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藤巻舎人 脳内ワールド

藤巻舎人の小説ワールドへようこそ! 18歳以下の人は見ないでネ

   

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私立日高見学園(17) 瓜生襷

ペットボトルの緑茶を飲みながら屋上まで階段を上る。
それにしても奇杵兄弟、ピリピリしてたなぁ。
まるで戦争前夜の箝口令みたいだな。
にしては不出来だが。

「当たらずとも遠からず、ってとこだね」
その声に反応して顔を上げると、数段上の踊り場の壁に不遜に寄り掛かって立つ、龍樹先生がいた。
相変わらず心の声にかぶせてくるよなぁ、この人。
オレのプシュコプロテクト平気ですり抜けてんのかな?
「まぁそう気にしないで」
いや、気にするって。
「私には知る権利がある!!」
なに言ってんの? この人。バカなの?
「ほとほと失礼な奴だなぁ」
オレが口を開いていない分、踊り場の壁に寄り掛かって独り言をぶつぶつ呟いている痛い人にしかみえない龍樹先生を無視して、階段を上り続けた。
「ちょっと待ちたまえ襷君」先生は慌てた様子で追いついてきた「なんて無礼なんだ、せっかく話しかけているのに」
「オレは話してた覚えはないよ」
「ふん、屁理屈をこねさせたら私の次くらいには手ごわいね」
まったくありがたくないポジションだ。

「で? なんなんスか? 先生またなんかたくらんでるんスかぁ?」
「はぁ? バカも休み休み言いたまえ。私がいつたくらみなどをした?」
良く言うよ。
「私はただ、ショーが更に楽しくなるよう、少しお膳立てをしているに過ぎない。あくまで私は観客だ。脚本家を気取りはしない。たまに演出はするがね」
まったく迷惑な客だ。
「なんだかこの辺りもきな臭くなってきてるけど?」
「ふーん、そうかい? いつもこんな感じじゃなかったかな?」
「白々しいなぁ」
「最近我らが銀髪の君もいろいろとご多忙らしいからね。力のある存在が動けば、周りも否応なく引っ張られるって訳さ」
「反作用的な?」
ありうる話だ。そうとなれば・・・。
「私はどんな動きでも大歓迎だけれどね」
龍樹先生はチョコレート色の肌に映える綺麗な白い歯を露わにして笑った。
こいつ段々自分の見せ方が分かってきたみたいだな。手におえねーぜ。

そこでようやく着いた屋上のドアを開けた。
分厚い雲の切れ間から射す光の中、みんながさっきと変わらずにはしゃぎ騒いでいた。
なんだか、明日世界が終わるとしても、こいつらはこんな風にしているんじゃないかって思えた。
胸の奥が痛い。
無意識にシャツの胸の辺りを掴む。
何のかけ引きも、何の損得も無く、ただただバカな話で盛り上がり、笑顔を咲かせるあいつ等。
そしてこのままあそこへ行けば、自然にオレの場所を空け、受け入れてくれるだろう。ずっとそこに居たかのように。
今までも、今でも、これからも。
オレの居場所。
初めて心から言えるオレの居場所。
だったらオレは、世界の終りのその時まで、こいつらのそばに居よう。

「まったく涙が出るねぇ、君の心意気には」
「やかましい、だいたいあんた何か用かよ?」
「うわ、すぐ乱暴な言葉になる。君の悪い癖だね」
「ヒマなだけならどっか行ってくれ」
オレ達はみんなに気取られないように小声でやり合った。
「あ、そういやさぁ」
「ん? なんだい? わからない事ならなんでも先生に訊きなさい?」
なんか癪に障るが、ここは我慢我慢。
「前から思ってたんだけど、千万喜っていったいなんなんだ?」
「ほー、そうきたかい」龍樹先生は珍しく言い淀んだ「なんだと言われるとな~」
「今更自分とは関係無いとか言うなよ」
「そんなことはないよ。ただ、言うべきか、言わざるべきか、とね」
「へぇ、先生でも迷うんだ?」
「・・・そう見えたかい?」
質問に質問で返すな。
ていうか昼休みの時間が終わっちまうから誤魔化すな。
「はいはい」
先生は軽く笑ってみせた。
ドアの陰から、屋上のみんなを見る横顔が、どことなく悲しそうだった。
まぁ、あくまでもそう見えただけだ。こいつにそんな感情あるとは思えない。

