくれて、その上どうやったのか下の学校まで送ってくれて今に至る訳で。
僕の15年間の人生を遙かに越える不可解さだった。てんこ盛りだった。

「お、それから、オレのことは昔みたいにトキジクって呼べよ」
出た。
その昔みたいに、っていうのもよく分からない。
「あの、万木君じゃダメなのかな?」
万木君は腕組して目を瞑って唸ってから、「それはそれで新鮮だなぁ、よし、それでよしとしよう!」なんてにやけながら独り合点していた。
なんだか身の危険を感じる。

「そういえば、あの銀髪の人の名前は? 制服着てたし、学園の生徒?」
「ん? ああ、知らないんだっけ? あいつはここの生徒で、御祖香久夜(ミヲヤカグヤ)っていうんだ。オレは大抵スメラギって呼んでるけどな」
「はぁ」
「あいつ口悪ぃし性格悪ぃし目つきも悪ぃし、最悪だろ? ま、気にすんな」
万木君は悪口を並べながらも、晴れやかに八重歯を覗かせて笑った。
ぜんぜん悪意が伝わってこない。仲悪そうにみえるけど、なんだか見えない絆みたいなもので繋がっていそうな二人だった。
羨ましいな。
僕には・・・。

「あ、おまえ傷みしてみ? どうなった?」
忘れてた。
そういえば香久夜さんにも言われたっけ。
なんて考えていると万木君が勝手に僕の左腕を取って、包帯代わりに巻いてくれていたネクタイを解き始めた。
「ふん、細胞の再生は出来てるな。その辺、抜かりないのはさすがスメラギ」
どこか自慢げな万木君。
傷を見てみると、ホントだ、骨まで露出していた傷がケロイド状の痕をを残してはいるけどちゃんと塞がっている。
万木君の胸の傷といい、香久夜さんがやったのかな。って、やったってどうやったの? まぁそれを言い出したら今夜の出来事全部そうなんだけどね、なんか頭クラクラしてきた。本気で。凄く疲れた。

「おい、なんか目の焦点おかしいぞ? そろそろ帰ろうぜ」
「ああ、うん。僕は直ぐそこの学生寮だけど、万木君は?」
「え? オレも今日から、っていうかもう昨日だけど、寮生だぞ? 107号室」
「・・・・・・・・」

絶句した。
僕と同じ部屋だ。
そういや隣空き部屋だったかも・・・。

私立日高見学園(15) 万木非時

「否!!

僕は拒否する!! 世界の終わりも、彼の死も!!
僕は嫌だ!!」

春日麿の叫びが聞こえ、消えかけていた意識が突然戻ってきた。
生きているのか?

すると今度は別の声が聞こえていた。
聴覚を介さず、直接意識に。

「いつまで寝た振りをしている」
う・・・、この声は。
「とっとと立ち上がって状況を見ろ。短剣は消しておいた。出血など自力で止まってるはずだ。甘えるな!! 久しぶりの戦いで呆けたか!?」
な、なんか酷い言われようなだぁ。
オレなりに頑張ってるんだけどなぁ。

ゆっくりと目を開ける。草地に付けていた額を離し、慎重に立ち上がる。
「え、万木君!!」
隣の春日麿が驚きの声を上げた。
「大丈夫だ。おまえはしゃんと前見てろ」
ホントだ。傷口はまだあるけど、血は止まってら。
オレは、前に居る褐色の男を視野に捕らえる。そして、その視線がオレ達の背後へ向けられていることに気付く。
たく、後ろかよ。
オレは振り返った。 

そこには、スメラギこと、御祖香久夜(ミヲヤカグヤ)が学園の制服姿で仁王立ちしていた。
いつものむやみやたらに仁王立ちかよ、っていきなり銀髪のスーパーサイヤ人化してるし、げっ、宝剣にして霊剣にして神剣の直刀「九重」を佩いてやがる!!
オレの歴史上でスメラギがここまで本気モードの姿を見せたたのは数えるほどだぞ。てことは、この状況は相当ヤバイってことだ。
それも地球の存亡を賭けたレベルの。

