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藤巻舎人 脳内ワールド

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カテゴリー「私立日高見学園 第1章」の記事一覧

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私立日高見学園(2) 棚機錦 

決勝の試合は近くの市営球場でやっていたので、楽器をトラックに積んでから、吹奏楽部員はそれぞれ自転車やバスや徒歩で学校へ戻った。
先に着いた順に楽器を降ろして片付け、任意で個人練習あるいは解散となった。俺は気分が乗らなかったので帰宅した。なんとも大胆な一年生だ。
家に帰って自分の部屋で制服のままベッドに横になる。天井の模様を見るとなしに見つめる。

佐伯主税(サエキチカラ)

浮かんでくるのはあいつのことばかり。家は自転車で5分ほどの距離。幼稚園からの幼馴染。高校までずっと一緒なんて、ありそうでない話。
昔っからあいつは野球ばっかりで、俺も付き合って小学校までは一緒にやってたけど、中学からは向いてないって諦めた。俺は普通、あるいはそれ以下で、佐伯は常にスター選手だった。だいたい高校入学して即スタメンってどんな規格外だよ。おまえはガイバーか。
中学で俺は吹奏楽部に入った。音楽はもともと好きだった。だけど入部動機の大半は、同じ学校で吹奏楽部にいたら佐伯の応援ができるから、だった。
不純だし、不順だ。もしくは腐男子だ。
そんな理由で音楽をやってるなんて、本気で音楽に取り組んでいる人達に申し訳なかった。
好きな奴の側に居たいから。
うわ、非常に痛い存在だ。
どんなに頑張っても、同じフィールドに立てない。居られない。
いや、無理すれば居られないことはないと思うけど、さすがにそれは迷惑な話だ。誰にとっても。それどころか目障りだ。
だから身を引いた。陰日向になり、三歩下がって見守ろうと思った。
いったい何様だよ、っていうかほとんどストーカー?
いや違う。
そう言いたい。
そう宣言したい。
「音楽やってるときは楽しいんだろ? だったらそれは真っ当な理由になるよ」
そう言ってくれたのは瓜生だった。
「どんなにいい加減でいかがわしくていやらし動機があってもさ」
もうそれだけでいろいろ駄目な気がするけど、そこは恋は盲目ということでご勘弁を。なんてったって中学生でしたから。
で、高校に入っても吹奏楽を続けている訳で。
しかも佐伯と同じ学校。
何故か残念な感じに見えるのは気のせい?
だって好きなんだからいいじゃん。仕方ないじゃん。
そんな動機でいろんな恐ろしい事件は起こるもので・・・。
いやいやいや、事件なんて起きませんから! 起こしませんから!!
だけど俺ってホントどうしたいんだろ、って思う。
佐伯とどうしたいんだろう。どうなりたいんだろう。
上手くイメージ出来ない。


もんもんと考えているうちに、いつの間にか眠ってしまったらしい。目が覚めたら部屋は暗くなっていた。それもそのはず、携帯の時計は9時を表示していた。うそ、すげー寝ちゃった。誰も起こしてくれなかったの? ていうか夕飯とかどうなってんの?この家。
余りにも寝過ぎた感にどん引きして、完全に目が覚めた。開いたままの携帯をみていたら、自然と佐伯に電話をしていた。
しばらく繋がらなくて、そろそろ留守電に切り替わるかな、と思ったら繋がった。
「もしもし?」
と俺。
「ニシキじゃなかったら無視してたぞ、携帯」
佐伯の声はなんとなく不機嫌そうだった。
「え、なに、それ。遠まわしに好きってコト?」
あ、切れた。
電話切りやがった!!
なんの迷いも躊躇も無く!!!
慌ててかけ直す。
「ちょ、いきなり切んなよ!!」
「さようなら」
「ウソウソウソ、ごめんなさい。ウソです冗談です!!」
「で?」
「あ、いま何してた?」
「ああ、ナニしてた」
「ナニしてたって?」
「オナニーの途中だった」
「あ・・・・、じゃ、ちょっと待って。終わる前にそっち行くから」
「フツー終わった頃に来るだろ!」
「誘ってるのかと思って」
「ナゼ?!」
そんな微笑ましいやりとりをしばらくした後に、YOUそんなならウチに来ちゃいなよ、ってことになって、俺は自転車をかっ飛ばした。
家を出るときに、母親が「あんた居たの? 何度も呼んだのよ」なんて言ってきたから、夕飯は佐伯の家で食べてくるから、と断りを入れておいた。
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私立日高見学園(1) 棚機錦