「彼は、紛れも無くただの人間だ。しかしその出自からすれば甚だ特異と言える。かれは、私から生まれたのだ」
「へ~、あんた結婚してんだ」
「実はそうなのだよ! あれは私がまだ14歳の時、ロンドンの寄宿学校で・・・」
「悪かったオレが悪かった話の腰を折って。だから早く話の続きをしてくれ」
「とっておきの恋愛話なんだが、まぁ仕方がない、これはまた後程。えーとどこまで話したかな?」
「千万喜があんたから生まれたってところだよ」
たくいちいちイラつくなぁ、この人。
「そうだった。彼は、私の好奇心がこの物質世界に投影されたものなんだね。ほぼ始まりより存在し、幾つもの宇宙の栄枯盛衰を見てきた私だが、久方ぶりにこの辺りの次元に降りてきてみたら、なかなか興味深くてね・・・」
「・・・・、で?」
「え?」
「それで?」
「いや、これで終わり。そうやって彼は生まれたって訳さ」
出やがった。この自己完結男。
物足りなさで不満気な顔をしてるオレをチラリと見て、先生は少しだけ付け足した。
「ま、私くらいになると思考がそのまま物質化してしまうものなんだよ」
そ、それって・・・・、もしかして、ていうかやっぱりそういうことなのか?
「とりあえず、あの子のことをよろしく頼むよ。しかしこれだけは覚えておいて欲しい。どんなに人間に近いといっても、あくまで彼は私だということを。どんなに信じても、求めても、最後の最後には私の所に戻ってくるの存在なのだと」
言い終えた龍樹先生は興味を無くしたようにふらっと身を翻して、階段を下りていった。
へっ、なんだよそりゃ。
言われなくても分かってるさ。
オレは心の中で愚痴りながら、光射す屋上へ踏み出した。






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私立日高見学園(16) 瓜生襷

さて昼飯の時間。
約束通り、千万喜が教室にやってきた。
「タスキさん☆ お昼食べましょうよ!」
丁度錦も寄ってきたので、隣りの席の春日と合わせて言った。
「昼どうする? オレと千万喜は弁当なんだけど・・・」
「弁当!?」と驚きの声を上げる錦。
「いや、誰が作ったかは訊かないでくれ」
「あ、そう」
お、素直に引き下がった。錦にしては珍しい。
「春日、どうする? 俺達もなんか買ってくるか?」
錦は席に座ったままの春日に訊いた。
「うん、いいよ」
「じゃ、屋上で食おうぜ。雨上がってるみたいだし!」
え、雨止んだけど濡れてんじゃねーの? と思いながら「分かった」と答えた。

屋上に出ると、まだ雲が多いが、西の方には既に青空が見えた。
遠くには、雲の隙間から幾筋もの光の柱が降りている。
「うわ~、タスキさん☆ ぜんぜん濡れてませんね!」
「あ? ああ」
ホントだ、屋上の床、濡れてねぇ。
もう乾いたのか? 
「この辺に座りましょうよ。虹が見えるかもしれないですよ☆」
なんだか千万喜が少女に見えてきた。
弟キャラというより、妹?
気のせいか?
ん? そもそも千万喜は弟キャラだったのか?
「どうします? もうお弁当食べちゃいます?」
「ん? ああ」
「九条の兄貴はどうします?」
「あ、そうだなぁ・・・ってナニ!?」
今なんて言った?
「ちゃんと人の話聞いて下さいよぉ。九条さんはどうしますか? 呼びますか? って言ったんですよ」
千万喜はカワイイ顔して拗ねてみせた。
「え、いや、そこまで気を遣うつもりはねーよ」
「はいはい、そうします」
何か言いたそうなまま、千万喜は大人しく腰を下ろして、弁当の包みを広げ始めた。
う~ん、やはり油断ならねーな、コイツは。

