巡業の劇団員だというあの男達の一人が身に着けていたのは銃だろう。
おそらく本物だ。
屋上から見ただけじゃ分からない。
芝居で使う小道具かもしれない。
だけどあいつらの身のこなし、統率された動き、あれはただの劇団員の動きじゃない。軍人のそれだ。
だから確信を持って言える。
紛れも無く本物の銃だと。
だったら話は早い。
結論はすぐに導き出せるが、それはにわかには信じ難い。
まさかこんな大胆で大掛かりな作戦、やってイイものなのか?
ここは日本だぞ!?
しかし、妙だ。
何故みすみすあんな奴らを侵入させた?
本来ならここに近づくことさえ出来ないはずなのに。
・・・・・、御祖家に、御祖香久夜に何かあったのか?
どうやらオレのあずかり知らないところで、いろいろ起こっているらし。
まずは状況把握、情報収集。
「オレはちょっと体育館の様子を見てくる。おまえはどうする?」
「もちろん、お供しまっす☆」
面足千万喜は無表情のような笑顔を浮かべて言った。
う、来るんだ。断ると思ったんだけど。ま、イイか。
足手まといになるようだったら捨てていこう。
校舎の1階まで下りて、渡り廊下に出る。
車の周辺には誰も居ない。
もう荷物は運び終わったらしい。
さて、どうしたものか。
別に学校の生徒なんだから、敷地内を歩いていてもなんらおかしな事ではない訳で。むしろ堂々と歩いていってもいいんだが。
どうも習性的に物陰に隠れて様子を窺ってしまう。
はたから見たら様子がおかしい挙動不審者でしかないよなぁ。
かくれんぼ、なんて歳でもないし、だいたい今授業中だし。
って、あれ?
ふと気が付けば、さっきまで後ろに隠れていた面足千万喜がいない。
・・・・・、ま、いっか。
むしろいない方がイイし。
多分、このまま体育館に近づけば、100%見つかる。
体育館はまったく独立した建物だ。
全方位カバー出来る見張りはつけてるはずだ。気付かれずに近づく術はない。
学校の生徒だということで素知らぬ顔で行ってもダメだろう。
どうやってにしろ近づけば、中から交渉役が出てきて、関係者以外立ち入り禁止だとかなんとか言われて門残払いを喰らうのがオチだ。
なんて渡り廊下の校舎側の端で思案していたら、いきなり体育館の鉄製のドアが引き開けられて、中から一人出てきた。
制服を着ている。
ウチの生徒らしい。
どんどん渡り廊下を歩いてこちらに向かってくる。
ま、特に何する訳でもなく待ち受ける。
だって生徒なら、なんとでもやり過ごせる。
とりあえず、中の様子を訊こう。
と、思っていたら、向こうから話しかけてきた。
「こんにちは、えっと、ウリュウ君だよね?」
「・・・・、そうだけど、なに?」
「あ、僕は九条魚名(クジョウ ウオナ)。2年1組の」
背はオレより少し高いか? 真ん中分けの髪型、これといって特徴は無いが、どこか余裕ぶっているところが気に入らない。
それでも、確かに、どこかで見た顔だ。
「あのさ、そんな怖い顔するなよ。こっちは生徒会の仕事で劇団の人たちといろいろ話し合いをしてたんだ。そしたら君の友達だっていう面足千万喜君が、外で君が待ってるっていうから、こうして出てきたんだけど」
あ、あっの野郎ぉぉぉ~、なにしてくれちゃってんだよ、余計な事をををを~。
つうか、いつの間に体育館に入ったんだ? あいつ。
「中を見学したいんだって? お芝居に興味あるとか。団員さんに訊いたら、見学大歓迎だっていうからさ、良かったら、どう?」
なんだ? この展開。いきなりズレた。調子狂うなぁ。
「あ、まぁ、ちょっとだけ・・・」
「さあ、どうぞ。今が授業中だっていうのは特別に目を瞑るよ」
九条魚名はオレを体育館へと促した。
数歩進んだ後、面足千万喜はどうしたか気になって、後ろを振り返った。
「そういえば・・・」
その瞬間、九条魚名がオレの脇腹辺りに手を伸ばして、何かを押し付けてくるのが見えた。
「あっ」
と声を上げる間もなく、体中に衝撃が走り、いきなり目の前が真っ暗になった。
「待ってたよ、瓜生襷君」
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