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藤巻舎人 脳内ワールド

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カテゴリー「私立日高見学園 第2章」の記事一覧

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私立日高見学園(21) 瓜生襷

「これからの計画は? タスキさん☆」
面足千万喜が訊いてきた。
九条魚名をのしてから、ちょっと現場に戻ってグロックとスタンガンとAKー47回収した。これで装備はハリウッド映画並み?
戻ったついでにまだ砂利の上に転がっていた九条に軽く蹴りを入れてうっぷんを晴らした。
「とりあえず、校舎の中の奴等を片付けるか。こっちが自由に動けるように」
とは言ったものの、ビーストの奴が無茶な使い方したおかげて相当ガタがきてる。この体でどこまで動けるか・・・。
それにしても、よくビーストから戻れたもんだ。
前回あいつに体を明け渡したときは、御祖家の連中を相手に半日戦い続けて相当数病院送りにした挙句、御祖香久夜が出張ってきて抑え込まれたんだよな。
それが今回は・・・。
オレの支配力が向上しているのか。
それとも、千万喜の奴が・・・、まいっか。

「支配力とか、そんな一方的で単純なモノじゃないと思いますよ?」
こいつなんでオレの心の呟きに乗っかってくるんだ?
「どういう事だよ」
「どんなに抑圧したって、その感情は、記憶は、思いは、消えません。無くなりません。むしろ抑えれば抑えるほど、隠すほど、無視するほど、養分を与えるみたいに肥え太り、増大肥大していくんです。そしてある時、コントロール出来ないくらいに爆発するんですよ。いや、コントロールなんて初めから出来ないんです。感情は、自分の中に居る1人格の1つ。それらを理解し、時に許し、時に悟し、時に愛していく。要するに上手く付き合っていかなきゃならないんですよ☆」
「おわ、おまえマトモな事言えるんだな? スッゲー感心した」
「見くびらないで下さい。キホン、タスキさんよりスゴイんですから☆」
あれ? なに? この一言で普段の態度や敬語がものすごく嫌味に思えてきた。
「ま、すべては人間関係と一緒ですよ☆」
なんかイイようにまとめられた。

運もあるんだろうけど、体育用具倉庫で倒した二人の兵士は死んでいなかった。
御祖家の変態どもと違って普通の人間なのに。
以前だったら、手加減なんて一切しなかった。
やっぱり、ビーストの奴は変わったんだと思う。
それは、オレも変わったってことなのかな。
ここに来て、ここで生活して。
錦や佐伯やその他諸々と出逢って。
これからも、変わっていくのかな。
変わっていけるのかな。

とりあえず、オレ達は校舎に侵入して、見張りの奴らを無力化しようとした。
校舎の中に入ると既にもぬけの殻だった。
そりゃそうか。
教室が爆破され、更に爆弾が仕掛けてあるなんて聞いたらな。
しかし日本も危なくなったもんだ。
と自動小銃やスタンガンで武装してるオレが言っても皮肉でしかない。
「どうも変だな。まったく気配がない」
「そうですか?」
千万喜が答える。
「ホントに兵士が居るのか?」
「あ、疑ってるんですか? この圧倒的に格上の僕を?」
こいつの立ち位置が分からない。

職員室の前の廊下を歩いている時、突然何かが転がる音がした。
進行方向を千万喜が警戒し、オレは後ろを向きながら歩いていた。
音は前方の角から聞こえてきた。
当然オレは前を向く。
そして同時に二人が前方を向いている状態になったとき、背後に忽然と気配が表出した。
「動くな」
声が発せられるのと同時に、体が背後を振り返っていた。
だから厳密には動くなと言われる前に動いていたからセーフだ。
「何故動いた?」
振り返った先には、拳銃(デザート・イーグル)を構えた男が立っていた。
どうやって?
あの一瞬で背後を取るなんて不可能だ。瞬間移動でもしない限り。
「バカなんだろ? こいつら。それか日本語わかんねーんじゃねーの?」
すると反対方向から声がした。
前を気にしながら後ろを探ると、そこにも男が出現していた。
廊下という空間で、前後を挟まれた。
そしてこいつ等は、学園の制服を着ていた。

「あの、お二方は双子なんですか?」
何を言い出すのかと思えばまずソコ突っ込むか? 千万喜。
確かに前後の二人、髪型こそ多少違えど、顔や体格なんかそっくりだ。しかも同じ制服ときてる。
「いや、これは影分身の術だ!!」
後から現れた方が言った。
「兄さん、バカがばれるから黙っててよ」
「テメー、バカとか言うな!! カタリ!!」
それを無視して、最初に現れた方が話を進める。
「君達は、ここで何してる?」
こいつら同じ一年生だ。こんな双子居た気がする。
しかし、九条の件もあるしなぁ。

