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藤巻舎人 脳内ワールド

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カテゴリー「私立日高見学園 第2章」の記事一覧

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私立日高見学園(30) 瓜生襷

もう、日が落ちようとしていた。
赤みがかかった夕日が、山々の峯が作る影と強烈なコントラストを成している。
人間の背丈ほどの草が生い茂る草原。
山に囲まれたすり鉢状の土地。
まるでカルデラの底のような場所。

ここに、『中御座』(ナカミクラ)がある。

それは直径300mほどの巨大な穴。
あるいは霧深い湿地。
時にはありえなほど高い巨木が生えている。
大抵は何も無く草原が続き、
稀に神隠しの如く人やその他諸々が迷い込み、戻ってこられない場所。
そしてナニモノかが迷い出でてくる場所。
いや、もはや、

異界。

はっきり言って人智を超えている。
衛星写真・映像にさえ影響を及ぼす。
この事象の地平、あるいは特異点が、超大国のアメリカさえ動かし、直接武力行使で強行接収に踏み切らせた。

ここが本当のところ何なのか。
ここでいったい何が得られるのか。
それさえ定かではないというのに。

ま、かくいうオレも、それを確かめる為に派遣されてきた訳だけどな。
この場所が何なのかということを、一番良く知っているのは、スメラギか、それ同等のレベルの奴等だけなんだろうな、きっと。

そして今、この場所を守る、いや、この場所から守る為に存在する者達が、集い始めていた。
「おうおうおう、随分集まってきやがったぜ」オレは少し離れた斜面の高みから双眼鏡で覗きながら呟く「あ~、左近の奇杵唱に右近の沫蕩賀陽が珍しく揃ってるし~。奇杵靭もいる・・・・って、激レアキャラの栗隈王まで!? スゲー!!」
興奮してるオレの脇で、龍樹先生が呆れたように言う。
「え・・・、君、御祖マニア? コワイよ」
「しゃーねーだろ? 昔の仕事だったんだから」
「ふーん、ま、なんならもっと近くに行ってみないか? せっかくのショーなんだし。やはり良い席でみたいじゃないか」
「・・・・・」
こいつって、ホントそういう立場なのな。
ま、面白れーけど。
「アンタがそう言うんなら、別にイイけど」
「まったくぅ、もっと素直になりなよ」
「やかましいぃ」
「ほらほら、先に行っちゃうよ♪」
やっぱ千万喜の方がまだイイかもな・・・。


オレ達は斜面を下りて、草地を歩き出す。
にしても、オレ、一応以前は御祖家をスパイしてた訳だし、
それなりに暴れまわっちまった訳だし、
う~ん、大丈夫か?
「そんな事、気にしない気にしない。案外大丈夫なものだよ?」
おまえが言ううな。
ていうか、龍樹先生はオッケイなのか?
結構閉鎖的だぜ? あの家。

「あ、瓜生君・・・と・・・」
身長を上回って生い茂る草の分け目から、いきなり奇杵語が表れた。
「またおまかよ!!」
とその後ろから奇杵襲が出てきて叫んだ。
「よ、よう、奇遇じゃん!!」
かなり焦って対応するオレ。
だってここは大袈裟に言えば敵地ど真ん中だぜ?
今は敵対していないとはいえ、歓迎はされないだろ。
「ハロー、宜しくぅ。新任教師、龍樹デース♪」
「あ・・・はい・・・」
あからさまに困った顔をする語。
ちょっとは隠せ。
「おまえら、どうしてここへ? 迎えにでも来てくれたのか?」
とりあえず友好的に。
「まーさか!!」
と騒ぎ出そうとする兄・襲を制して弟・語が答える。
「招かざる客が来ている、ってことでね、父上から遣わされたんだけど、君と・・・先生だったとは・・・」
ま、困惑するのも当然だよな。
追い返されても仕方がない。
ここは御祖家にとって最大の聖地であり禁足地なんだから。

「なにやら人が集まってますネー。お祭りでもあるのかな? 楽しソウ!!」
おそらく演技なんだろうけど、天然かもしれない龍樹先生が能天気に言う。
「いや、あの、先生? ここはですねぇ・・・」
語が対応する。
「あれ? 君は襲君だよね? その腰に佩いているのはニホントウ? 凄い!! 見せて下さーい!!」
と龍樹が近づこうとした。
襲は咄嗟に太刀の柄に手を伸ばす。
うわ、バカ襲、早まるな!!
それを感じた語も動こうとしたが間に合わない。