九回裏、ツーアウト三塁。
バッターは、佐伯。
「かっ飛ばせー、さ・え・き!!」
長ラン姿の援団員が「ルパン」と書いてあるボードを掲げ、思い切りのいい太鼓の合図が響き渡った。
その直前、陶津(スエツ)先輩から声がかかった。
「ニシキ、スネア代われ」
「ハイ!」
「よっしゃぁ、気合入れっぞ!!」
「ハイ!!」
俺はすぐさまステッィックを手に取り、スネアの前に立った。
正直、0対1という接戦で、バスドラなりスネアなりシンバルなりをやり過ぎて、もう手が限界にきていた。何千何万回と擦れた皮膚は擦りむけ、血が滲んでいた。指も思うように動かないし、筋肉だか腱だかが千切れそうだ。汗だくで、声も枯れ、暑くて頭も痛い。え、熱中症!?
だけど、そんなこと気にしてられない。
そんなこと、どうでもいい。
命を懸けて(大袈裟だ)、吹奏楽部の誇りに懸けて、野球部を、大好きな佐伯を、俺は応援するんだ!!
トランペットとトロンボーンが強烈に鳴り響く。まるで世界の終わりみたいに(だから大袈裟だってば)。
バスドラもシンバルも叩きっぱなし。
もちろんスネアも叩きまくり。
手が勝手に動いちまう。自分の手じゃないみたいだ。
無感覚。
もう少し、持ってくれ。俺の意志よ、届いてくれ。
「かっ飛ばせー、さ・え・き!!」
一塁スタンド、一番上。俺は力の限り。
『カキン』
バッターボックスの小さな佐伯が、大きくバットを振りぬいた。
一瞬、五月の陽射しに焼けた球場が凍りついた。
誰もが息を呑み、その音が聞こえてきそうだった。
そしてその場にいたほぼ全員が目で追ったであろうまばゆいばかりの白球は、ライトフェンスに背をあずけた外野手のグローブの中に音もなく吸い込まれていった。

ゲーム・セットォ!!

春の大会決勝は、ここで終わった。


「おわ、スネアのヘッド、それ、血か?」
「は?」
隣りにいた陶津先輩の声で我に返った。
「ヘッド、っておまえ、手もスゲーぞ」
「え?」
手?
スティックを持った両手を見る。
げ、指の皮が剥け過ぎて手指スティックが血だらけ。しかも大事な楽器も汚れてる。だけど見た目ほど痛みはない。感じなくなってるのかな。
「あらら、ズル剥けっすねぇ」
実感のない傷を見ながらいった。
「仮性のくせになにいってんだ」
「なんで知ってんですか!?」
おいおい、この部活はプライバシーが無いらしい。
「包帯とかカットバンとか持ってねーの?」
「いや、無いっすねぇ」
とそこに一段下のスタンド席に座っていた瓜生が割り込んできた。
「カットバンすか?」
「お、瓜生、持ってんの? ニシキが仮性なのにズル剥けだっていい張ってさぁ」
カットバン、何に使うんだよ!
「いや、ニシキは仮性じゃなくて真性ですよ」
「だよなぁ」
情報は正しく共有しろ。
「つうことで、ニシキ、片付けはいいから、傷洗ってこい」
「はい」
陶津先輩、優しい!!
そんなやりとりの間に、傷がジンジンと痛んできた。試合が負けてしまった現実も、戻ってきた。佐伯に会いたかった。


球場の階段を下りて、駐車場にある水道へ向かう。同じ一年で中学から友達の瓜生も付いてきた。
「楽器の片付けはいいの?」
俺はぼんやりといった。
「ペットはそんな手間かかんねーの」
だからラッパやってんだよ、と瓜生。瓜生はトランペットをやっている。
「しかしさ、ちょっと手ぇ見してみ?」
「ん」
「うわ、バカだねぇ」
「バカじゃねぇよ」
「どうせ佐伯のため、とか頑張っちゃったんだろ?」
う、さすが中学からの付き合い。っていうかもっとオブラートに包め。
「別にそういうんじゃないよ」
「何故そこでツン?」
「うるさいなぁ」
「ま、おまえの勝手だけどさ、俺が佐伯だったとして、ニシキが応援でそんな手になってきたら、ちょっと引くぜ?」
「え、ウソ?」
「俺だったらの話。けど佐伯もバカだからなぁ、イイんじゃね?」
「結局どっちだよ」
「つかさ、おまえのそれって、自己満だろ? 血ぃ出るほど応援しなくたってイイじゃん。野球してるのは佐伯や野球部の人達であっておまえじゃない。血が出たって出なくたって変わんねーよ。それとも一緒になって苦しもうってか? やっぱドMだな」
長々と語って結論はドM!?
「そんなこといったらさ、何も出来ねーじゃん」
「フツーに応援してたらイイんだよ」
瓜生は普通に、なんてクールにいうけど、俺は知っている。誰にも負けないくらい唇腫らすくらい、トランペット吹いていたことを。その唇が証拠だよ。
「フツーなんて無理だよ。俺のこの燃え上がる闘志の炎は誰にも消せないんだ」
「だからおまえは戦ってないでしょ」
「戦ってたさ、自分と!! 俺のライバルは己自身とみた!!」
「はいはい、訳わかんなくなってきた」
「なんだと!!」
「デカイ声出せばイイってもんじゃねぇよ。ほら、水道あったから、手ぇ洗っちまえ」
何も言い返せない俺は黙って蛇口を捻って指の傷を洗った。
水道水が傷に滲みる。今頃佐伯、悔しがってるかなぁ。だけど一番悔しいのは、佐伯とその気持ちを共有できないことだった。
結局瓜生は正しい。戦っているのは佐伯であって、俺じゃない。俺と佐伯。人と人。100%分かり合いたい、そこまでは思わない。ただ、ただ・・・。
「いつまで洗ってんだよ」
瓜生が突っ込んできた。
「ああ」
俺は蛇口を閉めた。
「そら、タオルで手ぇ拭け。それと、カットバン」
「どうも」
「なに深刻な顔してんだよ。夏の大会じゃないんだから、甲子園行けなくなった訳でもねぇんだっつうの」
瓜生は更に続けた。
「イライラすんだよ。お前のフィールドは別にあんだろ? おまえはおまえの場所で戦え。それで対等だろ?」
あ、なんだろう、この感じ。その言葉。
ぴったりではないけど、心の隙間を、足りない部分を埋めてくれるような気がした。
「野球に嫉妬じてんじゃねぇよ、バカが」
恥ずかしいことを言い当てられた!! しかもバカ呼ばわり!!
冷たく言い捨てる瓜生。だけどその眼差しは温かい。
「うん、そうだな」
俺はカットバンを貼った指を強く握り締める。
「だけど、俺は自己満は止めねーぜ。むしろバカみたいにヤリまくるぜ!!」
どう、決まった!?
「自己満って、オナニーだろ?」
「・・・」
違う!! 断然違う!! 佐伯でオナニーなんてしたことない!!