「なんだい、せっかくこのメガネ君と心躍る契約が成立するところだったのにし、興醒めだねぇ」
褐色の男が顎に手をやり、ニヤリと笑った。

「僕は失うことを選ばない!」
春日麿は宣言するみたいに言い放った。
おおお♪ なんかいきなり頼もしくなっちゃって。
その、前を見据えるひたすら真っ直ぐで曇り無き目。春日麿そのものだ。
やっぱりこいつは春日麿だ。
しかもこの感じ。ようやく自分の力を自覚してきたみたいだな。

「では、何を選ぶというんだね?」
「すべてを取り戻すことを選ぶ!」
「ふぅん、これまた都合のいい」

「いや、自分の意志を言葉にして発することは理に適っている」
う、とうとうスメラギの奴、口を出してきた。
その声を聞いて初めてスメラギの存在に気付いたのか、春日麿が驚いたふうに後ろを振り返った。

「ふぅん。ここは随分と興味深い場所だねぇ。帯刀の少年に、メガネ君。
特にメガネ君はまだ自分の力を制御出来ていない。これでは先程のようにいつ何時『虚空』を造ってしまうかわからないよ? そのリスクは覚悟の上なのかな? 銀髪の君・・・、
ん・・・、いや・・・?」
「こんな私達めにそのようなお心遣い大変嬉しゅうございます。それならば確約いたしますよ、何ら問題はございません、と」
「銀髪の君・・・、君達とここには、まだまだ何かありそうだねぇ。とても得体の知れないなぁ。先手を取って少し手入れをしておいたほうが良いかな?」
そう言って褐色の肌の男は、相変わらず不適な笑みを浮かべながらも、両手をすっと降ろした。

おいおいおい、こいつ何する気だ?
いきなり雰囲気が変わったぞ!!
スメラギの奴いったい何挑発してんだよ!!
「万木君、なんかマズイ展開?」
お、おまえも気付いたか。
「ん、まぁ」
しかしこの二人に挟まれて、俺達はどうしようもないかもなぁ。

「まぁまぁ落ち着き下さいませ、『混沌の君』あるいは『這寄る混沌』殿」
「・・・・・」

「そんなに警戒なさらないで下さい。ここで私達と揉め事を起こすことは、あなたにとっても益にならないでしょう。なんなら御伺いを立ててみてはいかがでしょうか? 『偶然管理委員会』に」
「こ、これは!! ほう、その名を人間の口から聞くとは!!
ふむ、分かった、しばし待ちたまえ・・・。
ふんふん、ははぁ、成る程、おお? ふぅん、そういうことですか」
褐色の男は視線を上のほうに向けて、ぶつぶつ独り言を呟いた。
いったい何の事だ?
『偶然管理委員会』だって?
だいたいスメラギの奴、この褐色の男の存在を知っているふうだし。
今夜の出来事、すべてに何かあるなぁ。

「まぁ、おおよそのことは分かったよ、銀髪の君。
随分と大きく出たねぇ、上手くいく自信はあるのかい?」
「ふふ、私一人の一存ではなき故、なんとも言えませぬ」

うーん、いきなりこうも頭越しに話されてもなぁ、途中からしゃしゃり出てきたくせに。
隣を見ると春日麿も「どうしよう?」的な顔をした。
たく、テンション下がるぜ。

「ではそろそろ宴もたけなわということで・・・」
えー!? スメラギさん!!
決して使い方は間違っていないけど、なんかそんな言葉でお開きにされても!! これは宴会ですか!?
口には出さないけど、そういう突っ込み顔をスメラギに向けた。
同様に口には出してはいないが、そのマヌケ面を引っ込めろ、っていう見下した顔をスメラギはこちらに向けた。
絶対そう思ってる!! 口には出してないけどね!!