「よーぉ、瓜生!! それに先生ぃ、だっけ?」
一触即発の瞬間、絶妙な間一髪のタイミングで草の間から現れたのは、万木非時だった。
「と、トキジクさん!!」
万木の出現に気付いた襲が、その動きを止め、声を上げた。
「おう、何してんだ? 唱さんが早く来いって言ってるぞ?」
「あ、でも」
「二人を案内してやってくれ」
「でも、この場所は他とは格が違い過ぎます」
なおも食い下がる襲に、諭すように非時は言う。
「イイんだ。それに、止めても来ると思うぞ、彼等は」
万木はチラリとオレ達の方を見て、微かに笑った。
「はぁ、わかりました・・・」
へぇ、襲の奴、万木に対しては素直なんだぁ。変な奴。

「つーことで、あんた達、他でもない非時さんの御好意により・・・」
そこで、その場に居た五人の動きが止まった。
な、なんだ!?この気配は。
こんなの有り得ない。
皆が中御座の方向に意識を向ける。
何かが迫っている。
何かが出現しようとしている。
それはとてつもなく圧倒的で、
余りにも自分がちっぽけな存在だと認識させられる程の強大さ。
こんな力、この世に存在してイイのか?

動きを止めていた万木が少し焦ったような表情で、龍樹先生の方を見る。
オレも隣の先生に視線を向ける。
「え? は? いや、私じゃないですよ? 私は何もしてないし何も知りませんって♪」
「・・・・、じゃあ、これは・・・」
困惑する万木。
「これは、君達の方が知ってるんじゃないかい? あ、本当に知っているのかどうかは分からないけれど・・・」
なんだか含みのある言い方で先生は呟いた。
その言葉ではっと何かに気付いたような万木は「まさか」と言った瞬間、姿を消していた。
そしてそれに続いて襲の姿も消えた。
いや、それは消えたとうより、視認出来ない程の速さで動いた、という表現が正しいのかもしれない。
「ぼくたちも行こう」
ようやく我に返った語が、着いてこい、という仕草をした後、草の海を掻き分けて走り出した。
龍樹先生は「やれやれ」と肩をすくめた。
オレ達もすぐに追いかけた。

ふと草の背が低くなり、開けた場所にでた。
先程双眼鏡で見ていたテントがある。
そしてその先に・・・・、巨大な穴が大地に口を開けていた。
今の中御座は穴か。
テントの辺りに御祖家の面々が揃っている。
ざっと十人くらいか?
万木と襲は既に合流していた。

「さ~て、何がでるかな、何がでるかな♪」
龍樹先生が楽しげに歌う。
「あんた、もう知ってんだろ?」
この高まりつつある恐ろしく強烈なプレッシャーの正体を。
「それは見てからのお楽しみだよ♪」
「あっそ」
その時、前方の小規模な人だかりから呻き声のようなものが上がった。
注意を向けると、縦穴の表面に、青白い閃光が走り、放電のような鈍い音が響き渡る。
高まり続ける突風のような圧力。
物理的にではなく、意識を集中して肉体にしがみ付いていないと魂ごと吹き飛ばされそうになる。
多分、意志が弱い奴だったら、持っていかれちまうだろうな。
つーか、何? これ。
試されてるみたいでムカつくなぁ。

青い火花が危険なくらいに穴の中央付近に集中し始める。
それと同時に、大音響で、(っても多分聴覚にではなく、意識に届いている一種のテレパシー的なもんだろうな)声が聞こえてきた。

「フッハッハッハッハー!! 大正解だぜ、瓜生!! 久し振りではないか!!」
やかましいな、おい。そしてウザイ。
「揃いも揃ってるじゃないか、雛壇ガヤ芸人ども!! 今は正月か!?」
そして爆発的な閃光を発した後、光が集中していた位置に、人の姿が現れていた。
「テメーうるせーんだよ!! カグヤ!!」
皆の一番先頭に立っていた万木が叫んだ。
「なんだどコラ、今回一番楽して奴がほざくな」
「えっ!? おま、オレのどこが楽してたんだよ!!!」
「ヒメの力借りて、ただ走り回って刀振り回してただけだろ?」
「かっ、このっ、うぎゃぁぁぁぁ!!!!!」
もはや怒り過ぎて言葉になってねーし。
暴れそうな万木を抑えなだめる襲。