「おまえらこそ、体育館を占拠してる奴等の仲間かよ?」
にしてもなんつーデタラメな装備してんだ。デザート・イーグル50AEなんて化物拳銃扱えんのかよ。
「あんなのと一緒にすんな!!」
「バカ兄さん、黙ってて」
「え!? あ、バカとか付けんな!! ばれんだろ!!」
もうばれてるよ。つーかいちいちうるさい奴だなぁ。
随分対照的な双子だ。
「ぼく達は違う。ただの一般生徒だ。で? 君達は?」
一般生徒な訳ねーだろ。オレ等の背後取って、銃とか構えちゃって。
「あー、なら、おまえら、御祖家関係だな? 随分ご登場が遅ぇーんじゃねーの? 学園の危機だっつーのに」
「答えろ、何者だ?」
御祖家の名前を出したら、急に二人の雰囲気が変わった。
「ぼく達こそ、か弱い一般生徒ですよ? ね、タスキさん☆」
「そうは見えないけど」
お互い様だろ!!
「実は旅の者です。復活したヴァンパイアを倒すの為に仲間を集めているんです。どうでしょう? 仲間になりませんか?☆」
「断る」
「もしかしてエジプトまで!?」
「兄さん乗らないで」
話が進まない。
「ま、とりええず、オレ等は御祖家と対立する気はねぇ。目的は体育館を占拠してる奴等の殲滅だ。時間も限られてる、ここはお互い信用しようぜ」
そう言って構えていた銃を下ろす。
「確かに、いろいろ含みはあるけど、そうした方がイイみたいだね」

誰も居ない職員室に入って、一応身を隠す。
あんな廊下で喋ってたら目立ってしようがない。
「オレは瓜生襷。一年だ」
「ぼくは面足千万喜、同じく一年生です☆」
「ふん、おれは奇杵襲(クシキネ カサネ)だ」
「ぼくは奇杵語(クシキネ カタリ)。見た通り、双子だよ」
『奇杵』かぁ。スメラギ御三家かよ。
「で? 君達はここで何してたんだい?」
「んー、まぁ、不審者が校舎をうろついてるって話だったからまずそいつ等を片付けて、その後体育館を攻めるって感じだったんだけど」
「あー、不審者って奴等はおれ達が片付けてやったよ。ありがたく思えよな」
「・・・・、なぁ、おまえの兄貴っていつもこんな感じなのか?」
オレは語にヒソヒソと耳打ちする。
「そうなんだよ、心中察してくれ」
「お悔やみ申し上げます」
「勝手に殺すな!!!」
案外面白いなぁ、この兄弟。

「それはそうと、体育館を急襲するのに、何か計画はあるのかい?」
語が真顔になって訊いてきた。
「いや、そもそも中の情報が無いからな、校舎を見張ってる奴をとっ捕まえて搾り取ろうって考えてたんだが、そっちはなんかあんのか?」
「ま、それなりにね」
ホントは企業秘密なんだけどね・・・、と語はぼやいた。
「御祖家の力をなめんな!!」
襲が息巻いて言う。
ま、手の内見せてもらいましょうか。
こいつらがどんな異能なのか。
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私立日高見学園(20) 佐伯主税

おおおお====いぃぃ!!!
錦ぃぃぃぃーーーーー!!!
おまえなにしちゃってんの?
なんでテロリスト(多分)と口論始めちゃってんの?
なんで大人しくしてないの?
かぁーーーー!!!
おまえは昔っからそうだよ。
そういう奴だよ。
キレどこが分かんねーっていうか、普段はヘラヘラきゃっきゃきゃっきゃしてるのに、突然沸点に達するんだよなー。
どうでもイイ事で。
いや、どうにもならない事で。余計な事で。ろくでもない事で。
ま、それが錦らしさなんだけど。
そんなどうしようもない事で感情を剥き出しにするところが、ニシキなんだけど。
それが錦なんだけど。
そうじゃなきゃ錦じゃないんだけど。
ていうかオレ、どんだけ錦のこと語ってんの?
錦についてだったら一晩中でも語っていられるよ♪
なんてキモキャラじゃないけど、
あいつの事なら幾らだって語れる。
それがオレ、佐伯主税だっ!!

