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藤巻舎人 脳内ワールド

藤巻舎人の小説ワールドへようこそ! 18歳以下の人は見ないでネ

   

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私立日高見学園(3) 棚機錦

写真家だった父さんについていって、世界の様々な土地を訪れた。
そして様々な人達に出会った。

ネイティブアメリカンの呪術師(メディスンマン)と生活を共にし、
世界の始まりの神話を聴き、大地との繋がりを教わった。
荒野での生活、いろんな薬草、祈りの唄。

アラスカのエスキモーと雪原を旅し、
アザラシを狩り、犬橇に乗って、オーロラを見上げた。

キャラバンに同行してタクラマカン砂漠を横断し、パプアニューギニアの熱帯雨林の奥へ分け入り、北アフリカではゲリラのキャンプの取材に同行した。

いろんな人々に出逢った。危険な状況に何度も遭遇した。五感を全開にして感じ取り、心動かされた。
そして沢山のことを学んだ。
人々から、自然から、父さんから。


今、俺は新たな体験の真っ只中にいる。
透明な檻に閉じ込められているんだ。
余りにぶっ飛んでるぜ。
さっきまで俺に話しかけてきていた男の声はしばらく止んでいる。
どこかに行ったのか、黙って観察しているのか、単に飽きたのか。
とりあえず俺は、真っ白なベッドから起き出した。
床は乳白色のリノリウム張り。
ひんやりと素足に冷たい。
透明な壁まで歩き、手で触れてみる。
やはりプラスチックのような材質。

「まっ、とりあえず・・・」
俺はそう呟き、机の前に置いてあったパイプ椅子を持ち上げ、思いっきり透明な壁に叩きつけた。
しかし鈍い音とともに跳ね返され、俺は椅子ごと床に転がった。
「痛っ!!」
透明な壁はインパクトの瞬間微かにたわんだが、傷一つついていない。
やっぱりか。当然といえばそれまでなんだけど。
こんな監禁場所まで用意してる奴等が、パイプ椅子くらいで壊れる所に閉じ込めるかって話だよな。
だいたい壊されない自信があるから椅子とか机とか置いてるんだろ?
クソッたれだぜ。

「おいおい、大人しいと思ったらいきなりヤンチャなことするなぁ。そんなパイプ椅子でも血税が使われているんだよ? 行動は慎重にね」
「・・・・・・・、あいにく何事も試してみないと落ち着かないタチでね」
「99%無理でも残り1%に賭ける。うん、良い心がけだな。無駄に終わったがね」
「無駄だと分かる事も収穫の内だぜ」
「・・・・、うん、そうだな。今後の行動の指標になる。なかなか賢いじゃないか」
俺は床から立ち上がり、打ち付けた個所を擦ったりして、椅子をもとの位置に戻した。
ひどく疲れたので、洗面台の蛇口を捻り、棚に置いてあったプラスチックのコップに水を注いでゴクゴク飲んだ。
水は不味くなかった。
大きく溜息とつき、真っ白なベッドに腰を下ろし、深くうなだれた。


あいつ。
あの声。
さっき『血税』と言いやがった。
俺の相手は国なのか?


さて、当面の問題はそんなことじゃない。
今、最大の問題は、
衆人監視の中、どうやってトイレを済ますかだっっっ!!!!!!!!





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補足(1)

<登場人物紹介>

棚機錦(タナバタ ニシキ)

私立日高見学園高等部の1年生。吹奏楽部で打楽器パート所属。
ごく普通の人間、一般人の学生である。
現在母と二人暮らし。父親は写真家だったが不幸な死を遂げた。
父親の仕事についていって世界中を旅した経験を持つ。
その中で様々な知識・技術を習得した模様。
時々ブチ切れて周囲が見えなくなることも。
物事を深く考えているようで、考えていない、
ように見えて実は考えている、
と思わせておいて考えていないのか、あるいは考えているのか。
それはわからない。



児屋根春日(コヤネ カスガ)

私立日高見学園高等部1年生。吹奏楽部で打楽器パートに所属。
『拒絶』の能力を持ち、学園に入学するまでその力を自覚しないで行使し、
ずっと誰にも認識されず不可視の存在として生きてきた。
そのためにおそろしく引っ込み思案でモノローグが多い。
学園理事長でМIOYAグループ総帥で御祖家のスメラ君である御祖香久夜の片腕に無理矢理させれられた。