「なんなんだ? コレは」
拍子抜けしたオレはそう言葉を漏らした。
「ま、いつも通りなんじゃない?」龍樹先生が呟く「いや、今まで以上、なのかな?」
「・・・・・・」
そう、それだ。
さっきまで感じていた大地をも揺るがす力の源は、おそらく御祖香久夜のものだろう。
だとしたら、それは、とんでもない事なんだ。
あんな力、人間一人が持ち得るものなんかじゃない。
あれは、もはや・・・。

「これはこれは『混沌の君』、あ、今は龍樹先生でしたか、あなたまでこんな所に、わざわざの御足労痛み入りますね」
空中を漂い、穴の縁まで移動しながら御祖香久夜は言った。
「いやいや、気遣いは無用です、銀髪の君。それにしても、まさかみずから封印となってこの場所を鎮めるとは、恐れ入りますよ」
「何を仰る、どこかの天邪鬼が結界を悪戯に弄んだのでしょう、構う事は無い」
「ふふふ」
「ハハハ」
「ハッハッハッ!!」
「アーハッハッ!!」
競い合うように笑う御祖香久夜と龍樹先生。
何この2人。
コワイ。
ていうかバカ?

「今回は皆の者、大儀であった!!」御祖香久夜が大声を轟かす「それぞれが己の責務を全うし、最善を尽くしたとオレは思う。つまるところ、結局は自分なのだ。己と世界なのだ。その相互の係わり合いが未来を形作っていく。誰の所為でもない、誰の所為にも出来ない。自分でしか解決出来ない。自分を救うのは自分なのだよ。
ま、そんな事は重々承知だとは思うがな!! 瓜生、非時!!」

「なんでオレなんだよ!!」(×2)

「ということで、今夜は大宴会を催す所存である!! 騒ぐぞ!!」







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私立日高見学園(29) 棚機錦

警察やその他のよく分からない人達からの事情聴取やらなんやかんやで、結局解放されたのは随分と日が傾いてからだった。
「たく~、スゲー疲れたぁ~、あと腹減ったぁ~」
俺は主税と春日と校舎の廊下を並んで歩きながら言った。
当然、三人並んで俺が真ん中ね。


「あ!! 瓜生がいねー!?」
突然、主税が叫んだ。
「瓜生君は現場に居なかったから、何も訊かれなかったみたいだよ?」
春日が呟く。
「あいつばっくれてたからなぁ。ズリィーぜ」
「先に帰ったのかなー? カスガ、なんか聞いてる?」
俺は春日に振った。
「うーん、聞いてない」
「なんだよー、瓜生いねーのかよー」
主税が大きなため息をついた。
「なんで? なんか用だった?」
「ん? いやさー・・・・」
そう言って口ごもる主税。

「カスガも居るし、一応言っとくか」
「なんだよ、チカラ、もったいぶって」
「うーん、あのな、今度の日曜さ、裏山の神社でお祭りあんだろ?」
「あー!!五月祭り!! それ日曜だっけ!? そーいや最近行ってなかったよなー」
「そう、だからさ、久し振りに行ってみねーかって」
「え? 用ってそれ? 別に改まって言う事じゃねーじゃん」
「う、あ、あぁ・・・」
あれ? なんか主税、顔しかめてる。
「ニシキ君、それはちょっと・・・」
春日が肘で突いて、小声で囁いてきた。
「あ? 何だよ、俺、なんか変な事言ったか?」
俺も小声で返す。

「え? お祭り?」急に春日が言い出した。「そんなのあるの? 佐伯君!?」
「あ、ああ、裏山にある神社でな」
「へー。ニシキ君も行った事あるの?」
「?? うん、昔は良くチカラと二人で行ったよな。中学に入ってからはなんでか行ってなかったけど、懐かしーなー。なんかスゲー行きたい、久々に!!」
「だろ? だからオレは・・・」
「よし!! 日曜はみんなで行こうゼ!! チカラぁ、俺楽しみ!!」
「うわ、ニシキくっつくな、抱き付くな!! カスガ、こいつなんとかしてくれ!!」