「おい、あれ佐伯の知り合いか?」
隣りに座る下照幟が訊いてきた。
「ああ」
「なんかエライことになってるなぁ」
「うん、あいつ基本バカだから」
「だろうな」
見なくても分かる、なんてつまらなそうに呟く幟。
おまえホント野球と竹生先輩以外にはヒドイなぁ。
そんな事より錦のやつ、これをどう収めるつもりだ?
あそこまでやって、はいそうですかおしまい、なんて出来ねーだろ。

「こんなんじゃ埒が明かないな。クソ餓鬼、そんなに喋りたきゃ、カメラに向かって喋れ。全世界の皆さんにおまえの正当性を語ってみせろよ」
「へ、望むところだ。あんた達の思惑をわやくちゃにしてやんよ!!」
売り言葉に買い言葉、坊主頭の挑発に乗って、錦は席を離れ、後方のカメラ撮影している場所へ向かう。
その姿を、振り向いたり振り向かなかったりしながら、体育館に居る生徒全員が意識して追う。
オレはもちろん身を乗り出して後ろを向く。
「あいつ、アブねーんじゃねぇか?」幟はまったく動じず、姿勢を崩さないで呟く。「もしかして、殺されっかも、だぞ?」
「ああ、オレもそう思った」
「佐伯、どうすんの?」
「訊いてどうする?」
「まえ言ってた、あれがおまえの大事な奴なのか?」
「ああ」
「行くのか?」
「それ以外ねーだろ」
オレが席から立ち上がろうとすると、パッと腕を掴んできた。
「行かせないって言ったら?」
「・・・・・・」
「お前に怪我されちゃ困るんだよ。言ったろ? 甲子園はそんなに甘かねーんだって」
「ノボリの気持ちは分かる。それでも野球より大切なものって、あるだろ?」
「ねーよ」
うわ、即答かよ。こいつとことんバカだなぁ。

「あのな、よーく考えろよ? 試合中のグラウンドに時限爆弾が仕掛けられたとする。それを解除することは出来る。だけどそうするには一旦試合を止めなきゃならない。もし野球が一番大事だなんつって試合を続けていたら、チーム全員が怪我してもう二度と野球が出来なくなる。試合を一時中断して爆弾を取り除けば、また試合は再開出来るし、それ以後も野球をやっていける。さぁどうする? ノボリなら」
「え、ナニ? どういう事?」
「だからぁ」
「あーーー!! もうイイよ!! 行ってこいよ、勝手にしろ!!」
「ノボリ・・」
おまえホントに考えるの嫌いだな。
「ただし、もし怪我したら許さねぇぞ。そしたらテメェのケツ犯しちゃる」
そう言って幟は、今までオレの腕を掴んでいた手を離して中指を立てた。
「オッケ。楽しみにしてる」
「あ、おまえ、おれはマジで言ってんだかんな!?」
ハイハイ、分かってますよ。って、錦の方はどうなった?

「ここでイイんだろー?」錦は既に壁にかかった大きな垂れ幕の前で、カメラに面と向かっていた。「ちゃんと撮ってくれよ、カッコよくな!! だいたい、正義とか正論とか常識とかの庇護のもとで虎の威を借りてしか何も出来ない奴、何も言えない奴は大嫌いなんだよ!! 俺は私は正しいでしょ? 何か間違った事言ってます? 的な奴等に限って、中身はどうしようもなくて普段はとんでもない事考えて、バカみたいな事やってんだよ!! だから・・・」
「オイ、いい加減にしろ!!」
「痛ぇ、って、チカラ?」
オレは錦のところまで出張っていって、頭を小突いてやった。
「ほら、もういいだろ、引っ込むぞ」錦の腕をむんずと掴んで引っ張る。「どうもすみません、こいつ調子こいちゃって。もう済みましたんで、戻りますね~。」
「ちょ、待ってよ、今イイとこ・・・」
「バカ、ほとんどおまの私論になってんだろ。テメェの好き嫌いなんて誰も知りたくねーってーの」
「そ、それはぁ・・・」
たく、空気読め。こっちの流れが変わらない内にここを離れなきゃなんねーんだよ、ぐずぐずすんなって。
「イイから席に・・・」
錦の腕を引いて席の方を向いたら、目の前に拳銃を構えた坊主頭が立っていた。

「おっとどこへ行くんだ? もう少しここに居ろよ」
間に合わなかった。既に流れは変わっていた。
いや、むしろこっちの流れなんか最初から無かったのかもしれない。
最初から、向こうで作られた流れだった。
それはもう罠だったと言う方が正しい。
「イイねぇ、友達思いは。オジさん妬けちゃうよ」
「気持ち悪ぃ事言ってんじゃねぇよ」アレ? オレなに反抗してんの? 折角事態の収拾に来たのに、これじゃ喧嘩売りに来たようなもんだよな?「武器がなきゃ何にも出来ねぇオッサンがよ」
追い打ちかけてどうすんの、オレ。
「あーなーんだ、そう思われてたのかぁ、よっ!!」
坊主頭のオッサンは、右手で構えていた拳銃を一瞬で左手に持ち替えると、空いた右手でオレの顔を殴ってきた。