私立日高見学園(2) 児屋根春日

僕、児屋根春日は、私立日高見学園高等部の1年生です。
都合により、学園の寮に住んでます。
二部屋一組で、共同のユーティリティスペースで繋がっています。
共同スペースにはテーブルと椅子、冷蔵庫などがあります。
トイレとお風呂と洗面台はそれぞれ共同です。
それらが各部屋に無いのは、環境整備の問題からだそうです。
確かに、高校生にそれぞれの掃除をなどを任せたら、大変なことになりかねませんよね。

そんな寮の一室で僕は終業式の朝を迎えた。
明日から夏休み。
寮生の何人かは実家に帰るらしい。
残りは運動部で練習があるから残るそうだ。
僕は錦君や瓜生君に誘われて吹奏楽部に入った。
吹奏楽部は夏休み中も練習がある。
だから僕も寮に残る。
だけど、練習が無くても、僕は寮に残るんだけどね。
僕の存在を忘れてしまったあの家にはもう戻れない。
それはあの人達の所為ではなく、僕の所為なんだけれど。
僕の心と力の所為。
僕の世界を拒絶した心と力の所為。

目覚まし時計のけたたましい金属音で僕は飛び起きた。
文字通りタオルケットを跳ね飛ばして。
アナログな感じの金属の音が「ジリリリリリ」と鳴る時計じゃないと僕は目覚めが悪い。
電子音だと気付かなかったりする。
どういうわけか非常ベルみたいな音だと驚いて目を覚ます。
ほとんど心臓に悪いんじゃないかと思うけど。
そうやっていつものように起きた朝。
7月だというのに、この辺りの土地は寝る時にクーラーが必要ない。
窓を開けて扇風機でも回しておけば、充分寝つける。
かといって昼間も涼しいかといえばそうではない。
ちゃんと暑いのだ。

パジャマの下とTシャツ姿のまま部屋を出て、冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出し、コップに注いで飲んだ。
冷たい水が喉を潤していく。
僕は寝ぼけまなこのまま廊下に出て、共同の洗面スペースに行って顔を洗い、歯を磨いた。
何人か寮生がいたけど、だれとも挨拶もせず、話もしなかった。
みんな寝ぼけているのもあるけど、僕には友達がぼとんどいない。
こんな朝のひと時に挨拶でもすればいいとは思うんだけど、
無視されたら、気付かれなかったらどうしようって思うとすくんでしまう。
それでも、こんな僕にもささやかな友達が出来たんだ。
錦君、瓜生君、佐伯君、千万喜君、そして万木君・・・。
僕の初めての友達。大事な大事な友達だ。

沈黙のまま自室に戻って、隣りの部屋のドアをノックした。
「万木君、万木君・・・・、居る? 朝だよ?」
しばらく様子をみたけど返事がない。
ドアを開けてみると、案の定万木君の姿はなかった。
最近留守にするのが多い気がする。
前から部屋に居ないことは多かったし、
授業に出てる方が珍しかったりするんだけど、
近頃は特に居ないことが多い。
随分忙しくしているようだ。
だったら僕にもちょっと言ってくれればいいのに。
僕だって香久夜さんの側近なんだから。
っていっても何をしたらいいか分からないし、無理矢理させられたんだけど。
厳粛で格式ばった儀式の後、いわゆる御祖家の人々の前に万木君と僕はお披露目された。
鏡の臣と剣の臣としてスメラギこと御祖香久夜さんの直下に入る為に。
どことなく、いや、確実に不穏な空気。
見知らぬ御祖家の面々の射るような視線。
確実に歓迎されていない雰囲気。
はっきりいって生きた心地がしなかった。
もう絶対にあんなのは御免だ。

「やぁ、おはよう。メガネ君」
寮を出て、校舎へ向かう途中で龍樹先生に声をかけられた。
「うっ、おはよう、ございます・・・」
「なんだい? 最初の『うっ』は?」
「いえ、特には、あ、いや、ひゃっくりです、そうひゃっくり」
焦って思わずウソを言ってしまった。
「あ、そうそう、ひゃっくりだよね!? やっぱりそうだと思ったアハハハハー!!!」
ああ、余計なことしなきゃよかった。朝から後悔。そして朝からウルサイ。
「OYA、OYA、どうしたんだい? こんな爽やかな夏の朝にU2な顔して?」
「え、いや、ちょっと頭痛くなってきたんで、先行きます」
「それは心配だなぁ、頭痛薬飲むかい?」
そう言って龍樹先生はスラックスのポケットに手を入れた。
え、ポケットに常備してるんですか?頭痛薬。
「あ、いいです。遠慮しときます・・・」
そこでふと、先生に万木君のことを訊いてみようか、という考えが浮かんだ。
無謀なことかもしれないけど、この先生ならなにか知ってるかもしれない。
この存在ならなにか教えてくれるかもしれない。
「あ、あの、龍樹先生、ちょっと訊いてもいいですか?」
「そうだね~、いつも生意気に憎まれ口叩いてるのにベッドの上ではデレるのがタイプだけど、大人しくて口下手だけど実はすっごく欲しがり、っていうのもOKだよ?」
え。
あれ?
なんのこと言ってるのかな?
ぼ、僕わかんない、や・・・・・。