「お~い、瓜生~、お待たせ~」
錦と春日が昼飯を買ってやってきた。
お、佐伯も一緒じゃん。あいつもうすぐ大会始まるのに練習大丈夫なのか?
昼休みも練習してる野球部員いるみたいだけど。
「わ~、みなさんこっちですよ☆」
千万喜が手招きする。
「伝説の焼肉サンド、ゲットしたぜ~い」
錦がビニール袋からパンを取り出した。
「オレのおかげだろ」
「そうそう、主税の頑張りが奇跡を呼んだんだ!」
「大袈裟だよ」と佐伯がツッコむ。
「はいはいみんさん、それではいただきましょう☆」
『いただきまーす!』(全員)
オレは弁当箱のフタを開け、すぐさま閉じた。
え? なにコレ。
コレが高校生男子が作る弁当か!?
スゲー乙女チック、いや、もはや母親が幼稚園児へ作ってやるファンシー弁当だな、こりゃ。
チラっと千万喜の方を見ると、同じくフタを閉じて目を丸くしているところだった。
そしてオレの視線に気付いた千万喜は、笑いを必死で堪えようとしている。
堪えろ、千万喜!! ここで笑ったら男が廃る!!
しかし数秒ともたなかった。
「ぶっはっはっはっは~!!! みなさんちょっと見て下さいよ☆ ボクのお弁当もの凄くないですか~?」
千万喜は弁当のフタを開け、みんなに見せびらかす。
「え? どれどれ」と覗き込む錦。「おお、スッゲー!!! 美味そうじゃん、コレ」

「か、カワイイんじゃね? もしかして、女子が作ってくれたのか?」
ちょっと顔を赤らめて言う佐伯。純情過ぎるだろ。

「わー、スゴイ。僕も今度作ってみようかなー」
変な方向に向かってる春日。

「なんだか食べるのもったいないですね☆ タスキさん」
千万喜がオレに向かって笑顔で言った。
「え、まぁ、そうだな。食べるけどな」
たく、千万喜は後で説教だな。九条が一所懸命作ってくれた弁当を見せびらかすんじゃない、ってな。
さて、肝心の味の方は、と。
う、、、。美味い。
こ、これは革命か!?
今までメシは自分で作ってたけど、こんなに料理上手なら、今日から九条が料理当番決定だな。
そういやアイツのコーヒー美味過ぎだったもんなぁ。

「あれ、タスキさん☆ どちらへ?」
腰を上げたオレに千万喜が目ざとく訊いてきた。
「ん? ちょっとお茶買ってくらぁ」
「それならボクが買ってきますよ☆」
「いいよ。おまえはそいつらのお相手をしてなさい」
オレは錦と佐伯と春日達を顎で指示した。
「なんだよ、そいつらって~」と錦が不満気に言う。
「うるせー。その他一同よりはいいだろ」
オレはそう言い捨てて、席を外した。
それでもついてきたそうな顔をしていた千万喜は放っておいた。
うん、甘やかすのは良くない良くない。
って、オレは親か?

校舎の一階まで下りて、自販機でお茶を買った。
ゴトン、と大きな音を響かせて、ペットボトルが落ちてきた。
それを取り出しながら、フウと大きな溜息をつく。
オレの周りも随分賑やかになったもんだ。
「なんだよ腰曲げて溜息ついて、ジジ臭ぇ~」
振り返ると、そこには奇杵襲と奇杵語の双子の兄弟が居た。
「なんだ、おまえらいつも一緒に居るのかよ」
オレはペットボトルのキャップを開けながら言った。
「兄さんと一括りにされるのは心外だな」
弟の語の言葉に「なんで!?」と心底驚いてツッコミを入れる兄の襲。
「相変わらずおもしれーね、おまえ等」
「面白いのは兄さんの顔だけだよ」
「そうそう、みんな笑うんだよな、オレの顔見て・・・ってオイ!!」
やっぱりいつものノリだ、この兄弟。
「ていうかさ、おまえ等フツーに学校来てんだな」
「普通もなにも、オレたちはれっきとした高校生だ」
兄の襲が勇んで言った。
つーか声デカイ。
「なに? 御祖家の人間は学校に来なくてもいいとでも思った?」
弟の語が表情1つ変えずに返す。
「いや、そういう意味じゃないんだけど、なんつーか、お前等の一般的な学園生活とは違った側面しか見てないからさ、こうして日常の一コマを共有してると、面白いなってことだよ」
「ふーん、ボクもそう思ってたよ、君に対してね」
けっ、言ってくれるぜ。ちょっと見ない間にまた皮肉屋にもどっちまった。
可愛くねぇなー。
「ま、その内またお世話になるかもしんねーしな、その時はよろしく頼むわw」
「どういう意味だよそりゃ」
襲がマジっぽく低い声で言った。
ん? どうした急に雰囲気が変わった・・・、あ、そういうことか。
「兄さん黙って」
語が冷静に、だけど毅然とした態度でこちらを睨む。
「・・・・、何か知ってるの?」
「いや、社交辞令のつもりで言ったんだけど、気にすんな。今のオレは基本的に不干渉だよ」
オレはそう言ってその場を立ち去った。
面倒な事になる前にな。
うわー、背中に双子の視線を痛いくらいに感じるぜ。
まったく、まだまだ若いな。
早く屋上戻ろっと。