オレも甘かった。どこかで楽観していた。
なんだかんだいっても、オレは大丈夫。まさか殺されはしないだろうって。
だから避けることも防ぐことも反撃することも出来ずに、オレはパンチをまともに喰らってしまった。
情けなく床にしゃがみこむ。
「テメェ、何すん・・・」
聞こえてきた錦の声が途絶える。
片目を閉じながら見上げると、錦はカメラの辺りにいた男に羽交い絞めにされて取り押さえられている。
「残念だったな、ヒーロー。現実はそんなに甘かぁない。楽しい余興だったよ。ここらでイイ見せしめだ。死ね」
体育館の床に腰を落としたオレの額に狙いを定めた坊主頭がピタリと銃口を向けた。
その瞬間、『ゴン』という鈍い音がして、坊主頭の頭部が揺れ、態勢が大きく崩れた。
そして床には見慣れた物が転がる。
野球の硬球だ。
「あ~、すんませ~ん。ボール取って下さ~い、なんて」
その声は下照幟だった。
オレと同じ日高見学園高等部野球部所属の一年生天才ピッチャー。
こんな状況でよく当てたよ。って超危険球なんだけど。
「オッサン、ウチの大事な部員に怪我させたら許さねぇぞ!」
助けてくれた理由はやっぱりソレかよ。

しかし事態はなにも好転しなかった。
こめかみから血を滲ませた坊主頭は脳震盪も起こさずに立ち上がり、何事も無かったかのようにオレに狙いを定めた。
「別に許してもらうつもりはない。直ぐに全員殺してやるから大人しく待ってろよ。まずはおまえからだ!!」
優秀な兵士は迷わないって話だ。
そして、この坊主頭の目に、迷いは一切無かった。




私立日高見学園(19) 瓜生襷

「いつまで寝てるつもりだ? いい加減起きろよ、ビースト」
そうオレは囁く。
急速に視界が後退し、暗くなっていく。
代わりに背後から、猛烈なエネルギーの高まりが追い越していく。
抑圧され、押し潰され、踏みにじられてきた、意識、感情、欲望、衝動、記憶。
それは天災、終末の災厄。
大地を裂き、すべてを呑みこみ、薙ぎ払い、焼き尽くし、それでも飽き足らない。
それほどの激情のエネルギー。
それを生み出し、育んだのは、オレ自身だ。

「ビースト」

「ぎゃぁぁはははははぁぁぁぁーーーーーーーーーつ!!!!!! オレをそんなふうに呼ぶんじゃねぇぇ!! オレは阿弖流為(アテルイ)だぁぁぁぁ!!!」
オレの体を使って、ビースト、もといアテルイが絶叫した。
それがお前の産声か? 
つーかそんな使い方するなよ。声帯がイカレちまうだろ。
ほら、九条の旦那が何が起こったのか理解出来なくてパニクってるぞ。
「ブーシット!! ファッキンたすきモルティフィカティオ!! オーケイ?」
使い古された学校の勉強椅子の脚にガムテープで巻き付けられていたオレの足を力任せに引き剥がす。
九条魚名はようやう我に返って再びグロック・9を構える。
がしかし、アテルイがまだ上半身が縛り付けられている椅子を体ごとぶん回して、九条魚名の腕を銃ごと薙ぎ払った。

「ぐあっ!!」
苦痛の呻き声を上げ、吹き飛ばされたグロックの行方を目で追う九条。
その間に服を破くみたいに戒めのテープを引き千切る。
おいおいおい、あんまり無茶すんなよ、後で痛い目みるのはオレなんだぞ。
そんな呟きを意に介さず、とうとう自由になったアテルイは、前傾姿勢気味に息を荒げながら九条ににじり寄っていく。
この狭い体育用具倉庫。その距離1メートルあるかないか。
「九条ぉー!!」
騒ぎを聞きつけた、おそらく外で見張りをしていた男が二人、体育用具倉庫の鉄板製引き戸を開けて闖入してきた。装備は自動小銃(AKー47)だ。
外の光が窓の無い蛍光灯一つの空間に差し込む。
兵士二人が状況を把握する一瞬の間、アテルイは一気に距離を詰め、右の男の懐に入り込んで鳩尾に掌底をぶち込み、続いて隣りの男の腕を銃もろ共蹴り上げ、そのまま右肘鉄を腹部へ喰らわせた。
兵士二人は体を丸め、地面に崩れ落ちた。
運が悪ければ死ぬかもしれない。こいつは手加減などしない。
オレも、何も感じない。
ただ怒りだけが支配している。