俺はどさくさ紛れて主税に抱き付いた。
なんだろな。
最近、主税のこと遠くに感じてて、久し振りに触れた気がする。
ずっと、いつでも手の届くところに居ると思っていた。
人との距離って、物理的なものの他に、精神的なものもあるんだな。
近くに居ても遠い。
そういうものもある。
だから気付きにくい。
ぼんやりしてたら、いつの間にか遠くに、手の届かないところに行ってしまっていた、なんて事もあり得るんだ。
しっかりしなきゃな。
掴んだ手を、緩めないように。
握った手を、離さないように。 

心が離れてしまったら、どんなに近くに居たって、触れられない。






私立日高見学園(28) 万木非時

「距離、500メートルを切ったぞ」
菊桐姫の声が意識に届いた。

「オーケーィ」
オレは独り呟く。

一瞬が勝負だ。
今、兵士達の意識、心、思いの先端には揃って戦闘心がきている。
それが揺らぐまえに、そこを『八重』で断つ。

「独りでイイのか?」
「・・・、それって、『独りでも大丈夫か?』ってことか?」
「そんな訳ないだろ。あんたならこんな雑事、小指でホイだろ? そうじゃなくて、独りで済ませて大丈夫なのか? ってこと」
「なんだよ今更。『スメラギに一番近い存在はおまえだ』的なこと言ってたくせに」
「それはそれ。スメラギが良くても、いろいろ言いがかりを付けてくる連中は居るだろ?」
「無視無視。だいたいオレは、今回の件に関して、唱さんから全権を委任されてんだ。それ以前に、オレは御祖家とは基本関係無いしな」
「ふん、余計な詮索だったな。いつものクセだ。許せ」

御祖家の因習慣習にがんじがらめに縛られている姫にとっちゃ、無理も無いか。
特に、強過ぎる力を持った姫には、思うところもあるんだろう。
大き過ぎる力。
身に余る力。
制御しようとする慢心。
制御出来るという過信。
それは恐れからくるのか、驕りなのか。

「それに、今は独りじゃないぜ。姫だって居てくれてるだろ?」
「・・・、では後で『北山庵』のクリーム栗ぜんざいを奢れ」
「ええ!!?? どうしてそうなる??」

「一応教えておく。敵さんの装備は、M4A1カービン、拳銃としてMK23、手榴弾にスタングレネード、狙撃手は・・・」
おいおいおい、随分上等な装備してんじゃねーか、ってなんでそんなに詳しいの?
じゃなくて、
「いーよ、いーよ、そんな説明は、いらねーって」
「知ってる。これは私の趣味だ」
え? 姫はミリオタだったの?
「いや、サバオタだ」
「あ、そこ別けるんだ!?」
「冗談だよ」
「そーは聞こえねーよ」
「こんな情報は力があればすぐに分かる」
「ハイハイ、あんまり多用すっと、そっちこそ後でいろいろ言われるぜ」
「ふん、たまになんだから、良いだろ」

姫も、ストレスが鬱積するんだな。
当然か。
持つ者の苦悩、持たざる者には・・・。
まっ、イイや。今更どうでもイイんだよ。
「400メートル」
「ああ」
オレは鞘から『八重』抜く。
そろそろ視認されたかな?

「では、いってきます」

『八重』の効力を発揮するには、心臓を貫けばイイ。
肉体は傷付かない。
此れは心を切る刃。
闘争心、戦闘心が全面に出ている間に、それを断つ。

地面を蹴り、数歩で歩兵中隊と遭遇する。
全員の位置が見える。
150人、全員の心臓を一気に切りまくる。
その後引き返して北斜面で待機する狙撃隊の連中を切った。
『八重』で心を切られた兵士達は、闘争心・戦闘心で抑え込まれていた恐怖心の噴出に取り乱し、狼狽し、統率も規律もあったものじゃなく、蜘蛛の子を散らすみたいに方々へ逃走していった。