「ん? 訊きたいことはこれと違ったかな?」
違わなかったらどうしてたんですか?
「え、えっと、その、ヨロキ君のこと、最近見かけませんでしたか?」
「ん? ああ、彼ね。えーと、ついさっき見たなぁ、裏山で」
「え。裏山、ですか?」
日高見学園の裏にある山。
不吉な謎が渦巻く山。
僕と万木君が出逢った山。
そして・・・
「そうだよ。朝の散歩をしていたら、偶然ね。ほら、君達と初めて会ったあの場所さ」
龍樹先生は微かに微笑んだ。
だけどその目は、どこか妖しい光を宿していた。
「はい、覚えています」
「行ってみるのかい?」
「もしかしたら。けど、これから終業式が・・・」
「善は急げ。出来るだけ早い方がイイと思うよ。彼も忙しそうだから」
「はぁ、でも・・・・」
「今から行って戻っても間に合うよ。なにかあったら私が口添えしてあげるから」
「そ、そうですか?」
「うん。だから行ってらっしゃい」
どこか言いくるめられたような釈然としないまま、僕は裏山の登り口へと足を向けた。
背後で、先生がこんなことを呟くのが聞こえたような気がした。

「彼の本当の姿を見るのも悪くないだろう」






私立日高見学園(1) 棚機錦

リビングの庭に面した窓から、午後の柔らかな光が射し込んでくる。
俺はソファーにぼんやりと腰を下ろしていた。
誰も居ない、静かな時間。
突然、電話が鳴りだす。
その音を聞いて、もやもやとした暗い不安に捉えられる。
すごく嫌な感じだ。久しく忘れていたはずなのに。
俺は不快な電話の音を止める為に、なにか良くない事だと分かっていても仕方なく受話器を取った。
男か女かも、年齢も、誰のものかもわからない声が受話器から聞こえた。
その声はもはや人の声かどうかすらわからなかった。

「おまえの親父は死んで当然だ!! 生き恥さらしやがって」

「わぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」
叫び声を上げてベッドから跳ね起きた。
何が起きたかわからない。
息がひどく荒い。
嫌な汗で体が濡れている。
胸が締め付けられるように痛む。

数十秒か数分か、しばらくして落ち着いてから、思った。
夢・・・・か?
そうだ、夢だ。いつもの夢だ。
あれはもう終わったことなんだ。
今の俺にはなんの影響も及ばさないんだ。
なんとか理性を現実に引き戻して、今何時なのか時計を見ようとした。

アレ。

いつもの目覚まし時計がヘッドボードの上に無い。
ていうか、このベッド、ウチのじゃない。
こんな金属のパイプで出来た無味乾燥なベッドじゃないぞ? 俺のベッド。
それにこんな真っ白な布団カヴァーでもないし、そもそもここは俺の部屋じゃない。
ここは・・・・どこ・・・っつーか、ここは何っ!!??

あまりにも日常からかけ離れた現実に俺はいきなり放り込まれていた。
真っ白な布団カヴァー。
真っ白なタオルケット。
真っ白な枕。
真っ白なシーツ。
真っ白なパジャマ。

ベッドの周りにあるのは、
金属のパイプベッド。
スチールの机と椅子。
陶器の洗面台と便器。

そして何よりも異様なのが、この狭い範囲を四方に覆う透明な壁。
プラスチックか何かだと思う。
ガラスではないだろう。
俺は、透明な壁に囲まれた独房みたいなところに居た。
もちろん頭上にも蓋がしてある。
物音ひとつしない。
照明は透明な天井に設えられたシーリングライトだけ。
これは、閉じ込められている、ということになるのか?
そういう結論に行きついてはみたものの、余りに現実味がなくて実感が湧かない。
映画とかだったら動揺したり混乱したりするものなんだろうけど、実際いきなりそんな状況に置かれてみると、案外冷静、というか心が追いついていかなくて、麻痺してしまうものらしい。
それに、差し迫った危険の兆候が見当たらないのもある。
ちゃんと最底辺の、ホント最低ラインギリギリの物は揃っている訳だし。
あとは、食い物か・・・・。