背後から九条が迫り、スタンガンを突き出してくる。
アテルイは余裕で振り返り、あえて避けようとしない。
バカだ、こいつは。
スタンガンは心臓辺りに押し付けられ、『バチン!!』と鳴り、アテルイの体が一度大きく痙攣する。
しかしかし倒れない。
「今更効くかボケぇぇぇーーー!!!」
アテルイは絶叫しながら九条の顎を右手で鷲掴みにし、そのまま用具庫の外へブン投げる。九条の体は丸太みたいに砂利の上を跳ね転がっていく。
アテルイは手のひらサイズの石礫を拾い、無我夢中で体勢を整えようと起き上がる九条にサイドスローで投げ付ける。石礫は容赦なく左眼窩上辺りに直撃し、九条は短い悲鳴を上げて仰向けに倒れる。
そこへ駆け寄り、まるでサッカーのフリーキックよろしく、横たわる九条の脇腹を思いっきり蹴り付けた。
キャプテン翼も驚きだ。
蹴りは偶然動いた九条の右腕に当たり、内臓の損傷は免れたようだが、しばらくあの右腕は使えないだろう。

左の眉毛辺りが大きく裂傷し、鮮血が顔半分を覆ている。動かない右腕をだらりと垂らしながら必死の思いで上半身を起こす九条。
「た、助けてくれ、・・・頼む」
「ぐ、グギギギギぃ、ぷっしぃチャンに突っ込め」
止まらない、止められない、止めようもない。
既に怒りと憎しみにすべてを委ねてしまっている。
オレは傍観者だ。
アテルイは右手にまだ一つ石礫を握っている。
これを投げ付け、怯んだ隙にとどめをさすつもりだ。
恐ろしく用心深い。
「・・・グヒ、しね」

「その辺で止めておきましょうよ、タスキさん☆」
その声に、アテルイの動きが寸前のところで止まる。
地面に尻を着いている九条を挟んで向こう側に、面足千万喜が立っていた。
「もう必要ないじゃないですか。それ以上やったら、タスキさんが折角守ろうとしていたものを、失ってしまいますよ?」
「お、おまえは、さっきの!!、助けてくれ、こいつを止めてくれ!!」
九条が千万喜の方へ這い寄り、救いを求めて左手を伸ばす。
しかし千万喜はハエでも払いのけるみたいに、見もせずに足で九条の左手を踏み付ける。
「ぎゃっ」
苦悶の悲鳴を上げて地面に這いつくばる九条。
「さぁ、どうします?」
「たすき・・・いんふぇろす」
「それこそ意味ないですよ。せっかく見つけたんでしょ?」
「・・・・・・・・・」
「守りましょうよ」
「・・・・・・・・・」
「でないと、ボクは・・・」

「ハッ!! やる気が失せたぜ!!」
「タスキさん!!☆」
千万喜は九条の背中を容赦無く踏み越えて駆け寄ってくる。
オレは踵を返し、歩き始める。
「・・・・、で? 状況は?」
「ハイ☆」隣りに並んだ千万喜が淀みなく的確に説明する。「武装勢力は体育館で一年生全員を人質とし立て籠もっています。校舎の音楽室が爆破され、残りの生徒職員は全員外に避難。同時に警察に通報して、こちらに向かっているそうです。尚、体育館以外で怪我人はいません」
「体育館以外で?」
「はい、中の状況は未だ不明、しかし先程銃声一発が確認されました」
「あいつらの人数と配置は?」
「体育館内はやはり不明。校舎には確認し得る限り武装した兵士5名が随時巡回しているもよう」
音楽室かぁ。錦、気付いたかなぁ。無茶してなきゃイイけど。