「こちらには怪我人もおります故、早々においとまさせて頂きたく思っております。如何なものでしょうか?」
「分かっているよ。これほどの綾を織り成すんだから、ちょっとの綻びも全体を台無しにしかねないしねぇ。
まぁ、大事な手駒を失わないようにね」
「手駒など、勿体無いお言葉。ただの大切な無二の友人達ですよ」
「ふぅん」
褐色の肌の男は、また顎に手を当てて、ニヤリと笑った。
「では、そろそろ私も行くとするよ」

私立日高見学園(14) 児屋根春日

「君が彼の死を望んだのだよ」

「違う!!」

「では選べ!! 世界の終焉か、彼の死を!!」


なんで、なんで、なんで!!!
違う、違う、違う!!!
彼の死なんて望んでいない!
彼の死なんて願っていない!!

僕の所為じゃない、僕の所為じゃない、僕の所為じゃない!!

だけど、ずっと昔、
僕の邪魔をしないで、と思った。
僕を放っておいてくれ、と思った。
そしたら次第に世界は静かになった。
みんな僕から離れていった。
僕は静けさを歓迎した。
僕は独りを楽しんだ。

そしてその内、
誰もが僕に気付かなくなった。
最初は話しかけたり、触ったりすれば、思い出したように気付いてくれた。
でも、最後には、
僕を認識出来なくなっていた。

僕の存在を忘れてしまった。

本当の父さんと母さんだけは、
僕のことを分かってくれていたのに、
僕を置いて居なくなってしまった。

誰にも知られることなく生きる、
それって、生きてるっていえるのかな。
人類が滅んでしまって、僕だけが地球上に生き残った、っていうのとも違う。
誰もが普通にしていて、社会も、世界も動いている。
僕無しに。なんの問題も無く。
それって、死んでいると同じじゃないかな。

だからすべて終わってしまえばイイと思った。
僕が居なくても何事も無く営まれていく世界を見ていて、
こんな世界要らないと願った。
何故かこの山に登りながら。

そしたら、
黒くて大きな目が四つもある犬みたいな怪物に遭遇して、
いつもだったら動物にだって知らん顔されるのに、
この時だけは違くて、
しかも襲われて左手を噛まれて、
血がドクドク出て物凄く痛んで。
僕は初めて死を意識した。
死の恐怖を味わった。
だけど同時に、自分は今生きているんだ、っていう感触を強烈に感じていた。
僕の命を狙っている怪物が逆に、
僕は生きているということを実感させたんだ。
だって無いものを、
存在しないものを奪ったり傷付けたりは出来ない。
傷付けられ、血を流し、脈打つ激痛を感じている僕は、
紛れも無く生きていた。

そして突然、
稲妻のように彼が現れた。
彼は万木非時と名乗り、
僕を春日麿と呼んだ。
何故『麿』を付けるのか分からなかったけど、
僕を探していた、と言った。
鞘を預かっていてくれと僕を見詰め、頼みごとをした。
傷を手当てしてくれて、抱き上げてくれた。
挙句に、僕を庇って死ぬ程の傷を負い、
僕に逢えて良かったと、
僕のことを大好きだと言ってくれた。

余りにも突然で急激な出来事だったけど、
僕は嬉しかったんだ。
泣きたい程に。張り裂けんばかりに。
僕のことを認めてくれた。
僕のことを必要としてくれた。
逢えて良かったと言ってくれた。
大好きだと言ってくれた。

そんな彼は、死に瀕していた。
僕の所為で。

「君が望んだことだ」
と褐色の肌の男は言った。

僕の所為なの?
違うよね。
違うって言って。
誰か、
違う、君の所為じゃないって言ってくれ!!


周囲が暗くなるのが分かった。
夜なのに、更に僕のまわりだけ暗くなっていった。
褐色の肌の男も、万木君も、谷底の草原も、遠く離れていく。
夜よりも暗く、空っぽで虚しい底なしの暗渠が、僕を飲み込んでいく。
ここに入れば、もう二度と戻れない。出てこれない。
再び、生まれ変わることもない。
父さんや母さんや、万木君に逢うことも出来なくなる。
どうしようかな・・・。