「やぁ、お目覚めかい? 随分うなされていたみたいだけど、嫌な夢でもみていたのかな? 棚機錦君」
突然、声がした。
思わず体がビクッと痙攣した。
おそらく男の声。
誰か居るのか?
一気に緊張が高まる。
しかしこの閉じ込められている立方体の外には光源がなく、暗闇で見通せない。
いったいどれくらいの空間があって、どんな様子なのかうかがい知れない。
そしてその声は、どの方向からかは分からないが、闇の中から響いてきた。
「まぁ警戒するのも無理も無いが、遅かれ早かれそんなものは無駄だと分かるだろう。だからリラックスして、くつろいで居ることをお勧めするがね」
くつろげぇ?
はっ、よく言うよ。
しかし、無駄だってことは、しばらくは俺をここから解放する気は無いってことか?

声は、聞こえてきたときと同じく唐突に止んでしまった。
丁度いい、ちょっと状況整理をしよう。
思い出せ、思い出せ・・・。
俺は早朝、いつも通り家を出て新聞配達のバイトを終え、学校へ向かっている途中だったはずだ。
登校のどの辺りから記憶がないのか定かじゃないけど、そのどこかで何かをされ、この場所に連れてこられ、今の今までベッドの上で眠らされていた訳だ。
いったいどれくらい時間が経っているのか。
腹の空き具合からみて、1、2時間といったところかな?
体に痛みはなく、どこも異常は無さそうだ。
持ち物は、どこにも見当たらない。とりあえずここには無いみたいだ。
方法は分からないが、そう遠くへは運ばれていないのかもしれない。
ここは市内、あるいはその周辺。
こんな場所が用意してあって、ターゲットは俺だった。
計画的な犯行。
・・・・・・・、いったい誰が、目的はなんだ?
俺を拉致監禁することに、どんな意味がある?
つーか、俺、どうやってこの白い検査着みたいなのに着替えたんだ?
無理矢理?
裸にしたのか?
変なコトされてねーだろうな?

「ふん。こんな状況にありながら騒ぎもせず冷静でいるとは、なかなか面白いね。お父さんの教育の賜物かな?」
再び声が響いた。
どうやらリアルタイムで観察されているらしい。
「ん? 初めて真剣な顔つきになったね。まぁ、無理も無いか、お父さんがあんな扱いを受ければ。家族も苦労したんだろ? 大変だったろうね」
うるせぇよ、黙ってろ。
と怒鳴ってやりたかったけど、止めておいた。
どうやってもこの状況は改善しそうにないからだ。
それどころか改悪されかねない。
俺もちょっとは考えてるんですよ。
それに父さんの話が出てきたのもある。
父さんが死んだ頃だったら、あんなこと言われたら殴りかかってたところだけど。
今では毎日、父さんと過ごした時間を、教えてもらったことを、共に味わった体験を、思い出し、反復し、そこからいろいろ学んでいる。
それでもカッとなると後先考えないって主税や瓜生に言われるけどな。
ま、それは愛嬌。

「同情してくれるんなら、1つ教えて欲しいことがあるんだけど」
「ふん、一番適切な質問をしたまえ」
「何の為に俺を拉致したんだ?」
一番の疑問をぶつけてみた。
どう考えても俺みたいな一般市民をこんな大掛かりな場所まで用意して誘拐する理由が思い浮かばない。
「うん、そうだな、適切だな、この上なく」
声の主は独り納得したようだった。
「君を拉致監禁しているのは、人質であり、保険だからだよ。以上」


だから、誰に対しての人質で、何に対しての保険なんだよ!!!!このアホ!!!





私立日高見学園 第三章 後書き

シリーズ 私立日高見学園

第三章 「Hello Stranger」

完結です。

ちと短いですが、まぁ間奏曲的な感じで。
次章からは再び長編の予定です。
しかもバトル展開突入。

のっけから棚機錦の誘拐で始まります。
そして春日の失踪。
スメラギへの二つの陰謀。

乞うご期待!!

藤巻舎人





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プロフィール

HN:
藤巻舎人
性別:
男性
趣味:
読書 ドラム 映画
自己紹介:
藤巻舎人(フジマキ トネリ)です。
ゲイです。
なので、小説の内容もおのずとそれ系の方向へ。
肌に合わない方はご遠慮下さい。一応18禁だす。

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