「これからの計画は? タスキさん☆」
面足千万喜が訊いてきた。
九条魚名をのしてから、ちょっと現場に戻ってグロックとスタンガンとAKー47回収した。これで装備はハリウッド映画並み?
戻ったついでにまだ砂利の上に転がっていた九条に軽く蹴りを入れてうっぷんを晴らした。
「とりあえず、校舎の中の奴等を片付けるか。こっちが自由に動けるように」
とは言ったものの、ビーストの奴が無茶な使い方したおかげて相当ガタがきてる。この体でどこまで動けるか・・・。
それにしても、よくビーストから戻れたもんだ。
前回あいつに体を明け渡したときは、御祖家の連中を相手に半日戦い続けて相当数病院送りにした挙句、御祖香久夜が出張ってきて抑え込まれたんだよな。
それが今回は・・・。
オレの支配力が向上しているのか。
それとも、千万喜の奴が・・・、まいっか。
「支配力とか、そんな一方的で単純なモノじゃないと思いますよ?」
こいつなんでオレの心の呟きに乗っかってくるんだ?
「どういう事だよ」
「どんなに抑圧したって、その感情は、記憶は、思いは、消えません。無くなりません。むしろ抑えれば抑えるほど、隠すほど、無視するほど、養分を与えるみたいに肥え太り、増大肥大していくんです。そしてある時、コントロール出来ないくらいに爆発するんですよ。いや、コントロールなんて初めから出来ないんです。感情は、自分の中に居る1人格の1つ。それらを理解し、時に許し、時に悟し、時に愛していく。要するに上手く付き合っていかなきゃならないんですよ☆」
「おわ、おまえマトモな事言えるんだな? スッゲー感心した」
「見くびらないで下さい。キホン、タスキさんよりスゴイんですから☆」
あれ? なに? この一言で普段の態度や敬語がものすごく嫌味に思えてきた。
「ま、すべては人間関係と一緒ですよ☆」
なんかイイようにまとめられた。
運もあるんだろうけど、体育用具倉庫で倒した二人の兵士は死んでいなかった。
御祖家の変態どもと違って普通の人間なのに。
以前だったら、手加減なんて一切しなかった。
やっぱり、ビーストの奴は変わったんだと思う。
それは、オレも変わったってことなのかな。
ここに来て、ここで生活して。
錦や佐伯やその他諸々と出逢って。
これからも、変わっていくのかな。
変わっていけるのかな。
とりあえず、オレ達は校舎に侵入して、見張りの奴らを無力化しようとした。
校舎の中に入ると既にもぬけの殻だった。
そりゃそうか。
教室が爆破され、更に爆弾が仕掛けてあるなんて聞いたらな。
しかし日本も危なくなったもんだ。
と自動小銃やスタンガンで武装してるオレが言っても皮肉でしかない。
「どうも変だな。まったく気配がない」
「そうですか?」
千万喜が答える。
「ホントに兵士が居るのか?」
「あ、疑ってるんですか? この圧倒的に格上の僕を?」
こいつの立ち位置が分からない。
職員室の前の廊下を歩いている時、突然何かが転がる音がした。
進行方向を千万喜が警戒し、オレは後ろを向きながら歩いていた。
音は前方の角から聞こえてきた。
当然オレは前を向く。
そして同時に二人が前方を向いている状態になったとき、背後に忽然と気配が表出した。
「動くな」
声が発せられるのと同時に、体が背後を振り返っていた。
だから厳密には動くなと言われる前に動いていたからセーフだ。
「何故動いた?」
振り返った先には、拳銃(デザート・イーグル)を構えた男が立っていた。
どうやって?
