劇が始まるのかと思っていたら、ステージにはマシンガンを携えた男達が表れて、よく分からないけどそいつらのもとに新しく来た世界史の先生が行ったら、拳銃で頭をぶち抜かれた。
とても人間がたてるものではないような音をたてて、体育館の床に崩れ落ちた。
オレ達は戦慄に襲われた。
ただの高校一年生のオレ達に、
いったいどうしろっていうんだ?
いったい何が出来るっていうんだ?
黙ってろと言われた。
騒ぐなと言われた。
大人しくいていろと言われた。
動くなと言われた。
抵抗するなと言われた。
オレ達は人質らしい。
何に対してのものかわからないけど。
何もしなければ、何もしない、と言われた。
さあ、オレ達は、どうしたらイイ?
落ち着いてくると、錦や瓜生の事が気になった。
こっからでは姿は見えない。
見えたとしても、どうすることも出来ない。
何もしなければ、何も起きない。
安全無事でいられる。それを気休めにする。
あいつ等の言う事を信じれば。
信じられれば、の話だけど。
テロリストだか何だか正体不明の武装集団は、ステージに居る5人だけではないらしかった。
最初に、見張りを適切な人数配置していると言っていたけど、それら以外にもいるらしい。
どこからともなく湧き出てきて、ステージに向かってパイプ椅子に座るオレ達の背後、体育館の後ろ半分で何かを始めやがった。
オレは最後部列に居るから、チラチラと後ろを盗み見た。
壁に黒い暗幕を垂れさせ、その手前にハンドカメラを設置している。
幕には何かのシンボルマークらしい模様が描いてある。
これは、良くテロリストがする、犯行声明を録画するものなのか?
「そろそろいいか?」
ステージ上で常に全体に目を光らせている5人の内の1人、坊主頭の男がマイクを通して言った。
カメラなどのセッティングをしていた奴等の1人が、「出来ました」と言った。
「よし、始めろ」
と坊主頭はステージの袖の方に向かって言った。
どうやら裏にも仲間が居るらしい。
すると、
『ドーン!!』
という爆発音のようなものが外から聞こえ、体育館全体が、窓ガラスが、天井の照明が、体の内臓まで、重く震えた。
全員が一瞬体をすくめ、爆発がここではないと悟ると、みんな騒然となり見えない校庭や校舎の方に顔を向けた。
「今度は何だよ・・・」
隣りに座る下照幟がボソリと呟いた。
「動くな!! 騒ぐな!! 座ってろ!! お前たちには問題無い!! これは校舎に居る用無しの生徒等を外に追い出す単なる仕掛けだ!! 何でもないから静かにしてろ!!」
銃口をこちらに向け、坊主頭は叫んだ。
非常ベルが鳴り響き、外から緊急放送の声が聞こえてきた。
その放送は、避難勧告する教職員のものではなく、すぐそこのステージ上に居る、坊主頭のものだった。
『全職員、生徒にお知らせする。今、無人の音楽室を爆破した。これは警告だ。速やかにこの校舎から出るように。猶予を10分やる。それ以上かかるなら、今度は死傷者出るのを厭わずに校舎を爆破する。既に至る所に爆弾は仕掛けてある。妙な考えはせずに、速やかに校舎から出ること。10分だ。それ以上は待たない。さあ、とっとと出て行くように。それと、我々は体育館を占拠している。くれぐれも体育館には近づかないように。もし近づく者があれば、容赦無くそれを排除する。生死は保証しない。以上だ』
なんてこった。校舎に残っている2、3年生は全員逃がすんだ。
警察とか来たらどうするんだ?
まるで隠そうとしていないじゃないか。
「おいおいどうすんだよ。おれ達いったいいつまでここに居ればイイんだ?」
幟がぼやいた。
「さあな」
「それじゃ済まねぇんだよ。今日の練習はどうなんだ? それに、野球部員に怪我人でも出たらどうすんだよ、クソ・・・」
幟は椅子に深く腰掛け、ポケットにいつも忍ばせている硬球を苛立たしげに握った。
ホントこいつの頭の中は野球の事しかないんだな。こんな時まで、まったく参るぜ。
いつの間にか、背後で、どうやら犯行声明の撮影らしきものが始まっていた。
固定したハンドカメラとは別に、スマホみたいな端末でも撮影している。そんままネットに流すのか?
しかし、こうやって眺めていると滑稽だ。
まるでコントだ。
目出し帽を被った二人の男が、カメラに向かって犯行声明を読み上げている。
「ちっ、下らねぇ・・・」
幟は舌打ちした。
犯行の動機目的は、だいたいこうだった。
『МIOYAグループのメイン企業たる御祖製薬は所有している特許をすべて放棄し、すみやかに薬品を貧困国に配布すること』
ほんとはもっと長くて厄介だったんだけど、聞き取れたのとオレの理解出来た範囲でこんな感じだった。
「お熱いねぇ」
幟が愚痴る。こいつはホント野球以外どうでもイイって感じだ。
しばらく何テイクも撮影した後、ステージ上の坊主男が、不意に口を挟んできた。
「それくらいでイイだろう。次はオレ達が本気だということを示すのに、人質も一緒に撮影しろ」
実際体育館内は静かだったけど、その言葉の後、更に静まり返ったようだった。
生徒全員が、息を呑む音が聞こえてたようだった。
「そうだな、さっきからそこでこそこそとお喋りしてる奴、そう、そこのメガネの後ろ、お前だよお前、ちょっと立て」
そしてみんなが椅子に座る中、立ち上がったのは、錦だった。
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