呆気無い?
いや、これが当然の結果だ。
それが、オレ、なんだから。
圧倒的なんだよ。
超越的なんだよ。
だってオレは人ではないのだから。
単純な戦闘だったら、オレに勝てる人間は皆無だ。
もしまともにやりあおうっていうなら、戦車隊でも連れてこい。
まぁ、先の大戦では勝ってるけどな、オレ。

さて、露払いはこれにて終了。
だいたい、オレはあんな奴等からこの場所を守っている訳じゃないんだ。
全ての防衛システムが無効化されている今、御祖家の連中はそれらの復興と不測の事態に備えに右往左往しているはずだ。
そしてなによりも重要なのはその防衛システムというのが、外からの何某かに対してではなく、むしろこのすり鉢状の谷にある『中御座』の封印・結界としての機能であることなんだ。

だからオレは、今さっきのアリの軍隊の為にではなく、『中御座』から出現するかもしれない存在への警戒と抑止力としてここに居る。

「お見事」
姫の声が聞こえてきた。
「別ぇーつにぃー・・・。で? 皆さんちゃんとおうちへお帰りになられたかな?」
「ふん、そうとう乱れてはいるが、その内正気に戻ってちゃんと撤退するだろう」
「やれやれ」
ようやく、静寂が戻った。
五月のあたたかな日射しが、辺りを柔らかく包んでいる。
「変化はないか?」
「うむ、静かなものだ。怖いくらいにな」
そして姫もまた、この『中御座』への警戒として力を振るっていた。
ここで問題なのは、最大最強の封印である、スメラギが不在ということだった。

「たく、いつまでこうしてればイイんだ?」
「身を案じてはいないのか?」
「ハッ!! アイツがどうにかなるタマかぁ? それに、もしどうにかなってたら、もう腹くくるしかねーだろ」
「そうだな」
「文明の崩壊くらいは覚悟しなきゃな」






私立日高見学園(27) 万木非時

日高見学園高等部の体育館での人質立て籠もり事件が収束へ向かう一時間程前。
裏山の中御座にて。


オレはテントの脇に陣取り、簡易チェアーに座って、固形燃料で沸かしたお湯でコーヒーを淹れた。
ここは裏山のすり鉢状の谷底。 
昨日の早朝、奇杵唱さんに呼び出された後、寮に寄って春日に一言かけてから直ぐにやってきて、張り込みの準備をした。
そしてこの場所で一夜を明かし、早朝から起きて散歩したり漫画読んだりぼんやりとしたりして、遅い朝食を食べ、さらに暇を潰して、今はちょっと落ち着いているところだった。

空は澄んで晴れ渡り、数羽のトンビが旋回している。
斜面を覆う新緑が深くて、見ていると吸い込まれそうだ。
風は暖かで、草と土の匂いを運び、草原を渡り行く。
鳥のさえずり、葉っぱの擦れる音、他になにも聞こえない。

すべては穏やかで、完全で、完璧で・・・。
ああ、なにもかも忘れたい。
なにもかも捨て去りたい。
剥ぎ取って、脱ぎ捨てて、葬り去って・・・。
そんなふうに出来たら、どんなにイイだろう。
オレをオレたらしめているあらゆるものを・・・・。

あ・・・・・。
会いたい。
春日に会いたい。
会って、息も出来ないくらいにギュッと抱きしめて、
そして春日もオレのことを強く抱きしめて欲しい。
強く、強く、融け合って一つになれるくらいに。
二度と離れない、
離れられないくらいに。

どれくらい、時間が経ったろう。
掌の中のマグカップはもうぬるくなっていた。

「来たか・・・・」

オレは簡易チェアーから立ち上がった。

「よう、いつまでだんまり決め込んでる気だ? そこで見てるんだろ?」
オレは特にそうする必要もないのに、突き抜ける蒼穹へ向かって声を掛けた。
ていうか声にすら出す必要もないんだが、ま、習慣というかクセだよな。

「おーい、聞こえてんだろう? ヒメ。菊桐姫!」

「・・・・、ふぅ、無粋奴だなぁ、相変わらず。トキジクは」
「いやいや、無骨と言ってくれよ、キクリヒメ」
「無様だな」
「失言にも程がある!!!」

菊桐姫。
水分家から代々輩出される、常軌を逸したテレパシー能力の持ち主。
いや、その力はもうテレパシーなんてものを超えている。
しかも現・キクリ姫は歴代の中でも特に強い力を持っていた。