私立日高見学園 プロローグ (0)

俺は棚機錦(タナバタニシキ)。
別にいきなり語り出したからといって、このお話の主人公ではない。
俺は俺の主人公であり、他の話の主人公ではありえない。
言い方を変えると、みんなそれぞれが、それぞれの人生の主人公なのだ。なんだか正論でかっこよくて耳に心地よく聞こえるけど、ふたをあけてみれば、それは無慈悲で過酷で誰にも責任は押し付けられないってことだと思う。

常に自分を奮い立たせ、友情・努力・勝利をこの手にしなくてはならない。っていうのは大袈裟、冗談だけど、前半はは合っているはずだ。
そう、俺たちはそれぞれがそれぞれの主人公だ。もし今、自分がかっこ悪いと感じたら、かっこよくあるために、たゆまぬ努力を積み重ねていかなきゃならないんだ。
汗かいて、血ぃ流して、恥かいて、何かを捨てたり、何かを犠牲にしたり、傷付いて、傷付けて、這いつくばって、諦めて、憎んで、嫉妬して、蔑んで、挫折して、絶望して、叫んで、泣いて立ち上がって、ひたすら求めて、恋い焦がれて、それでもかっこよくて。
どんなに駄目でも、惨めでも、かっこ悪くても、自分が自分の人生の中心であれと、一瞬一瞬を、毎瞬毎瞬を、選択する。
自分で選ぶ。自分の責任で。誰の所為にもしない。誰の所為にも出来ない。後悔してもいい。それもいい。迷ってもいい。立ち止まってもいい。座り込んでもいい。
それが自分の選んだ道だったら。
随分えらそうなこといったけど、俺は学園生活で学んだんだ。
否応無しに、言い訳無しに。

それぞれのかっこよさは違うと思う。それぞれの主人公のあり方は違うともう。人の数だけ主人公がいて、人の数だけ物語がある。
そして、それぞれに共通する大切な舞台の一つが、私立日高見学園なんだ。

イッツ ショータイム!!

私立日高見学園は、それ程大きくもないけどそれ程小さくもない、いち地方都市の一郭にある。最寄の駅からは自転車で二十分。バスでも二十分。日高見丘陵地帯の東端に位置して、校舎はかなり高台にあり、裏には丘というより山が控えている。生徒の間じゃ、裏山で通ってる。
中高一貫だけど、中学校舎はまた離れたところにあるらしい。俺は高校からの編入組みなんであまり詳しくない。理由はわからないけど、高校から入ってくる奴らは結構多くて、全体の半分以上らしい。ま、エスカレーター式じゃないからかもしれない。いまどき珍しい男子校だからかもしれない。
だけどこのご時世、男子校は人気なんだけどね。いろんな法律の改正があってさ。
校風は文武両道、自由と博愛。これは普通って感じ。ガチガチの進学校でもないけど、偏差値はまぁまぁ高目。クラブ活動はかなり活発。
ま、こんな感じ。

そして俺の、俺たちの物語は、GW(ゴールデン ウィーク)から始まる。

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プロフィール

HN:
藤巻舎人
性別:
男性
趣味:
読書 ドラム 映画
自己紹介:
藤巻舎人(フジマキ トネリ)です。
ゲイです。
なので、小説の内容もおのずとそれ系の方向へ。
肌に合わない方はご遠慮下さい。一応18禁だす。

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