写真家だった父さんについていって、世界の様々な土地を訪れた。
そして様々な人達に出会った。
ネイティブアメリカンの呪術師(メディスンマン)と生活を共にし、
世界の始まりの神話を聴き、大地との繋がりを教わった。
荒野での生活、いろんな薬草、祈りの唄。
アラスカのエスキモーと雪原を旅し、
アザラシを狩り、犬橇に乗って、オーロラを見上げた。
キャラバンに同行してタクラマカン砂漠を横断し、パプアニューギニアの熱帯雨林の奥へ分け入り、北アフリカではゲリラのキャンプの取材に同行した。
いろんな人々に出逢った。危険な状況に何度も遭遇した。五感を全開にして感じ取り、心動かされた。
そして沢山のことを学んだ。
人々から、自然から、父さんから。
今、俺は新たな体験の真っ只中にいる。
透明な檻に閉じ込められているんだ。
余りにぶっ飛んでるぜ。
さっきまで俺に話しかけてきていた男の声はしばらく止んでいる。
どこかに行ったのか、黙って観察しているのか、単に飽きたのか。
とりあえず俺は、真っ白なベッドから起き出した。
床は乳白色のリノリウム張り。
ひんやりと素足に冷たい。
透明な壁まで歩き、手で触れてみる。
やはりプラスチックのような材質。
「まっ、とりあえず・・・」
俺はそう呟き、机の前に置いてあったパイプ椅子を持ち上げ、思いっきり透明な壁に叩きつけた。
しかし鈍い音とともに跳ね返され、俺は椅子ごと床に転がった。
「痛っ!!」
透明な壁はインパクトの瞬間微かにたわんだが、傷一つついていない。
やっぱりか。当然といえばそれまでなんだけど。
こんな監禁場所まで用意してる奴等が、パイプ椅子くらいで壊れる所に閉じ込めるかって話だよな。
だいたい壊されない自信があるから椅子とか机とか置いてるんだろ?
クソッたれだぜ。
「おいおい、大人しいと思ったらいきなりヤンチャなことするなぁ。そんなパイプ椅子でも血税が使われているんだよ? 行動は慎重にね」
「・・・・・・・、あいにく何事も試してみないと落ち着かないタチでね」
「99%無理でも残り1%に賭ける。うん、良い心がけだな。無駄に終わったがね」
「無駄だと分かる事も収穫の内だぜ」
「・・・・、うん、そうだな。今後の行動の指標になる。なかなか賢いじゃないか」
俺は床から立ち上がり、打ち付けた個所を擦ったりして、椅子をもとの位置に戻した。
ひどく疲れたので、洗面台の蛇口を捻り、棚に置いてあったプラスチックのコップに水を注いでゴクゴク飲んだ。
水は不味くなかった。
大きく溜息とつき、真っ白なベッドに腰を下ろし、深くうなだれた。
あいつ。
あの声。
さっき『血税』と言いやがった。
俺の相手は国なのか?
さて、当面の問題はそんなことじゃない。
今、最大の問題は、
衆人監視の中、どうやってトイレを済ますかだっっっ!!!!!!!!
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