「目的は?」
「ネットやメディアに流されたものだと、МIOYAグループ、御祖製薬への圧力のようです。製薬特許の破棄などを要求しています。その時、国際的な人権擁護団体を名乗っていましたが、実在している団体は犯行を全否定しています。おそらく無関係かと」
「わかった、ってスゲーよな、おまえ」
「いやぁ、それほどでのぉ」千万喜は頭の後ろをさすって照れる。「すべてはタスキさんに喜んでもらうためですよぉ☆」
いや、なんかここまでされるとむしろ怖い。
「しかし完全に胡散臭いなぁ、あいつら。要求だけしておいて自分たちの事は何も言ってこない。まるで逃走する気がないみたいだ。警察を呼ぶことも止めてないんだろ? むしろ呼んでくれって感じだ」
だいたい米軍絡みなのに装備がばらばらだ。足がつかないようにか?
「陽動、ですかね?」
「うん、やはり本命はあっちか」
オレは立ち止まって裏山の方を振り返る。
「しかし、ここを放っておくことも出来ねえだろ。ま、それが狙いなんだろうけど」
「という事は?」
「当然、全員ぶちのめす!!」
「やったね☆ ていうか、タスキさん、性格一段と突き抜けましたね☆」
「黙ってろ」


私立日高見学園(18) 児屋根春日

「・・・そこのメガネの後ろ、ちょっと立て」
あの、とりあえずメガネ、って呼ぶの止めて欲しい。
名前知らないからなのは分かるけど、アイテム一つで僕のことを表そうとするのは失礼だと思う。もし目立つホクロがある人だったら、「おいそこのホクロ」って言う? 言わないよね? もう人じゃなくてでっかいホクロだけってことだよね? それって失礼だもんね!!

「それって、俺の事?」
後ろで錦君が立ち上がる気配がした。
そうそうそう、独りでぶつぶつ呟いてる場合じゃないんだ。
こともあろうに、錦君がご指名を受けちゃったんだよ!!
あの坊主頭のおじさんは、錦君にいったい何をしようとしてるんだ?
いったい何をさせようとしてるんだ?
きっといかがわしい事に決まってる。
きっといやらしい事に決まってる。
きっとここを変なお店と勘違いしている。
マジックミラー越しに「どれにしようかなー」とか言って選ぶんだ!!

「やかましいぃ」
「痛っ・・・」
錦君に後頭部を殴られた。
「おかしな解説してんじゃねーよ、全部聞こえてるっつーの」
「ご、ごめん。けど、なんか、パニクっちゃって」
僕は後ろを向き、見上げて笑う。
「バーカ、心配すんなよ。俺は、だいじょぶだぁ?」
な、なんでこの期に及んで志村!!???

「おいおい、さっきからコソコソやってるのは分かってるんだよ。言ったはずだぞ、喋るな動くな、と」
「あのー、別にあんた達に逆らおうとか思ってる訳じゃないんすよ。だいたい丸腰のか弱き一介の高校生にいったい何が出来るっていうんです? ただ、なんつーか、ちょっとやり過ぎなんじゃないかなって、ちらっと思っただけなんすよ」

うわ、うわ、うわ、言っちゃった、言っちゃいましたよ、錦君。
なんか僕までおかしなテンションになっているんですがご容赦を。
さっきまで、錦君は凄く怒っていた。
こんな感じの錦君を初めて知った。
『なんかさ、俺、あーゆー奴等に、スゲー腹立つんだよな』
錦君は言っていた。
『暴力や恐怖を示せば周りを従わせる事が出来るって思ってる奴等。暴力や恐怖を平気で周りに押し付けられる奴等。暴力や恐怖で自分たちの弱さを隠してる奴等。暴力や恐怖でしか周りとコミュニケーション取れない奴等。なんでか知らんけど、イライラするんだよ。そういう奴等には無性に反抗したくなるんだよ。スゲー意地悪して邪魔したくなるんだよ』

ご、極悪だ。
だけど、こんな状況で、いったいどうするの?
僕はいったいどうすればイイ?

「やり過ぎ?」ステージ上で坊主男がニヤリと笑う。「いったい何がやり過ぎなんだ? どこがやり過ぎなんだ? オレ達が間違っているとでも言うのか? やり過ぎて間違っているのは、お前らの学校を運営するМIOYAグループの方だと思わないのか? 
御祖製薬が開発し売りさばく薬品はどれもクソみたいな特許にがんじがらめされてバカみたいに高価なんだよ。それらを一番必要としている途上国、貧困国の人々には買えないだ。こうしている間にも薬があれば助かる命がどんどん消えていってる。
 どうだ、オレ達がやろうとしている事は、間違っているか? え? 世間知らずのクソ餓鬼が」
「・・・・・、あのさ、あんた達、正しいよ、正し過ぎるよ、だけど正しいからっていって、その正しさの正義の下になにをやってもイイってことにはならないだろ?」
「こうまでしないと、何も変えられないんだよ。犠牲はオレ達の所為じゃない。不条理と不平等を敷いたあいつ等が責任を取るべきだ。そしてそれらの恩恵を当たり前の様にのうのうと受けているお前たちもな」