「春日」
僕を呼ぶ声が聞こえた。
「春日、よく聞け」
「誰?」
知らない声だった。
「おまえがすべての終わりを望んだのは事実だろう。だからといって本当に世界が終わってしまう訳でもないし、終わるべきでもないし、終わらせることも出来ない。
人間一人が世界を救うことが出来ないように、一人が世界を終わらせることも出来ない。
人間なんて、世界と向き合って世界を動かしている気になっているが、所詮自分と向き合っているに過ぎない。
だから、あの男の言葉は自分の言葉だと思え。
奴は人の心の隙につけ込む。ウソはつかないが惑わせる。
真実と虚偽は背中合わせ。その紙一重ギリギリのところをついてくる。
見極めろ。
おまえには拒む権利がある。
おまえには拒む力がある。
人生の無慈悲、無理難題に対して拒むことが出来る。

否と叫べ。

声高に!!」

そうだ、もう嫌だこんなの。
失うのも嫌だ。
独りになるのも嫌だ。
認識されないのも嫌だ。
忘れられるのも嫌だ。
死ぬのは嫌だ。
世界が終わるのも嫌だ。


「否(いな)!!!」

僕は目をしっかりと見開き、立ち上がった。
そして褐色の男を睨みつけ、叫んだ。

「僕は拒否する!! 彼の死も、世界の終わりも!!
僕は嫌だ!!!」

日高見学園(13) 万木非時

「随分と時化た終いだね。それに呆気ないし早すぎる」

これからオペラでも観劇に行くようなふざけた格好の男が言った。
なんなんだなんなんだなんなんだ???
何でこんな真夜中の山の中に、あんな人間が居るんだ?
制服を着た高校生より有り得ない!!

「折角盛り上がりそうなんで遥々来てみれば、まぁ距離なんて関係ないんだけどね、それでもコレは無いだろう。アンチクライマックスもイイとこだ。こっちはちゃんと正装までしてきたのに・・・」

褐色の肌の男はそう言って黒い上着を気にしてみた。
後ろに撫で付けた豊かな黒髪が月明かりで艶やかに光る。
どうやってここに来た?
いつここに来た?
いつからここに居た?
あの犬コロ達が居たとしても、このオレに気配すら感じさせないなんて。

「まったく余計なことをしてくれたものだな、帯刀の少年。そこなメガネ君が絶望に駆られてすべてに幕を下ろすことを希求し、だがしかしその望みは叶えられず、無残にも醜い怪物に自分だけが喰い千切られる、あるいはそこに私が馳せ参じて危機一髪のメガネ君を救うことも出来た。あらゆる屈辱的な、死んでいたほうがマシだったと身悶えするほどに悲惨な取引をして。
嗚呼、考えただけでも身が震える。
ということで、どうだろう。
あらためて、もう一度世界の終わりも願ってみないか?」

「ふざけるな!!!」
オレは無意識に腰の太刀に手をかけ、春日麿の前に体を出した。
「このクソ・・・」

「言葉に気を付けろ、人間」

アレ?
胸に、
オレに左胸に、短剣みたいな物が突き刺さってる。

「これでも私は腹を立てているのだ」

あ、
ウソ。
ブレザーにもシャツにも、真っ赤な染みが広がっていく。
これはガチでヤバイかも。心臓をやられたのか?
しかしどうやって。刃物を投げた様子なんてまったく無かった。
強いて言えば、短剣が、いきなりオレの心臓に突き刺さるように出現した、みたいだ。
急に足の力が抜けて、オレは草地にがくりと膝を付いてしまった。
口からは「あ、あ、あ・・・」としか言葉が出てこない。

「どうしたの!?」

春日麿が慌てたように膝立ちになったオレの前に回りこんできた。
「はっ・・・」
刺さった短剣を見て息を呑む音が聞こえた。
畜生、やっと、やっとこいつに出逢えたのに。
どれほど春日麿のことを求めてきたと思ってんだ?
こいつに逢いたくて、逢いたくて、触れたくて、声が聞きたくて、抱きしめたくて、笑い顔が見たくて、
だから戦って、戦って、戦って、戦って・・・・。
おまえにまた逢えることだけを頼りに、生きてきて、
世界中をさすらって、あらゆる時代を駆け抜けて、
やっと会えたと思ったら、今度はオレが死んじまうのかよ。
幾度都が遷るのを見ただろう。
幾度都が焼けるのを見ただろう。
幾度戦を見ただろう。
仲間が出来ては別れ、あるいは死んでいった。
そして残るのはいつもオレ独り。
目が覚めてみれば誰も居なくなっている。
もう嫌だ。
終わりにしたい。
独り取り残されるは嫌だ。