明けました

先月はまったく日高見を更新できなくて申し訳ありませんでした。
今年はせめて隔週更新は維持していきたいです。
もちろんそれ以上出来ればよいのですが。
今後とも宜しくお願いいたします。

2013 藤巻舎人 

私立日高見学園(15) 瓜生襷

「よー、朝から揃ってるねー」
錦がニヤニヤしながら寄ってきた。
「揃ってるもなにも、席が隣りなんだっつーの」
朝の挨拶代わりにオレは言った。
「ハイハイ。おお、今日も春日はカワイイなー」
そう言って錦は春日の頭を撫でる。
春日の奴、最近可愛がられキャラだな。
ていうか、顔を赤らめるな春日。
「なんか春日いじってると、なんかこう、ムラムラっとくるよな~。食べちゃいたいつーか、襲っちゃいたい? みたいな?」
そこまで欲求不満気な顔で言われると冗談に聞こえないぞ、錦。
今にも春日を犯しそうな勢いだ。
「錦、春日が引いてるぞ」
「なんでだよー。そんなことないよなー、春日ー」
錦は春日に顔を近づけ、チューを迫る。
こいつ酔っ払いのオッサンか。
それ以前に春日、もっと嫌がれ。
なんだその錦君にだったらキスされてもイイよ、みたいな顔は。
まんざらでもない、みたいな顔は!!
むしろ嬉しい、みたいな顔は!!

「ほぉぉー、朝からお盛んだなー、ニシキー」
そんなところに運悪くやってきた佐伯は、若干顔を引きつらせている。
「お、お、おーっとぉー!! 主税じゃん!! なにがどうした!? なにがあった!?」
驚いて飛び退く錦。
なにがどうしたのはお前の方だ。
滅茶苦茶キョドってんじゃん。
「錦と春日はホント仲いいよな~」
佐伯が春日の頭を背後からぽんぽん撫でる。
「お、おお。俺達はスゲー仲いいよなー? 春日ぁー」
「それじゃオレも春日と仲良くしよーかなー」
佐伯は錦を挑発するように春日を抱き締める。
「お、あ、なんか、ソレ、すっげー反則っぽいんだけど!?」
なんともわかりやすく動揺する錦。
「なにが反則なんだ? なぁ、カ・ス・ガ♪」
佐伯が耳元で囁くと、春日は顔を真っ赤にしてゾクゾクと体を震わせ、「あぁん」と甘い声を漏らした。
「く・・・、かっ、かすがぁ・・・」春日の喘ぎ声を聞いて一瞬身を凍らせていた錦。「カスガぁぁぁぁー!! ヤラせてくれぇぇぇー!!!!」
抑えきれないその想い、いや欲望。
背後から佐伯に抱きとめられている春日に、錦は正面から抱き締めに走った。