ここにきて、テロリスト(らしい)坊主頭と錦君の舌戦が始まった。
まさかこんな展開になるとは・・・。
錦君って、意外とまともな考え出来るんだね。
って、失礼か。
けど、あの大人を向こうにまわして一歩も退かない。
僕には話が大き過ぎるよ。
格差社会とか、貧困国とか、世界とか・・・。僕になんか、僕達になんか、どうすることも出来ないじゃないか。
そういう事を考えると、嫌でも思い出す。
あの夜裏山で、褐色の男に強いられた選択を。

「ふむ、甘いな、甘すぎるな、くまだパンより甘いよ」
隣りで呟く声が聞こえた。
ふと横を見ると、そこには転任教師、龍樹先生が座っていた。
「ちなみに『くまだパン』とは、東北のとある町だけで有名な、ただでさえ甘いあんこに更に追い打ちをかけるようにこれでもかという位砂糖をまぶした蟻もひれ伏す真っ白なお菓子の事だよ。見た目まったくパンじゃないのにね。この前テレビで紹介していてさ、お取り寄せしたらこれが中々なんだよ」
「・・・・・・」
あれぇぇぇぇ=======!!!!!???
先生はステージの下に能天気にもしゃしゃり出て行って脳天ぶち抜かれて死んだんじゃないんですかーーー!!??

「おいおいおいメガネ君、君はあの裏山でいったい何を学習したのかね? おっといけない。今私は人間の新任教師、ナーガールジュナ、龍樹先生だった。で? 何だい? そんなにくまだパンが食べたいのか? メガネ君」
うわ、香久夜さんばりに面倒臭い。
雰囲気が似過ぎてる。
っていうか、隣りの席には確か佐々貴君が座っていたような。

「あの、いつの間に・・・。僕の記憶が正しければ先生はあそこで倒れているんじゃ・・・」
「ああ、あれは既に抜け殻だよ。今はここに座る生徒の肉体を借りて君に私の姿を投影して見せているんだ。それくらい、世界史の教師なら出来て然るべきだろ?」
出来ません、そんなの。
そんな世界史の先生は嫌だ。

「しかし、どう見るね? この状況を」
龍樹先生は足を組み腕組みしてふんぞり返る。
「善とか悪とか何が正しいとか何が何が正しくないとか言ってるようではまだまだだよ。人類の原罪を知っているかい?」
「え、いや・・・」
「人類の罪は、善悪を知ったから、じゃない。それは正確ではない。本当の原罪は、『善悪を別ける事、善悪を判断する事』を知った事だ」
本来事物に、事象に善も悪もない。ただ在るのみ。有るだけ。それを別けた時、判断した時、神がバベルの塔への報復として人間の言語を別けて世界が混乱し混沌と化したように、世界は分裂し、互いに争いが起きるようになった」

僕は黙っていた。先生の言う事がさっぱり理解出来なかったけど、何かとてつもなく重要な事を言っているのは分かった。
だけどその重要性さえ今の僕には理解出来ない。
それを理解出来るようになるのは、遥かな未来。
それを理解出来るようになった時、僕達は・・・。
「イイよ、理解出来なくて当然だ。むしろ理解しない方がイイ。こんな戯言理解出来るようになってしまったら、今の世の中はとてもじゃないが生きていけない。それは狂気だ。もはや狂人だ。それに、理解出来るようになってしまったら、つまらんよ。そんな世界に私は何の面白味も感じない。だから私はここに来たんだ。この世界に更なる災厄と分裂と混沌の混乱をもたらすためにね。どうだい、素晴らしき完璧な人間賛歌じゃないか? だからこそ、そんな君達の甘さが愛おしいんだ」 
うわ、ナニ言っちゃってんのこの先生、実は変態だったのか。
うーん、なんか訳分かんない先生の戯言もとい世迷言に付き合ってたら、錦君と坊主男とのやり取りを聞き逃しちゃったじゃないか!!