「ま、でさ、事はついでだし、ちょこっと周囲の状況教えて欲しいんだわ、コレが」
「・・・・さて、どうしたものか・・・」
「おいおい、今更それはねーだろ」
「だいたい、私が手を貸さなくても、何ら問題はないのでは?」
「いやさ、こうして久々に姫と話せたんだし、それに、こういうのはパパっと終わらせたい訳。オレにはこんなことで時間を無駄にしたくないんだよ。分かるだろ?」
「なら条件を1つ」
「なんだよ、カスガはやらねーぞ」
「たわけが。これが済んだら、私をデートに連れ出すこと」
「オッケ!! お安い御用だ!! で? 状況は?」

「中御座の南方にアメリカ軍歩兵一個中隊150人が展開。前線までの距離、約800メートル。車両、航空機は半径5㎞圏内には無し。北面の斜面に狙撃兵が10人が待機。既に射程範囲内。こんなところか」
「・・・、今更なんだけど、オレみたいな御祖家外の人間にこうもオープンライクな感じでイイのかよ」
「それ知ってて言ってるのか? 御祖家とか違うとか関係無しに、最もスメラギに近い所に居るのはトキジク、あんただろ?」
「・・・・・・・・」
「何故そこで照れる?」
「はぁ?? いや、何言ってんだよ!? 何でオレが照れるの? 気持ちワリー。 意味分かんねーし!!」
「・・・・・・・・」
「ちょっ、いきなり黙んなよ!! おまえニヤケてんだろ!!? 顔見えないからって好き勝手してんじゃねーぞ!!??」
「はいはい、で? とっとと済ますんだろ?」
「おう、そうだよ」
たく、いい加減な事言いやがって。
オレはスメラギなんか大っっ嫌いだっつーの!!

「とりあえず、敵さんの位置を全部マーキングして送ってくれ」
「大丈夫なのか?」
「ああ、問題無い」
最大瞬間速度で音速を超えるオレの脳は、その速さでの行動を可能にする為ににも人間を遥かに上回る情報・演算処理能力を持たされている。
例えるならただのパソコンとスパコン程の差かな。
ま、正真正銘のバケモノって訳だ。

間髪入れず、菊桐姫から全方位立体映像が飛び込んできた。
今のオレの状況を簡単に説明するとすれば、
普通に両目で見ている映像と合わせて、衛星からのような上からや、その他あらゆる視点からの映像を同時に視ているって感じかな。
100個くらいある監視カメラの映像をすべて同時に視て、しかもそれら全部を合成して1つの物として視れるし、尚且つ個々にも理解出来る。

「トキジク、あまり自虐的になるな」
姫に対して、心を隠す事なんて無理だった。
彼女はあらゆる障害障壁をものともせず、すべてを見通す。
強力過ぎる力故、普段はその能力をいちじるしく制限されている。
人の能力、範疇を大きく超え、逸脱したモノ。
オレ達は少し似ている。
「余計な事をしているヒマは無いんだろ?」
「・・・・・、ああ、そうだった」

オレは傍らに置いた太刀『八重』を手に取る。
すべてを断ち切る『七重』に対して、
この『八重』はすべてを貫く刃。
この世のあらゆる物質を貫通する。
いや、すり抜ける。
この太刀は物質を絶ち、刺し貫くものにあらず。
物に非ざるモノを断ち、刺し貫くものなり。
故に『魂緒切り』とい謂う。
簡単に言えば、精神、意識、心を切る。

今のオレには兵士全員の姿と場所が見えている。
「さーて、一瞬で終わらせますか」











私立日高見学園(26) 児屋根春日

警察の特殊部隊、SATが体育館に突入してきたり、大勢の機動隊や警察官がなだれ込んできたりして、すべてが終息へと向かっていった。

その後、生徒の家族や避難した生徒や教職員なんかでごった返し、しまらく校舎校庭は騒然としていた。

終わった。
すべて終わったんだ。
長かった。
ホント長かった。
そして、良かった。
みんな無事で。

龍樹先生も含めて。
あの先生、デタラメもいい加減にして欲しい。
「ヘイ、YO!!仔羊ちゃんたちぃ、無事だったカイ☆」
とか言いながらやってきて、ウチ等のクラス全員仰天していた。
「ええええwwwwww!!!! 先生頭吹っ飛ばされて死んだんじゃないのぉぉ???」
って突っ込まれててたけど、
「ああ、あれね!! ハリウッドに居る友達に習った特殊メイクだYO!!」
とかのたまっていた。
なんなんですか、そのおかしなノリは。
だけど恐ろしいことにみんなそれを信じてしまっていた。

なんでだYO!!!