そしておまえに出逢えた。


「おっとそれを抜かない方がイイぞ。抜いた途端に血が吹き出る。まぁ、遅いか早いかの違いでしかないがな。時間の問題だ」

褐色の男がそう言うのが聞こえた。

「か、かす、が・・・」
必死の呼びかけに、春日麿は肩に腕を回し、顔を近づけてきた。
「なに? なんて?」
血圧が下がっていくのが分かる。冷たい汗が結露みたいに浮かび、意識を保っていることが難しくなってきた。
「か、すが、おまえに、逢えて・・・」
「喋らない方がイイよ! 胸に、胸に・・・」
「イイから、聞け。・・・逢えて、良かった」
「え?」
「おまえに、逢えて、本当、に良かった」
「万木君!!」
「おまのことが・・・・、大好き、だ」
「だ、大好き、って、僕を?」
「はぁ、はぁ、そ、そうだ。おまえ・・・」
ああ、ダメだ。上の方から暗いカーテンが下りてきて、意識が隠されていく。目が、見えなく・・・。
「なんで、どうして! 僕なんかを、今会ったばっかりの僕を好きだなんて!!」

「素晴らしい!!
 いや、申し訳ない。水を差すような言葉を挟んでしまって。しかしこれに拍手を送らないでいられようか、いやいられない。
いやはやどうして、君の友人も、あぁついさっき出逢ったばかりだったかな? まぁその帯剣の少年もまた、生という秩序への反抗を夢見ていたとはね。
これは偶然なのか? いやこの世に偶然なんてものは存在しない。
ん? 待てよ?
これが偶然ではないのに、では何故この私が知らなかったのか?
まさか、仕組まれていた?」

「この怪我を治して!!」
春日麿、もうイイよ。おまえまで危険に晒すことになる。
「・・・メガネ君、それは君の願いなのかな?」
「願いでもなんでもイイから、彼の怪我を治してよ!!」
「残念なことに、私は自分の主義に反することはしたくないのだよ。君にもお薦めするがね、そういう生き方」

「イイから、・・・に、げろ」
必死で意識を繋ぎ止めて言葉を紡いだ。
春日麿はうずくまるオレの体を両腕で抱き込み、背中に顔をうずめているようだった。
「嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ・・・」

「まったく子供みたいに駄々こねて。というかまだ子供だったね。
小さい頃から世界が嫌いで、独りでいるのが好きだった!
自分の空想の世界で遊ぶのが一番楽しいのに、どうしてみんな放っておいてくれないんだろう? 僕は独りでいいのに、僕は独りがいいのに!
そんなこと思っていたら周りはどんどん離れていって、そして両親までもが遠くへ逝ってしまって、知らない親戚の家に引き取られ、遠慮して気持ちが縮こまって更に自分の内に引きこもって、どんどんどんどん周りを遠ざけて、自分だけ安全な場所に閉じこもってればそれでいいと思っていた。
それなのに天邪鬼で欲張りで我が儘な君は、寂しいなんて思い始める。自分が周りを遠ざけたくせに、孤独を周りの所為にしている。そのあげくに世界なんて終わってしまえばいいなんて身勝手に考えた末に、身代わりを立ててまで生き残っている。
いいか? メガネ君。そこな帯刀の少年が今にも死にそうなのは、君の所為なんだよ?
君が彼の死を望んだのだよ?」

「違う!!!」

「では選べ!! 世界の終焉か、それとも彼の死か!!」

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藤巻舎人
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読書 ドラム 映画
自己紹介:
藤巻舎人(フジマキ トネリ)です。
ゲイです。
なので、小説の内容もおのずとそれ系の方向へ。
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