「ストォォォーーップ!!! そこまで!!!」
オレは前に出て、レスリングのタックルみたいに春日に襲いかかる錦を足蹴にしてその突進を止めた。
そして錦と春日と佐伯の頭を順に一発ずつ引っ叩いてやった。
「おまえら、いい加減にしろ」
「なななんでだよ~」叩かれた頭を抑えながら泣き言を言う錦。「俺はただ健全で健康な高校生男子の自然な好意の発露を・・・」
「好意? 性行為の間違いじゃないのか?!」
佐伯が突っかかる。
「ばばばば、バカッ。お、俺はそんなんじゃぁ!!」
「明らかに動揺してるよな、錦は。やっぱお前は春日のことやぁらしい目で」
春日を更にぎゅっと抱き締める佐伯。
こいつまだ抱き付いてたのか、アホだな。
「ちがっ、いや、そうじゃなくて、そりゃ、春日のこと、好きだけど・・・」
「好きなんだろ?」
「だから、春日はカワイイし頑張り屋だし素直だし・・・」
結構腹黒いけどな。
「ほら、好きなんじゃん」
「な、なんで、主税は、そんな事、言うんだよ・・・・」
追い詰められて顔を赤らめている錦が可愛く思えてきた。
ていうか、二人の痴話げんかに巻き込まれている春日に同情する。
いやいやいや、春日は2人に挟まれてなんか嬉しそうにしていた。
3人揃ってアホだったか。
救い様がない。
しかしこの微笑ましいラブコメみたいな朝の状況を、こころよく思っていない奴が1人居る訳で。
むしろそっちこそ、救いがない。

「ハイハイ、そういうコトはあいつに殺される前にやめようね~」
オレは丸めた教科書で3人の頭を再度スパコ~ンと引っ叩き、教室の後ろを指し示した。
そこには、目を怒りで燃え上がらせ、今にも飛び掛かってきそうな体勢でこちらを睨みつけている万木が居た。
「てめぇ~らぁ~、オレの春日麿にナニしてやがるぅぅぅ」
歯を剥き出しにして唸ってる。
もはや獣だ、野獣だ、魔獣だ。
錦と佐伯と春日の3人揃って顔面蒼白にして、ほぼ白目。

この後朝の教室は、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
あしからず。




私立日高見学園(14) 瓜生襷

最近はオレ、九条、千万喜、の三人で登校している。

はっきりいって、ウザイ。

千万喜はもちろん、何故か九条も意固地になって一緒についてくる。
まぁオレのチャリスピードにも、基礎的な体力がある九条は苦労しながらも追いついてくる。
千万喜に至っては息1つ乱さない。
こいつに関してはもう考えないことにしている。
いちいち突き詰めていたら日常生活に支障をきたす。
それどころか世界秩序が混乱する。

それぞれ駐輪場に自転車を停め、昇降口までくると、唐突に九条がリュックに手を入れてごそごそと何かを取り出した。
「ん・・・」
無造作に差し出されたものは・・・・?
「何アホな顔してんだよ、弁当だ。早く取れ」
「え?」
オレは呆気にとられ、言われるままに弁当の包みを受け取った。
「ホラ、おまえのも・・・」
「ええ!?」
なんと千万喜の分もあった。
「え、ちょ、なんで??」
「要らねーなら返せ」
仏頂面でぶっきら棒に言う九条。
今朝は随分キッチンに長く居るなぁと思ったら、三人分の弁当作ってたのかよ。
今朝は時間が余ったんだよ、と言い残して九条は二年生だから別の棟なので、オレ等とは逆方向へ歩いて行った。
登校してきた生徒で込み合う昇降口で、弁当を手に立ち尽くすオレ達。
「タスキさん☆ど、毒見します?」
千万喜が茫然と囁く。
「やぁだよ。ちゃんと食え」
「ハイハイ、分かってますって☆」

千万喜とはクラスが別なので、廊下で別れた。
「お昼一緒に食べましょうね☆」
なんて言ってたけど、そういや千万喜の奴、友達いるのかな?
なんか想像つかないんだけど、まぁイイか。
自分の教室に入ると、隣りの席の児屋根春日は既に着席しているのが目に入った。
オレはいつものように春日の漆黒の髪に覆われた頭を後ろから軽く叩いて挨拶をした。
「ヨーッス、春日ぁ」
「あ、おはよう、瓜生君」
黒フレームのメガネをかけた春日は、柔らかく笑った。
随分自然になってきたもんだ。
最初はぎこちなくて仕方なかったもんなぁ。
ていうか入学して一か月くらい、コイツの存在知らなかったし、隣りに居たくせに。
恐るべき存在感の無さ。
それはもう異常なレベルだった。