あの一瞬で背後を取るなんて不可能だ。瞬間移動でもしない限り。
「バカなんだろ? こいつら。それか日本語わかんねーんじゃねーの?」
すると反対方向から声がした。
前を気にしながら後ろを探ると、そこにも男が出現していた。
廊下という空間で、前後を挟まれた。
そしてこいつ等は、学園の制服を着ていた。
「あの、お二方は双子なんですか?」
何を言い出すのかと思えばまずソコ突っ込むか? 千万喜。
確かに前後の二人、髪型こそ多少違えど、顔や体格なんかそっくりだ。しかも同じ制服ときてる。
「いや、これは影分身の術だ!!」
後から現れた方が言った。
「兄さん、バカがばれるから黙っててよ」
「テメー、バカとか言うな!! カタリ!!」
それを無視して、最初に現れた方が話を進める。
「君達は、ここで何してる?」
こいつら同じ一年生だ。こんな双子居た気がする。
しかし、九条の件もあるしなぁ。
「おまえらこそ、体育館を占拠してる奴等の仲間かよ?」
にしてもなんつーデタラメな装備してんだ。デザート・イーグル50AEなんて化物拳銃扱えんのかよ。
「あんなのと一緒にすんな!!」
「バカ兄さん、黙ってて」
「え!? あ、バカとか付けんな!! ばれんだろ!!」
もうばれてるよ。つーかいちいちうるさい奴だなぁ。
随分対照的な双子だ。
「ぼく達は違う。ただの一般生徒だ。で? 君達は?」
一般生徒な訳ねーだろ。オレ等の背後取って、銃とか構えちゃって。
「あー、なら、おまえら、御祖家関係だな? 随分ご登場が遅ぇーんじゃねーの? 学園の危機だっつーのに」
「答えろ、何者だ?」
御祖家の名前を出したら、急に二人の雰囲気が変わった。
「ぼく達こそ、か弱い一般生徒ですよ? ね、タスキさん☆」
「そうは見えないけど」
お互い様だろ!!
「実は旅の者です。復活したヴァンパイアを倒すの為に仲間を集めているんです。どうでしょう? 仲間になりませんか?☆」
「断る」
「もしかしてエジプトまで!?」
「兄さん乗らないで」
話が進まない。
「ま、とりええず、オレ等は御祖家と対立する気はねぇ。目的は体育館を占拠してる奴等の殲滅だ。時間も限られてる、ここはお互い信用しようぜ」
そう言って構えていた銃を下ろす。
「確かに、いろいろ含みはあるけど、そうした方がイイみたいだね」
誰も居ない職員室に入って、一応身を隠す。
あんな廊下で喋ってたら目立ってしようがない。
「オレは瓜生襷。一年だ」
「ぼくは面足千万喜、同じく一年生です☆」
「ふん、おれは奇杵襲(クシキネ カサネ)だ」
「ぼくは奇杵語(クシキネ カタリ)。見た通り、双子だよ」
『奇杵』かぁ。スメラギ御三家かよ。
「で? 君達はここで何してたんだい?」
「んー、まぁ、不審者が校舎をうろついてるって話だったからまずそいつ等を片付けて、その後体育館を攻めるって感じだったんだけど」
「あー、不審者って奴等はおれ達が片付けてやったよ。ありがたく思えよな」
「・・・・、なぁ、おまえの兄貴っていつもこんな感じなのか?」
オレは語にヒソヒソと耳打ちする。
「そうなんだよ、心中察してくれ」
「お悔やみ申し上げます」
「勝手に殺すな!!!」
案外面白いなぁ、この兄弟。
「それはそうと、体育館を急襲するのに、何か計画はあるのかい?」
語が真顔になって訊いてきた。
「いや、そもそも中の情報が無いからな、校舎を見張ってる奴をとっ捕まえて搾り取ろうって考えてたんだが、そっちはなんかあんのか?」
「ま、それなりにね」
ホントは企業秘密なんだけどね・・・、と語はぼやいた。
「御祖家の力をなめんな!!」
襲が息巻いて言う。
ま、手の内見せてもらいましょうか。
こいつらがどんな異能なのか。
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