私立日高見学園(17) 瓜生襷

アルコーンに初めて会ったのは、アメリカでバス事故に遭遇した時だった。
あの時オレは、病院に搬送される前に、砂漠近くの空軍基地に連れていかれた。
そこでアルコーンはそれまで使っていた肉体を捨て、オレの中へ侵入した。
アメリカは日本人の体が欲しかった。
日本でスパイ活動するのに、外国人では目立ち過ぎるからだ。
日本でМIOYAグループを探る為、そのお膝元である日高見学園に潜入する為。
それは、何年も、人の一生程もかかる、長い長い計画になるはずだった。

「よお、久し振りじゃないか、アルコーン」
「・・・・、そうだな」
「どうしたんだ? 珍しいじゃないか」
「どうした、だって? 会いに来たのはタスキの方、だろ?」
「ん? そうだっけ?・・・・、ちょっと待て、うん、・・・そうだ、そうだな」
「で? 何か用かな?」
「ああ、なんかあったような気がしたけど、忘れちまったぁ。あんたの顔見たらさ」
「ふうん、そうかい。ならイイんだが・・・。」
「なんだよ?」
「え? いやね、ホントに何にも無いのかな、って」
「ああ、大丈夫。ただ、ちょっと、話したかっただけだよ」
「そうかい。ならいつでもおいで。私はいつもここに居るから」
「うん、知ってる。あっと、それから、あいつをちょっと借りてくぜ」
「へぇ、イイけど、問題無いのかい?」
「ああ。少し考えを改めさせてやらないといけない可哀そうな奴が居てね。そういや、あんたのお仲間らしいよ? 『魂喰い』ではないみたいだけど」
「ふうん。ま、ホントの意味で私の仲間は君以外居ないんだけどね」
「おだてても何にも出ないぜ?」
「そんなもの期待してないよ。ただ私は君が・・・」
「イイよ、それ以上言わなくても分かってる」
「ならイイ。じゃ、行ってきな。私はいつも君と共に在る。それを忘れないで」
「ああ、またな」


「おい、瓜生、起きろ。これくらいで意識を失ってもらっちゃ困るんだよ」
目を開けると、そこにはAEDのパットを手に持った九条魚名が不遜な笑みを浮かべて見下ろしている。
「ああ、九条かぁ。まだ居たんだ・・・」
「まだそんな口をきく余裕があるんだな。驚きだよ、まったく」
それはこっちのセリフだ
度重なる電気ショックのせいで、体中が痛ぇ。特に頭の中をミミズが這ってるんじゃないかってくらいズキズキする。
ハァ、相変わらず体は椅子に固定されたままか。

「そろそろ有益な情報を吐いて欲しいんだけどなぁ。御祖の奴らが裏山に隠し護っているアレの正体は何か。御祖の内部情報、御祖家、そしてスメラギとはいったい何なのか。さぁ、我々の内でもっともスメラギに近づき、今も近くに居る君なら、これらの事に対する答えを持っているはずだ。ボクだってこんなこ酷いこと、好きでやってる訳じゃないいんだよ? とっとと楽になろうよ、お互いに」
「ハッ、笑えねーな、そんなジョーダンじゃ」
「・・・・・、何が言いたい?」
「オレを笑わせたきゃ、もっとイイネタ持ってきな」
「・・・、見返りを求めてるのか? 情報と交換で? ハハハ!! こいつはイイや。やっとスパイらしくなってきたじゃないか、ええ?」
「そう見えるか?」
「ギャハハハ!!! 命乞いはしてもイイ、だけどな、それは無駄だ。言いたくはないが、どっちにしろおまえは殺す」

「はぁ、そうかい」
「そういう事だ。僕も上からの命令でね。悪く思わないでくれよ、瓜生襷君。では、この辺で最後にしようか。何か吐く気になったかい?」
「残念、こっちも最後のチャンスをやったんだけどな、やっぱダメか」
「それがこの世への別れの挨拶か?」
九条魚名はそう言いながら、電気ショックのパットを掲げた。

「九条、おまえには、3千年分の記憶があるか?」
「は? とうとうおかしくなったか?」
「3千年、ずっと、ずっと、まともに眠ることも出来ず、誰も信用出来ず、心安める事も出来ず、好きになる事も愛する事も心許す事も出来ず、死ぬ事も許されず、ずっと隠れて、裏切って、戦って、偽って、殺し続けてきた魂を、記憶を、3千年抱えて生きていたら、おまえならどうする?」
「な、何を言って・・・」
「その地獄の業火のような魂を抑え込んだ結果がこれだ!!」
「おまえ、いったい」
「テメーなんぞに3千年かけてやっと手に入れたものを、掠め取られてたまるか!!」
そこでようやく事の異常さに気付いたように、九条魚名は電気パッドを手放し、懐に入れた拳銃に手を伸ばした。
遅いぜ。もう、何もかも遅いぜ。
「いつまで寝てるつもりだ? いい加減起きろよ、ビースト」
今、地獄の蓋は開かれ、怨恨と憎悪と憤怒と殺戮の人の形をした獣が解き放たれた。

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読書 ドラム 映画
自己紹介:
藤巻舎人(フジマキ トネリ)です。
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なので、小説の内容もおのずとそれ系の方向へ。
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