「錦の奴は・・・、相変わらずまだ来てないっと」
オレは呟く。
「そういえば、錦君っていつもギリギリで来るよね。家近いのに」
「ああ、あいつ新聞配達のバイトしてるからなぁ」
「ええ!? そうなの? 知らなかった!!」
春日の反応のでかさにこっちが驚いた。
ま、大好きな奴の知らない一面を知るってことは、驚きではあるか。
「あいつ、そういうコトあんま自分から言わねーけど、別に隠してる訳じゃないんだよな。だからついでに言っとくけど、あいつん家、母子家庭だからさ、家計を助ける苦学生ってなもんだな」
言い終えると、春日は無反応だった。
ていうか驚いて言葉も出ないらしい。
「あのさ、大袈裟に考えんなよ? 苦学生とか言ったけど、あいつは苦にも思ってねーんだからさ。周りが気にしすぎることはねー」
「う、うん・・・、わかった」
大分気にしているらしい。
言わなきゃよかったか?
「ま、どうしても詳しいこと知りてーんなら、錦に直接訊けよ。それが一番イイ」
又聞きはどうしても情報が錯綜するし、誤解を招きやすい。
春日は真剣な顔でうなずいた。

「けど、そんなこと、僕が訊いて大丈夫かな?」
「あのな、どうでもイイ気持ちで訊くならやめとけよ。それと、おどおどして申し訳なさそうな感じで訊くのはよせ。失礼だし、錦をイラっとさせるだけだ」
「うん・・・」
仲良くなりたい奴のことって、結構なんでも知りたいものだよな。
もっと仲良くなりたくて。
もっと親密になりたくて。
もっと近くに寄りたくて。
相手のいろんなことを知って、理解して、気持ちを思いやる。
優しくしたい、必要とされたい、求められたい、力になりたい。
お互い持ちつ持たれつ、寄り掛かって、支え合って・・・・か。
非常に甘い考えだが、魅力的ではあるよな。

「そういやさ、春日んチってどういう家族構成なんだ?」
二ヶ月近い付き合いだけど、訊いたことなかったよな。
それにコイツ寮生活だし、家遠いのか? それともなんか事情があんのか?
「えっ、いや、・・・なんていうか」
「なんだよ。なんかおかしなことでもあんのかよ」
「あの、おかしなっていうか、ちょっと複雑っていうか・・・」
春日は消え入りそうな声で、うつむいてしまった。
ていうかホントに存在が消えてしまいそうな感じだ。
「バーカ、てめぇ他人のこと知りたいくせに、自分のことは言えねえーってか? ふざけんな」
「そんなんじゃ!! そんなんじゃないんだけど、なんていうか・・・・、単純に一言では言えないっていうか・・・」
「わかったよ!! 泣くな。つい怒鳴ったりして悪かった」
オレは涙ぐむ春日の頭をくしゃくしゃと撫でてやった。
「そうだよな、15、6年だって立派な人生だ。誰にだって簡単じゃない、単純じゃない」
生きてきた時間で人を判断することは出来ない。
長く生きてたって、なにもせず、なにも学んでこなかった人間だって大勢居るんだ。
「わかるよ、ただ生きるだけで辛いことだってあるよな」
息をするようにすべてが苦痛な時だってある。
この世から消えてしまいたい時だってある。
世界が終わってしまえばいいと思う時だってある。

「いないんだ」
メガネを外して、滲んだ涙を手の甲で拭いながら、春日は呟いた。
「え?」
「僕の家族は誰もいないんだ。僕は独りぼっちなんだ」
「そっか・・・」
春日も、いろいろあるんだな・・・。
「おまえも、オレんチ来るか? もう一人くらいなら余裕あると思うぞ」
メガネ越しに赤くなった目でオレを見る春日。
表情が霧が晴れるみたいに明るくなる。
「うん、ありがとう。でも今は大丈夫。ヨロキ君も一緒だし、瓜生君だって、錦君だって、佐伯君だって、香久夜さんだって居るから。僕は独りじゃないよ」
「おお? 言うようになったじゃーん」
オレは春日の髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き乱した。
いっちょまえに成長してやがるぜ、こいつ。
って、んん? 今、香久夜って言ったか?
「よー、揃ってるねー、朝からー!!」
そこに錦が登校してきた。




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プロフィール

HN:
藤巻舎人
性別:
男性
趣味:
読書 ドラム 映画
自己紹介:
藤巻舎人(フジマキ トネリ)です。
ゲイです。
なので、小説の内容もおのずとそれ系の方向へ。
肌に合わない方はご遠慮下さい。一応18禁だす。

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