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藤巻舎人 脳内ワールド

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私立日高見学園(13) 瓜生襷

冷たい霧雨が敷き詰められた鉛色の空の下、田畑が続く田舎道を走る。
頭を覆うパーカーのフードが雨を吸って重い。
梅雨冷ってやつなのか、最近やけに涼しい。
むしろ寒いといってもいい。
来週からは7月だというのに。
今月からは朝走る距離を6㎞にしている。
途中での体術エクササイズも入念に、より本格的にやるようにした。
理由は明白。
先月のテロリスト立て籠もり事件。
それと前後しての龍樹先生の出現、御祖家周辺の不穏な動き。
いや、もっと前の、スペースシャトル墜落事故も含まれる。

この場所に、再び動乱の気配が漂っている。

ざわつく心と体。
テロリスト事件の際、一時的にスポットをビーストもとい阿弖流為に明け渡して以来、どこか変だ。
精神不安定でも体調不良でもない。
むしろそれらは良い、あるいは研ぎ澄まされていっている感じすらある。
ビースト化の副作用なのか?
しかしこんな事は今までなかったんだが・・・。

最近あれこれと考える事が多過ぎる。
早朝のロードワークも半分くらい上の空で終わってしまった。
もっと集中しないとな。
気が付けば自分のマンションの前だ。
湿ったフードを上げ、濡れた顔をパーカーの袖で拭う。
階段を使って、住んでいる部屋のフロアまでのぼる。
体を酷使する。
オレの体、肉体。
魂の容器。
これくらい使わないと、肉体感覚が希薄になっていきそうで怖い。
オレの中には余りにも多くのものがあり過ぎる。

息を弾ませながら、鍵を取り出して玄関のドアを開ける。
「お帰りなさい、タスキさん☆ シャワー浴びます? 朝食にします? それとも~」
ドアを開けた途端、面足千万喜が勢い勇んでまくし立ててきた。
「おい、コラ!! おまえ朝食は誰が作ってると思ってんだ!!」
廊下の奥から顔だけ出して、九条魚名が怒鳴る。
「ちょっと~、勝手に居着いた居候は黙っててくれます~?」
千万喜が振り向きもせず言い返す。
「おまえこそ無理矢理押しかけてきたんだろ!?」
「無理矢理とか意味わかんないんですけど~」
「わかった、おまえはバカなんだな、そうなんだな!」
「ささ、タスキさん、陰気な使用人は放っておいて、早くお上がりになって着替えましょう☆」
「し、し、使用人、だ、だとー!?」
九条の怒りを無視してオレの手を牽く千万喜。

ああ、うるさい。
オレの静謐で清澄な独り暮らしはどこへいった?
どうしてこうなった?
いや、まぁ、オレが悪いんだけどな。
オレ自身が招いたことなんだけどな。
ん?
いや、待て?
九条はともかく、千万喜は勝手に押しかけてきたんじゃなかったか?
「ん? どうしました? タスキさん☆ 何かおかしな事でもおもいつきましたか?」
純真すぎて眩しいくらいの笑顔で問質してくる千万喜。
まるで仔犬だ。
どうかしましたか?ご主人様、変な顔して。そんな事より僕と遊んで下さいよ、的な。
「ハイ、タスキさん。着替えとバスタオル、置いときました。6月とはいえ雨だと寒かったでしょ? 熱いジャワー浴びて、体あっためて下さいね。じゃないと風邪ひきますよ☆」
追い打ちをかけるように有無を言わせぬ笑顔を見せ、千万喜は脱衣所のドアを閉めた。
ドアの向こうで千万喜と九条との更なる口喧嘩の応酬が聞こえてくる。
日常となりつつある、いやむしろ既に日常として繰り返されている風景。
オレは軽く溜息をついて服を脱ぎ、浴室に入った。
確かに、シャワーでも浴びないと体が冷えていた。
千万喜のやつ、気の利き方がハンパないぜ。
つーか、怖い。
そしてシャワーの後には、九条の淹れた手挽きのコーヒーが待っている。
これがまた怖いくらいに美味いのだ。
それもまた日常になりつつあるのだ。
怖いくらいの日常。
日常であることの怖さ。
日常だからこその怖さ。
日常になってしまった怖さ。