あ、失礼。
染つりました。
みんな信じ込み過ぎなんじゃないかな。
世の中ウソや出鱈目や大袈裟な情報って多いんだよ?
鵜呑みしちゃいけないんだよ。
信じちゃいけないんだよ。

「ヘイ!!ユー、ドウシチャッタンデスカ? シンミョーナカオシテ」
そう言いながら龍樹先生が後ろから僕の頭の上にポンと右手を置いた。
「・・・・、いきなり片言の日本語にならないで下さい」
「まぁまぁまぁ」龍樹先生は僕の頭をなでなでする「君も随分頑張ったじゃないか」
「・・・・・」
「なんだい? 照れてるのかい? カワイイねぇ」
「そ、そんなんじゃないです!!」だいたい、あの時佐伯君の所に出て行ったのは先生に無理矢理引っ張られて背中蹴られてだったし「・・・それに、先生がカワイイとか言うと、なんかいかがわしいです・・・」
「いかがわしい? うん、実に良い褒め言葉だ!!」
先生は誇らしげに言った。

僕なんて、何も出来なかった。
ただすべてを怖がっていただけだ。
世界を拒絶していた時となんら変わりが無い。

「それで充分だよ。千里の道も一歩からってね」
「・・・・、どうしてそんなに優しいんですか? 先生は、災厄をもたらしにやってきたんでしょ?」
「その通り、私は災厄を皆に等しくもたらす。ここに居る全員に、今回は災厄だったろ? そしてそれを乗り越えた者達に、私は拍手喝采を送ることを惜しまない。私は観客なんだよ」
先生は僕を見下ろし、褐色の肌に映える白い歯を見せて破顔した。
騙されちゃいけないんだ、鵜呑みにしちゃいけないんだ、この人は、この人は、この存在は・・・・、っていくら自分に言い聞かせても、心が緩んで、綻んで、融けて涙になってこぼれ落ちていくのを止めることが出来なかった。
「ほら、戦友達のお出迎えだよ」

「おーう!! カスガぁ!! そんなところに居たのかよ!!」
錦君が愛おしいくらいに明るい顔で、大きく手を振ってやってきた。
溶けていく。融けていく。解けていく。

ホットミルクにチョコレートが溶けていくみたいに。
温暖化でシベリアの永久凍土が融けていくみたいに。
からまったイヤホンのコードが解けていくみたいに。

「カスガ、サンキューな、ホントに」
錦君の隣りに居た佐伯君が僕をギュッと抱きしめてくれた。
「え、それは・・・」
「あの時、体張ってオレを庇ってくれたもんな」
「あ・・・・、うん・・・」
「ニシキなんて捕まってワーキャー騒いでただけだもんな?」
「あっ、チカラ、テメー!! 離れろ!!今すぐカスガから離れろ!!」
僕は錦君と佐伯君の間で揉みくちゃにされながら、そのポジションをすごく心地よく感じていた。

ああ、僕は今、ここに居るんだ。

ふと気が付くと、少し離れた所で、瓜生君と龍樹先生が並んで何か話していた。
先生と生徒、というより旧知の仲って雰囲気で。
あれ、二人は昔からの知り合いだったのかな?

ん?
昔から?

あ、万木君は・・・・。
万木君は、いったいどうしているんだろう?



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プロフィール

HN:
藤巻舎人
性別:
男性
趣味:
読書 ドラム 映画
自己紹介:
藤巻舎人(フジマキ トネリ)です。
ゲイです。
なので、小説の内容もおのずとそれ系の方向へ。
肌に合わない方はご遠慮下さい。一応18禁だす。

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