九条魚名。
私立日高見学園高等部2年生。
日本人らしいが、生まれも育ちもアメリカ合衆国。
そして元米国の諜報員だ。
高校2年生にして諜報員だなんて非現実的に思えるかもしれないが、
れっきとした事実だし、それが現実というものだ。
ありそうもない事でも、案外軽くありえるものだし、ありえるようになってしまうものだ。
いきさつは知らないが、幼少時から国の施設で育てられ、
諜報員としてのあらゆる訓練を受けた。
対日高見用として。
計画通り、九条は日本の日高見の地に送られ、この土地の小学校に転入してきた。
それから今まで、この日高見の土地で情報収集に明け暮れてきた。
日高見の隠された事実と御祖家の動向を。
小中高生の日常に隠れながら。
自分の本性を隠しながら。
友達も先生も、学校も地域社会も、すべての生活を、偽って、偽って、偽って、騙して、騙して、騙して。
慣れても、親しくしても、それは偽りでしかなかった。
結局最後には裏切るのだ。
だから隠してきた。偽ってきた。騙してきた。
それが九条魚名の先月までの人生だった。
先月九条は、原因不明の日高見の結界喪失にともなう米軍の強引な実力行使・占領作戦における陽動として、お膝元である日高見学園高等部へのテロリスト侵入の手引をしたのだ。
その途中で、九条はオレに接近し、どさくさに紛れてオレを拉致し、拷問した。
何故なら、このオレも米国から送り込まれたスパイであり、そして裏切り、逃亡していたからだ。
ま、逃亡というのは語弊がある。
別にどこにも逃げなかったし、そのままこの土地に居着いていた訳だから。
それに、九条は米国直属だったのに対し、オレは米国に雇われた、フリーの工作員だったってことだ。
フリーの工作員なんて聞こえはいいが、実態は仕事が終われば潜入先の関係を躊躇なく断ち切り、依頼を受ければほいほいクライアントを変える、常に裏切り者の人生だ。
だから、オレは九条の心情が分かる。
痛いほどに。
分かり過ぎるほどに。
だから米軍による日高見侵攻作戦が完全に失敗に終わり、国に雇われた暗殺者に廃棄処分にされそうになったのを助け、この土地で行き場を失った九条に、オレのマンションに来るように誘ったんだ。
少なくとも新しく住む場所が決まり、生活の目途が立つまでくらいには、ここに住めと。
同情?
ないとは言えない。
むしろ責任だ。
あいつは、平然と裏切り、平気で学生生活を送っているオレが羨ましかったんだ。
救ってやるとか、そんなおこがましいことじゃない。
ただ、分かり過ぎるから。
三千年も裏切り続けてきたオレだからこそ・・・。

「タスキさん!! いつまでシャワー浴びてるんですか? 早くしないと学校に遅れますよ☆」
シャワーを浴びながらぼんやりと考え事をしていたら、アコーディオン式の浴室のドアを開けて、千万喜が急かしてきた。
「うお!! なに普通にドア開けてんだよ、まだシャワー浴びてるっつーの!!」
「別にイイじゃないですかぁ、男同士なんですし☆」
「おい、おまえ悪そうな顔で笑うな。ほぼ敵キャラだぞ。ていうか男同士だったらなんでもアリみたいに言うな」
「え? アリじゃないんですか?」
「ボーダレスは国境だけにしてくれ」
オレはそう言って風呂場のドアを閉めた。
そしてもう一人の同居人、面足千万喜。
こいつは、うん、成り行きだな、成り行き。
そうとしか説明出来ない。
不可能だ。








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HN:
藤巻舎人
性別:
男性
趣味:
読書 ドラム 映画
自己紹介:
藤巻舎人(フジマキ トネリ)です。
ゲイです。
なので、小説の内容もおのずとそれ系の方向へ。
肌に合わない方はご遠慮下さい。一応18禁だす。

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